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ゾンビの坩堝【3】
ゾンビの坩堝(29)
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「なぁに騒いでんだぁっ?」
どら声に驚くと、ひん曲がったしかめっ面がそそり立っていた。奥歯の虫歯にいらつくような顔のミッチーも……さらにあちこちからうかがう、病んだマネキン人形じみた顔……自分は取っ手を握り締めた。騒ぎを起こしたとなれば、指導局から大目玉を食らう……社会復帰が遠のいたら、それだけあいつの世話をしなければならない……――
「やい」ミッチーが口を尖らせ、カンナの刃状の出っ歯を突き出す。「何やってんだよ? あ?」
「と、突然、暴れ出したんです」
そう口をついて出た。うそじゃない。こうなったのが食事のせいかどうかだって……――
「迷惑だな」
電子式ライターの着火音っぽい舌打ちをし、ジャイ公は傍観者たちを振り返った。
「おーいっ! 指導だ、指導! 来てくれ!」
北館にとどろく、どら声……マール、マール、マール……ストライプ柄のゾンビが、ふらふら、がくがく、中には壁を伝い、手すりにつかまるなどして集まってくる。五、六、七……頭数は十を超え、さらに増えていく……容姿や年齢は様々だが、近付いてくるほど顔からわずかな血色さえ薄れていくように見えた。
「しつけてやるよ」
しっしっ、とジャイ公はこちらに右手を振った。
「どいてろ」
取っ手から指が外れ、よろよろと下がる自分……見物人が集まったところで、ジャイ公はがららっと片引き戸を全開――こもっていた臭いが飛び出し、どら猫面がぐしゃと凶悪にゆがむ。
あっ!――
ぶくっとしたこぶしが青黒い顔面に炸裂し、ぶぎゃっと悲鳴が飛び散る。どしゃっと倒れた痩せぎすは足首をつかまれ、通路に引きずり出されて、蹴られてうつ伏せにひっくり返された。あの貧相な尻がわなないていた。じたばたする両手をミッチー、両足をジャイ公が押さえ、ぎゃあぎゃあわめくノラは昆虫標本さながらになる。ひどく色の悪い傍観者たちはいつになく目を大きくし、鼻の穴を膨らませて密度を高めていたが、それにもかかわらずどのウォッチも反応しない……後ずさった自分の背中が行き止まりにぶつかり、向こうから黒い影が面倒臭そうに歩いてくる。誰かが通報したのか、あるいは監視カメラ……到着した指導員は腰から手錠を取り出し、後ろ手にかけると立ち上がってノラを見下ろした。
どら声に驚くと、ひん曲がったしかめっ面がそそり立っていた。奥歯の虫歯にいらつくような顔のミッチーも……さらにあちこちからうかがう、病んだマネキン人形じみた顔……自分は取っ手を握り締めた。騒ぎを起こしたとなれば、指導局から大目玉を食らう……社会復帰が遠のいたら、それだけあいつの世話をしなければならない……――
「やい」ミッチーが口を尖らせ、カンナの刃状の出っ歯を突き出す。「何やってんだよ? あ?」
「と、突然、暴れ出したんです」
そう口をついて出た。うそじゃない。こうなったのが食事のせいかどうかだって……――
「迷惑だな」
電子式ライターの着火音っぽい舌打ちをし、ジャイ公は傍観者たちを振り返った。
「おーいっ! 指導だ、指導! 来てくれ!」
北館にとどろく、どら声……マール、マール、マール……ストライプ柄のゾンビが、ふらふら、がくがく、中には壁を伝い、手すりにつかまるなどして集まってくる。五、六、七……頭数は十を超え、さらに増えていく……容姿や年齢は様々だが、近付いてくるほど顔からわずかな血色さえ薄れていくように見えた。
「しつけてやるよ」
しっしっ、とジャイ公はこちらに右手を振った。
「どいてろ」
取っ手から指が外れ、よろよろと下がる自分……見物人が集まったところで、ジャイ公はがららっと片引き戸を全開――こもっていた臭いが飛び出し、どら猫面がぐしゃと凶悪にゆがむ。
あっ!――
ぶくっとしたこぶしが青黒い顔面に炸裂し、ぶぎゃっと悲鳴が飛び散る。どしゃっと倒れた痩せぎすは足首をつかまれ、通路に引きずり出されて、蹴られてうつ伏せにひっくり返された。あの貧相な尻がわなないていた。じたばたする両手をミッチー、両足をジャイ公が押さえ、ぎゃあぎゃあわめくノラは昆虫標本さながらになる。ひどく色の悪い傍観者たちはいつになく目を大きくし、鼻の穴を膨らませて密度を高めていたが、それにもかかわらずどのウォッチも反応しない……後ずさった自分の背中が行き止まりにぶつかり、向こうから黒い影が面倒臭そうに歩いてくる。誰かが通報したのか、あるいは監視カメラ……到着した指導員は腰から手錠を取り出し、後ろ手にかけると立ち上がってノラを見下ろした。
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