ゾンビの坩堝

GANA.

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ゾンビの坩堝【3】

ゾンビの坩堝(24)

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 148号室そばで壁と手すりに寄りかかり、休んでいるところに部屋番号とナンバーを呼び、届け物だと告げる甲高い声が車輪の音と回ってくる。そして角から、封筒や小包を載せたワゴンとそれを押すチンパンジー似の被収容者が現れ、147号室前でまた声を上げる。
「147号室、1945番! 届け物です!」
 恐れとへつらい混じりの声に片引き戸が開き、ぬうっと出てきたジャイ公はチンパンジー――チンパンからギフトボックスを受け取り、ご苦労さん、と偉そうにねぎらって引っ込んだ。チンパンは西通路を下って他の部屋に荷物を配り、手紙を渡したり逆に渡されたりしてデイルームに消えた。配達を任されているのだろう、配膳補助のコアラやメガネザルと同じく誇らしげだった。
 まだ臭うだろうが、少し寝床で横になろう……と、そのとき、さっきのギフトボックスを小脇に抱えたジャイ公がミッチーと出てきた。
「おう、キャンプやるぞ。ついてこい」
 ぱちくりするとジャイ公は、掲示板にも書いてあっただろうが、と渋い顔をし、通路の真ん中をのしのし歩いていく。ミッチーにあごをしゃくられ、自分は従うより他なかった。
 徳念を聞きながらまどろんでいるような、ぽっかりとした昼下がりのデイルーム……大型モニター前で雑談、猥談に興じるジャイ公たちからそれとなく距離を取り、顔をそらしているところに北館から一人、また一人と青味の濃い顔がふらふら、よろよろと集まってきて、視線を合わせることなく離れて並ぶ。その中には配達を終えたばかりのチンパンの他、コアラやメガネザルの姿もある。北館の被収容者、しかも男ばかり二十名弱……見回したジャイ公が、ぱんぱん、と手を打つ。
「それじゃ、キャンプを始めるぞ!」
 朝礼と同じく並んだ一同、最前列でミッチーの横に立たされた自分も注目するどら声の主は、ごつごつしたハートマークを胸の前に両手で作った。ミッチーら参加者も倣い、自分も状況を飲み込めないままこぢんまりと形作る。マール、マール、マール……――
「オーケー!」気を吐くジャイ公。「まずは、腕の曲げ伸ばしだ!」
 ハートをぐいっと頭上にやり、また胸の前、もう一度上げて、下げて……次は右上、その次は左上……キャンプとは、ブートキャンプ――エクササイズのことか……漂う眠気も吹き飛んで、辺りはくっきりとしたようだった。ハートを胸に、太ももを交互に上げて足踏み……両足を開いてスクワット……ハートを崩すなよ、とジャイ公から叱咤が飛ぶ。一本調子の徳念さえ、リズミカルにアレンジされたようだった。毎朝のリハビリ体操よりきつい……周りはふうふう言い、たびたびふらつく姿が目についたので、自分はできる方だなと熱い息をはずませた。
「努力だ、努力っ! 根性っ! 頑張れ、仲間がついてるっ!」
 唾も飛ぶ励ましにあおられ、汗ばむほど肌から青みが抜けていく気がした。辺りは酸っぱい脂臭であふれ、熱気と相まってむせそうになる。エクササイズはクライマックスから呼吸を整える段になり、ハートを思いっきり上げて息を吸い、下ろして吐き出す……もう一度深呼吸をして、胸でしっかりとハートマーク……――
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