ゾンビの坩堝

GANA.

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ゾンビの坩堝【3】

ゾンビの坩堝(18)

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「これから奉仕活動だ。ついてこい」
 ジャイ公はハンバーガーのパティっぽい背中を向け、ミッチーが無精ひげのあごをしゃくる。通路ではウーパーが腕を抱えており、ミッチーから三歩ほど後ろの自分に続いた。
 がんばろう自分、と微笑む掲示板の前には二十名前後の、うつむき加減の被収容者がばらばらにいた。重たげに曲がった背中、左右にゆがんだ背骨や骨盤、青くうっ血した感じの顔ぶれ……どれもが北館側で見かけたものだった。
「おう、集まってるな」
 顔役ぶったジャイ公が右手を上げ、ぼやっとした目が集まる。ぺこっと頭を下げ、へつらい笑いを返す者もいる。ジャイ公は品定めの目つきで一同をチェックし、監視カメラをちら見して、ぱんぱんと景気よく手を叩いた。
「それじゃ、今日も頑張っていこうか!」
 ジャイ公はこっちを振り返り、先輩風を吹かせながら説明し始めた。奉仕活動とは、有志による自主的な清掃……お世話になっている施設への感謝を表すことだった。自室掃除もその一環……心を込めてやろう、と張りきるジャイ公……それを上目遣いに見る参加者……本来これは、施設側でやることじゃないのか……――
「じゃ、担当を決めるぞ」
 ジャイ公のぶっとい人差し指の先がずいずい動き、脱衣所とシャワー室は、洗面所は、東通路は、北通路は、南館の方は……と割り振って、ミッチーがそれを繰り返し、参加者はそれぞれの持ち場にのろのろ歩き出す。
「おい、新入り!」
 かぎ爪じみたどら声に引っかけられ、自分はつい逃げ腰になった。
「お前は、トイレ掃除だ。相方の分までしっかりやれよ!」
 ちひっ、とミッチーが出っ歯をのぞかせて笑う。相方……どうやら、ノラのことらしい。自分はみじめな愛想笑いをし、共同トイレへとふらついた。通路では参加者が床を掃き、モップで壁のほこりを取り始めていたが、それらはすでにへとへとといったのろさだった。
 共同トイレ奥――掃除用具入れの中には、壁に床ほうき、ちりとり、モップ……反対側の壁には、洗濯ばさみでつるされたビニル手袋と雑巾二枚、ラバーカップがぶら下がって、下にバケツが置かれている。こういうことは、学生時代以来……振り返ると、ジャイ公が洗面台に寄りかかって現場監督風の腕組みをしていた。
「まずは、ほうきで端から掃くんだ。心を込めてな」
 緊張しながら言われた通り掃き、ちりとりでごみ箱に捨てた。続いてバケツにためた水を便器と小便器にかけ、ブラシでごしごしこする。かじかんできた手がもたつくと、しょうがないなとジャイ公が嘆息し、ブラシでこすり終わった便器を雑巾で拭いていく。すみません、と自分は恐縮した。正直、借りなんて作りたくはなかったが……便器磨きの次は、モップで床をぬっさぬっさと拭く。壁越しの向こうから、ミッチーのかさにかかった声が聞こえてくる。どうやらまたロバ先生がうろついていて、それが掃除の邪魔だからどうにかしろ、とウーパーを怒鳴っているらしい。隅々まで拭いた自分は、冷たい雑巾を絞って洗面台と角型鏡をきれいにした。
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