人を食らわば

GANA.

文字の大きさ
上 下
4 / 8

【4】

しおりを挟む
尤もこの二人が常識ある会話をしているかというと、
「で、話はついてるものだと思ってたんだけど?」
確認するようにロザリンダに問うレーゼラインに、
「話をする価値もなかったので。それに私がすることに公爵の許可は必要ありません」
と答えるロザリンダ。
「あぁそういうこと。縁切りの準備は済んでる?」
__案外そうでもなかったりするが、そこは人それぞれである。

「書類はこちらに。後は公爵にサインを貰えば完了ですわ、そのままレーゼライン様にお預けすれば早いと思いまして」
ロザリンダが言うなり、サリナがすかさず手にした書類をレーゼラインに差し出す。
「この子が一人だけ貴女が連れて行きたいって手紙に書いてた姉妹みたいに育った子?」
「はい、そうです。サリナと言います。この家で信用できるのは彼女とカエルムだけなのです、恥ずかしながら」
「酷い環境で育ったのねぇ、おまけに婚約者がコレだったなんて」
と軽く鞭にした手を引くと馬鹿その一がぐぇ、とカエルが潰れたような声をあげたが二人ともその事には頓着せずに、
「お陰で縁を切るのに躊躇う必要がなくて楽ですわ」
と会話を続けた。
「思ったより傷は深そうね……」
清清した様子のロザリンダに何を思ったのか(中身が違う人間になったとは流石に思わないので)労りの視線を向けたレーゼラインはしかし、サリナから受け取った書類に目を通すと「法的には問題ないけれどこれ、慰謝料に関する記載がないわね?」と突っ込んだ。

流石にこんなツッコみを受けるとは予想していなかったロザリンダは瞳を丸くして絶句した。
「貴女、自分をこんな目に合わせた奴らから慰謝料も取らないつもりなの?ダメよ、自分を安く見繕っちゃ」

安く見積もったつもりはない。
公爵からは罰金という名目でお金を取っていた。
馬鹿その一からもらったアクセサリーの類は売ってお金に変えておいた。
自分の手持ちの物も小振りな物を幾つか残して殆ど換金済みだ。
修道院まで自力で辿り着く手立てがなかったため、ここまで迎えに来てもらうにあたってロザリンダは高額な寄付金を手紙で約束していたが、それには今ある手持ちだけで事足りる。

「あの、寄付金の事でしたら既に「そうじゃない」、」
「え?」
「貴女の人生の先は長い。寄付金は有り難くいただくけど吊り上げるつもりはないわ。貴女が一人立ちする時、誰かを助けたい時、一番手っ取り早いのはお金よ。多くあって困るものではないわ」
「!」

そこまでは考えていなかった。
確かにそうだ。
いつかサリナがお嫁に行く時に渡そうといくつかの宝石を手元に残しはしたがそれだけだ。
ここから先は自分で冒険者になるなりして稼げば良いと思っていた。
修道院で修行する間の衣食住は保証されているがそれは他の誰かの寄付や稼ぎによって成り立っているものだ。
自分の魔力ならばすぐに外からの依頼を受けて稼いだ報酬を修道院に納められるだろうと高を括っていた。
下を向いて黙ってしまった私に、
「おい……」
と心配そうなステルンから声がかけられるが、
「私の考えが甘かったですわ!申し訳ありません、レーゼライン様!」
ばっと顔をあげて発した言葉に今度はステルンが絶句した。




*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*

真面目な子ほど、開き直ったら怖い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

視える棺―この世とあの世の狭間で起こる12の奇譚

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、「気づいてしまった者たち」 である。 誰もいないはずの部屋に届く手紙。 鏡の中で先に笑う「もうひとりの自分」。 数え間違えたはずの足音。 夜のバスで揺れる「灰色の手」。 撮ったはずのない「3枚目の写真」。 どの話にも共通するのは、「この世に残るべきでない存在」 の気配。 それは時に、死者の残した痕跡であり、時に、境界を越えてしまった者の行き場のない魂でもある。 だが、"それ"に気づいた者は、もう後戻りができない。 見てはいけないものを見た者は、見られる側に回るのだから。 そして、最終話「最期のページ」。 読み進めることで、読者は気づくことになる。 なぜ、この短編集のタイトルが『視える棺』なのか。 なぜ、彼らは"見えてしまった"のか。 そして、最後のページに書かれていたのは—— 「そして、彼が振り返った瞬間——」 その瞬間、あなたは気づくだろう。 この物語の本当の意味に。

足が落ちてた。

菅原龍馬
ホラー
これは実際に私が体験した話です。 皆さん、夜に運転する時は気を付けて下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

うろたもも

GANA.
ライト文芸
故郷に金銀財宝を持ち帰った桃太郎。しかし、大団円までの経緯が分からない。辻褄合わせをさかのぼった先の「はじまり」とは……――

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

熾ーおこりー

ようさん
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞参加予定作品(リライト)】  幕末一の剣客集団、新撰組。  疾風怒濤の時代、徳川幕府への忠誠を頑なに貫き時に鉄の掟の下同志の粛清も辞さない戦闘派治安組織として、倒幕派から庶民にまで恐れられた。  組織の転機となった初代局長・芹澤鴨暗殺事件を、原田左之助の視点で描く。  志と名誉のためなら死をも厭わず、やがて新政府軍との絶望的な戦争に飲み込まれていった彼らを蝕む闇とはーー ※史実をヒントにしたフィクション(心理ホラー)です 【登場人物】(ネタバレを含みます) 原田左之助(二三歳) 伊代松山藩出身で槍の名手。新撰組隊士(試衛館派) 芹澤鴨(三七歳) 新撰組筆頭局長。文武両道の北辰一刀流師範。刀を抜くまでもない戦闘の際には鉄製の軍扇を武器とする。水戸派のリーダー。 沖田総司(二一歳) 江戸出身。新撰組隊士の中では最年少だが剣の腕前は五本の指に入る(試衛館派) 山南敬助(二七歳) 仙台藩出身。土方と共に新撰組副長を務める。温厚な調整役(試衛館派) 土方歳三(二八歳)武州出身。新撰組副長。冷静沈着で自分にも他人にも厳しい。試衛館の弟子筆頭で一本気な男だが、策士の一面も(試衛館派) 近藤勇(二九歳) 新撰組局長。土方とは同郷。江戸に上り天然理心流の名門道場・試衛館を継ぐ。 井上源三郎(三四歳) 新撰組では一番年長の隊士。近藤とは先代の兄弟弟子にあたり、唯一の相談役でもある。 新見錦 芹沢の腹心。頭脳派で水戸派のブレインでもある 平山五郎 芹澤の腹心。直情的な男(水戸派) 平間(水戸派) 野口(水戸派) (画像・速水御舟「炎舞」部分)

視える棺2 ── もう一つの扉

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。 影がずれる。 自分ではない"もう一人"が存在する。 そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。 前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。 だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。 "棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。 彼らは、"もう一つの扉"を探している。 影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者—— すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。 そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。 "視える棺"とは何だったのか? 視えてしまった者の運命とは? この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

処理中です...