MONSTER RESISTANCE

GANA.

文字の大きさ
上 下
47 / 48
サンクチュアリ

9-2

しおりを挟む
「そうそう、そうだよなあ」
 ごろごろする溶岩石を蹴って、楽しそうにガイトが近付いてくる。
「そんなわけにはいかないよな、ええかっこしいはよ。へっ、吐き気がするぜ。うちの視聴者からもたくさんコメントが来てるぞ。てめえみたいなのが一番嫌いだ、ってな!――うおっ!」
 脇からこん棒を食らいそうになって、ガイトがよろめく。たたみかけようとして、ラルは危うくぶった切られそうになった。
「とことんムカつくブタ野郎だな! あー、すっげえ肉が食いたくなってきた。てめえから先にバラしてやるよ!――」
 ずおっ、と振り下ろされる湾曲の刃をかわし、ラルはこん棒越しに相手をにらんだ。凶暴な斬撃を右に左にかわし、飛びのいて牙をむく。空振りのたびにいら立ちを募らせ、ガイトの目尻は急上昇していった。
「このブタ野郎があっ!――ぐおっっ!」
 土塊の右こぶしが胸ぐらに直撃し、ガイトは、どすん、と尻餅をついた。虎縞ファーコート、レザーシャツが黒土で汚れている。いくらか回復した分での、ノラによる一撃だった。かっとなった金髪ロン毛頭にこん棒が炸裂、目から火花が出て、たまらず頭を抱えたところをラルは滅多打ちにした。
「この、ざけんじゃねえぞっ!――」
 ガイトから炎が噴き出し、飛びのくラルを焼き殺そうとする。炎は渦を巻いて竜巻になり、土塊の右腕をたちまちばらばらにするとノラに襲いかかった。幻影に照らされながら少女のボブヘアが、もだえる表情が溶け、サバイバルベスト、迷彩服が黒く焼けていく。ほどほどのところで炎の竜巻は獲物を吐き出し、焦げかけのあわれな姿が転がった。
「殺しやしねえ……」
 龍王之刃を地に突き刺し、支えに立ち上がって、ガイトは横たわったノラをにらみつけた。
「てめえは、オレ様のものだからな。そこんとこ、徹底的に分からせてやるぜ……」
「やめろ!」
 よろよろと、シーズァがノラの前に立つ。その視線に添って、カメラドローンがガイトを正面からとらえた。
「こんなことをして恥ずかしくないのか! いじめて、殺して、面白いのかっ!」
「面白いね。面白くてたまらないぜ。てめえには分からないだろうがな」
「そんなもの、分かってたまるか!」
 それは、叫びだった。ガイトと対峙しながら、シーズァは傷から血があふれるように叫んだ。
「視聴者の皆さん! 運営の人たち! こんな奴を許していいのか! 何もかも、この世界もめちゃくちゃになってしまうぞ!」
「うっせえんだよっ!――」
 ごおっ、と火球が飛び、ウォバリを飛び散らす。衝撃であおられ、シーズァはしたたか背中を打った。いよいよ限界が近く、水のバリアの厚み、強度は、レースカーテン並みに落ちている。それでもなお、シーズァはこぶしを強く固め、震わせた。
「……こんなこと、許しちゃいけない。こんな……」
「へっ、てめえはとことんバカだな。オレ様をよく見ろ。この伝説の武器もブランドファッションも、何もかもが視聴者のお陰なんだぜ。てめえらみたいにピーピー泣きわめくクソザコより、オレ様の方がずっとずっと、ずぅーっと人気があるんだ! 運営にとってもありがたいインフルエンサーなのさ。そういうことなんだよっ!――」
 再び放たれた火球に、ウォバリはあってなきがごとくだった。火だるまになったシーズァは地面を転がって、水魔法でなんとか消すことはできたが、もはや死にかけの虫のようだった。カメラドローンだけが宙に浮き、ガイトを撮影し続けていた。
「気持ちわりいな。カメラはこっちだけでいいんだよ」
 プレイヤーを始末すれば、カメラドローンも消える。とどめを刺そうと踏み出したガイトは、うなりを上げるこん棒を龍王之刃ではじいた。
「そうだったな、クソブタ……てめえから死ねえッッ!」
 飛びかかる火球――避けきれないと見て、真正面からこん棒が叩きつけられる。打ち返すことはできないまでも炎は崩れ、ラルは転げ回って火を消した。体毛がかなり焦げ、焼けた肉の臭いも漂った。
「まっずそうな臭いだな。まぁ、オークの肉に違いはねえ。ぶっ殺したら、さっそく焼いて――おおっと!」
 投げつけられた溶岩石の欠片をかわし、ラルをにらんで、ガイトは、はああっ、と息を吐いた。
「上等じゃねえかっ!――」
 龍王之刃を振り上げ、刃から炎が噴き上がったとき、むき出しの叫びが鼓膜をぶち抜く。そちらを見たガイトは、突っ込んでくるノラに目をむいた。激しくわめきながら、捨て身の自爆攻撃をするごとく――思わずひるんだ顔面に土塊が直撃し、ガイトは素っ頓狂な声を上げながらよろめいた。潰れた鼻から血が吹き出す。その隙を逃さず、ラルは懐に飛び込んだ。砲撃のように吠え、思いっきりこん棒を叩き込む。
 ぐおおおおおおっっっっっ―――――
 めり込んだ下腹部から、ひび割れた絶叫が迸って――股間を押さえ、どっ、と膝をつくガイト。そこで金髪ロン毛頭を、どがあっ、とフルスイングされ、黒土にまみれながらのたうち回る。そうした無様な姿もライブ配信され、コメント欄は喝采と嘲笑でいっぱいになった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...