MONSTER RESISTANCE

GANA.

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8-4

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「どういうつもりだ、クソブス。オレ様は、お前のご主人様だぞ」
「……」
「どういうつもりかって、聞いてんだよっ!――」
 火柱が狙いを変え、土塁のような頭に振り下ろされる。ひとたまりもなかった。燃えながら土塊が飛び散って――爆炎でノラは吹き飛ばされ、黒土にまみれていった。前髪はちりちり、顔や手は赤くなって、サバイバルベスト、迷彩服などもひどく焼けている。そこにずんずんと、踏みしだく足取りが近付く。
「あん?」
 ばらばらの土塊から、どうにか右腕が形作られる。そして懸命に太い指を曲げ、握り固められていく。左手で口を押さえ、前のめりで立ち上がったノラは、涙ぐんだ顔でガイトをにらんだ。
「なんだあ、その目つきは? ドールの分際でよ。やっちまうぞ、このメスガキ!」
「ぶっ!」
 左手の堰を切って噴き出し、ノラは倒れんばかりの前屈みになった。げえ、げえ、と嘔吐物を吐く。その姿をクローズアップし、ガイトは面白そうに配信した。
「ドールも吐くのか。よくできてるよなあ」
「……ど、どっかに行って」
 口元を拭って、かすれ声でノラは言った。
「はぁん? なんだってえ?」
「いなくなって!」
「てめえ、誰に口利いてんだ!」
「あんたなんか大嫌いっ!」
「なめんじゃねえぞっ!――」
 ぐわっ、と龍王之刃を振り上げた瞬間、左膝の裏に強烈な一撃――不意を突かれ、がくっ、とガイトはよろめいた。こん棒による横殴りだった。ノラにフォーカスしていたので、視聴者もラルの動きに気付かなかった。
「このブタ――」
 土塊の右こぶしが飛び、朱を注いだ右頬にめり込む。もろの右ストレートで吹っ飛び、ガイトは斜面を転がり落ちて、わめき声、カメラドローンもろとも薄霧に消えていく。
 ――
 膝をつき、あああ、とノラは号泣した。どくどくと涙があふれ、声が枯れるまで叫んで、むせび泣きに変わっていく。息を詰まらせ、あえいで、すすり泣きになって……そばに体温を感じ、ぐしょぐしょの顔を上げるとまどかな瞳があった。ラルはただ、寄り添うように立っていた。
「……ありがとう」
 鼻をすすり、何度も顔を拭って、見えない手に支えられながらノラは立ち上がった。
「シーズァさんとグレイスは……」
 横たわった巨体に目が留まって、ふらふらとノラは急いだ。ラルもこん棒片手に付き添う。グレイスは全身が焼け焦げ、ひどくただれて、とても見ていられなかった。胸は苦しげに上下し、今にも止まってしまいそうである。ノラとラルを認めた目は嬉しそうに潤み、抗おうとするかのように長い鼻が動いた。
「すぐに、すぐに治すからね」
 しかし、手からはかすかな光しか出なかった。先ほどの右こぶしで力を使い果たしてしまったのだ。かといって、癒やし水も使い切ってしまっている。
「お願い……お願い……!」
 全身から絞り出そうとするも、グレイスの息遣いは途切れがちになっていく。ラルにはどうすることもできず、瞬きせずに見つめるばかりだった。
「……誰か、助けて……グレイスを助けてください! お願いします……お願い……」
 涙ぐんだノラは、奇跡を目の当たりにした。焦げた皮膚が、醜いただれがきれいになっていく。見上げたそこにはシーズァがいて、癒やし水をどばどばかけていた。瓶が空になったら次を出し、数本を空にするとグレイスの呼吸は落ち着いた。
「シーズァさん……」
 目をしばたくノラに、シーズァは恥ずかしそうに微笑んだ。
「癒やし水を寄付してもらったんだ。ほら、ラルの分もあるぞ」
 瓶を受け取って、ラルは頭からかぶった。火傷が元通りになっていく。シーズァは自身にも癒やし水をかけ、配信画面に目をやった。
「視聴者の方からだよ。やっぱりラルが一番話題だぞ」
 確かに、ラルに関するコメントが多かった。ちびのオークが必死になっている、その姿が共感を呼んだらしい。シーズァのカメラドローンは撮影を続けていて、ノラたちにも応援コメントが寄せられている。
「あいつの配信で注目が集まって、それでこっちも、ってことさ。今までにない視聴者数だよ」
「……ここまでしないとダメなんですか」
「えっ?」
 聞き返すシーズァにうつむき、ノラは唇をかんだ。
「ずっと助けを求めてきたじゃないですか。必死に頑張って、死にそうになって、それでようやく……」
 切なげな涙のにおいに、ラルは、ふうっ、と深いため息をついた。そうだな、とシーズァがうな垂れるようにうなずく。
「……鈍すぎるんだよ、みんな」
「それで、どれだけ犠牲になったんですか。エリーザさんたちだって、助けてあげるべきだったんです。あんなこと、やめさせなきゃいけなかったんです」
「ノラ……」
「鈍いからモンスターは殺され、ドールはおもちゃにされる。ひどいです。ひどすぎます」
 そう吐き出して、ノラはカメラを恨めしげににらんだ。それに批判コメントがいくつか寄せられる。そのことを黙って、シーズァは話題を変えた。
「もうちょっとで頂上だ。また追っ手が来るかもしれない。急ごう」
 シーズァは予備のカプセルを出し、心配しなくていい、ゆっくり休むように、と言い聞かせてからグレイスを収容した。ふんっ、と意気込んで、ラルがぶっといこん棒を担ぐ。小さな足跡の後から、ノラ、ライブ配信を続けるシーズァ――癒やし水で傷は治っているが、かなり消耗しているので、メガギガドリンクを飲んでも足は棒そのもの。それを斜面に突き立て、はやる心を抑えつつペースを守っていく。一歩ごとに強まる、天上の聖なる輝き……少しずつ、少しずつ近付く頂……それにつれて、抑えようとしても抑えきれずに足は速まった。未踏の独立峰、その上空に揺らめく聖域――視聴者のテンションも高まっていく。そして、ついに――
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