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自業自得
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それは鳥のように、猫のように姿を変えながら、幹から伸びた太い枝に乗って体を上下に揺らしている。
ぞくっと寒気が立った。心臓がバクバクと音を鳴らし始める。
「どうしたの椿ちゃん?木の上に何かいるの?」
きょとんとしてるさくら。
さくらにはあれが見えないんだ。
私は、見える。
あれは、見えた者を襲う。そうカオウから聞いている。
あれの姿が猫から赤子のような形へ変わった。
全身赤黒く、血を被ってるみたいな気持ち悪い顔が、こっちを向いてる。
にたあと口が大きく裂ける。
ボキッと木の枝が折れた。腕くらいの太さの枝が落ちてくる。
咄嗟にさくらを突き飛ばした。
私の右足に落ちて激痛が走る。
「痛っ」
「椿ちゃん大丈夫!?」
あれも、目の前に着地した。
赤子の手足が長く伸び、四本足の蜘蛛のような不気味な姿になった。
異形の手指がゆっくり上がる。
恐怖で動けない私の腕を、長い爪でツーッとゆっくりひっかいた。
「…………!」
コートの袖が五センチほど引き裂かれ、腕から血が滴る。
「え?椿ちゃん!?血が出てる!何?どうしたの!?」
「に、逃げよう!」
立ち上がり、呆気に取られているさくらの手を引っ張って逃げた。
あれはしばらくその場で跳ねていた。
まるで、鬼ごっこを始める鬼みたいだ。
にたあと笑いながら一秒一秒数えるように跳ねてる。
どこへ行けばいいのかなんてわからない。怖くて仕方ない。だけど止まるわけにはいかない。
「椿ちゃん! どうしたの?」
「妖魔がいた!」
「え?」
「あいつが狙ってるのは私だから、さくらは家に帰って!」
「だめだよ。椿ちゃんを一人になんてできない」
そう言ってくれたさくらと公園から出て近くの河川敷へ降り、橋の下の草むらで身を潜めた。背が高い草は私たちを隠してくれるけど、湿っていて気持ち悪いし、臭いし、汚い。それに勝る恐怖心だけでこの場に留まる。
だけど、このままここにいていいんだろうか。私の右肩のアザの魔力というやつに惹かれてくるのであれば、隠れていてもいずれ見つかる。
「やっぱりカオウが妖魔を操っていたの?」
ぽつりとさくらがつぶやく。
「今までまったく現れなかったのに、カオウと喧嘩した途端現れるなんて、不自然すぎない?」
「その可能性もあるけど……でも、私のせいでもあるの」
「どういうこと?」
「……今、あのお守りの宝石を持ってないの」
「え!?」
「だって、ミスコンの衣装、しまうところがないんだもの。あれから全然見てないし、ミスコンの間くらいなら大丈夫かなって思って」
着替える前にカオウを見かけて逃げてしまったから、更衣室に置きっぱなしだ。
「あの石、本当に効果あったんだね。カオウが嘘ついてたわけじゃないんだ」
うつむくと、さくらが険しい顔をする。
「椿ちゃん。そもそもカオウと出会わなければ、こんな目に合わなかったんだよ? ついていく気がないなら、許しちゃだめだよ」
「そうだけど、さっきカオウをすごく傷つけちゃったのが気になって」
「甘い! もう! そういうとこは前世と変わらないんだね」
「そういうとこって?」
「前世のときも、カオウが何しても結局許しちゃってたんだよ。代わりに私が怒ってたんだから!」
目を三角にするさくら。
何されてたんだろう。
ちょっと気になったけど、前世の私とカオウのことは聞きたくないから追及せずにおく。
それより、早く安全なところへ行かないと。
草むらからそっと顔を出した。
辺りを見回し、ふと上を見る。
橋から人が逆さまにぶら下がっていた。いや、耳と鼻が尖った人のような塊が、こちらを向いていた。
一瞬で総毛立つ。
それは私と目が合うとニタァと笑い、体中から赤黒い液体をだらだら垂れ流し始めた。垂れた液体は地へ落ちる前に固まっていき、鳥の形になる。
鳥がばさりと羽を大きく広げた。
一直線に私に向かって滑降する。
足がガクガクして動けない。
逃げ出せたとしても、確実に追いつかれる。
ギュッと目を瞑り、心の中で叫ぶ。
助けてカオウ!
目を固く閉じた私の耳に、ギャッという断末魔が届いた。
ゆっくり開けると、真っ二つに斬られて横たわるそれがいた。しばらくピクピク痙攣したあと、さらさらと風化していく。
「………!」
両手で口を押さえて息を呑む。
それが跡形もなく消え、残っていた人影。
私を守ってくれたのは、カオウではなかった。
黒髪の、見惚れるほど綺麗な人だった。
ぞくっと寒気が立った。心臓がバクバクと音を鳴らし始める。
「どうしたの椿ちゃん?木の上に何かいるの?」
きょとんとしてるさくら。
さくらにはあれが見えないんだ。
私は、見える。
あれは、見えた者を襲う。そうカオウから聞いている。
あれの姿が猫から赤子のような形へ変わった。
全身赤黒く、血を被ってるみたいな気持ち悪い顔が、こっちを向いてる。
にたあと口が大きく裂ける。
ボキッと木の枝が折れた。腕くらいの太さの枝が落ちてくる。
咄嗟にさくらを突き飛ばした。
私の右足に落ちて激痛が走る。
「痛っ」
「椿ちゃん大丈夫!?」
あれも、目の前に着地した。
赤子の手足が長く伸び、四本足の蜘蛛のような不気味な姿になった。
異形の手指がゆっくり上がる。
恐怖で動けない私の腕を、長い爪でツーッとゆっくりひっかいた。
「…………!」
コートの袖が五センチほど引き裂かれ、腕から血が滴る。
「え?椿ちゃん!?血が出てる!何?どうしたの!?」
「に、逃げよう!」
立ち上がり、呆気に取られているさくらの手を引っ張って逃げた。
あれはしばらくその場で跳ねていた。
まるで、鬼ごっこを始める鬼みたいだ。
にたあと笑いながら一秒一秒数えるように跳ねてる。
どこへ行けばいいのかなんてわからない。怖くて仕方ない。だけど止まるわけにはいかない。
「椿ちゃん! どうしたの?」
「妖魔がいた!」
「え?」
「あいつが狙ってるのは私だから、さくらは家に帰って!」
「だめだよ。椿ちゃんを一人になんてできない」
そう言ってくれたさくらと公園から出て近くの河川敷へ降り、橋の下の草むらで身を潜めた。背が高い草は私たちを隠してくれるけど、湿っていて気持ち悪いし、臭いし、汚い。それに勝る恐怖心だけでこの場に留まる。
だけど、このままここにいていいんだろうか。私の右肩のアザの魔力というやつに惹かれてくるのであれば、隠れていてもいずれ見つかる。
「やっぱりカオウが妖魔を操っていたの?」
ぽつりとさくらがつぶやく。
「今までまったく現れなかったのに、カオウと喧嘩した途端現れるなんて、不自然すぎない?」
「その可能性もあるけど……でも、私のせいでもあるの」
「どういうこと?」
「……今、あのお守りの宝石を持ってないの」
「え!?」
「だって、ミスコンの衣装、しまうところがないんだもの。あれから全然見てないし、ミスコンの間くらいなら大丈夫かなって思って」
着替える前にカオウを見かけて逃げてしまったから、更衣室に置きっぱなしだ。
「あの石、本当に効果あったんだね。カオウが嘘ついてたわけじゃないんだ」
うつむくと、さくらが険しい顔をする。
「椿ちゃん。そもそもカオウと出会わなければ、こんな目に合わなかったんだよ? ついていく気がないなら、許しちゃだめだよ」
「そうだけど、さっきカオウをすごく傷つけちゃったのが気になって」
「甘い! もう! そういうとこは前世と変わらないんだね」
「そういうとこって?」
「前世のときも、カオウが何しても結局許しちゃってたんだよ。代わりに私が怒ってたんだから!」
目を三角にするさくら。
何されてたんだろう。
ちょっと気になったけど、前世の私とカオウのことは聞きたくないから追及せずにおく。
それより、早く安全なところへ行かないと。
草むらからそっと顔を出した。
辺りを見回し、ふと上を見る。
橋から人が逆さまにぶら下がっていた。いや、耳と鼻が尖った人のような塊が、こちらを向いていた。
一瞬で総毛立つ。
それは私と目が合うとニタァと笑い、体中から赤黒い液体をだらだら垂れ流し始めた。垂れた液体は地へ落ちる前に固まっていき、鳥の形になる。
鳥がばさりと羽を大きく広げた。
一直線に私に向かって滑降する。
足がガクガクして動けない。
逃げ出せたとしても、確実に追いつかれる。
ギュッと目を瞑り、心の中で叫ぶ。
助けてカオウ!
目を固く閉じた私の耳に、ギャッという断末魔が届いた。
ゆっくり開けると、真っ二つに斬られて横たわるそれがいた。しばらくピクピク痙攣したあと、さらさらと風化していく。
「………!」
両手で口を押さえて息を呑む。
それが跡形もなく消え、残っていた人影。
私を守ってくれたのは、カオウではなかった。
黒髪の、見惚れるほど綺麗な人だった。
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