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思わぬ告白
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さくらが持ってきてくれていたコートを羽織って、学校の外へ出た。
近くの公園に逃げ込んで、ウィッグもコンタクトも外す。
カオウがすぐに瞬間移動して現れるかと思ったけど、そんなこともなく。私はベンチに座って心を落ち着かせていた。
「大丈夫?」
さくらがペットボトルのお茶を差し出す。
礼を言って受け取り、すでに少し空いている蓋をジーっと見つめた。
「どうしたの?椿ちゃん」
「さくらって……すごく気が利くよね」
「何? 急に。おだててもデザートはありませんよ」
「だって、いつも蓋開けてから渡してくれるじゃない」
「椿ちゃん最初の一捻りでよく手間取ってるから」
にこっと微笑むさくら。よくご存知で。
「他にもいろいろ助けてくれるよね。コンテストの衣装も率先して作ってくれるし。いつも私、さくらに頼ってばかり」
「それは……」
さくらは何か言いかけて途中で口を閉じた。
訝しんで続きを待ったけれど、「なんでもない」と首を振る。
「そんなこと気にしなくていいの。それより、これからどうするの? カオウが諦めると思えないけど」
「うーん……兄に相談してみる」
「そうだね。お兄さんなら説得してくれるかも」
あっさり頷くさくらに違和感を覚えた。
「あれ? さくら、カオウと兄さんが知り合いってどうして知ってるの?」
「あ」
「あ?」
「あー」
「あー?」
「あははははははは」
明らかにぎこちない笑いを発する。
「さくらさん?」
「ナンデショウツバキサン」
「何か隠してます?」
「ナニモカクシテマセンヨ」
これは完全に隠してるね。
「さくら。話して」
目を細めて軽く睨むと、さくらは観念したように項垂れた。
「実は……私にも前世があったようです」
「え!?」
「最近変な夢を見るようになったの。ラノベの読みすぎかなあと思っていたんだけど、どうも違う気がして」
「どんな夢?」
「お城で仕事してる夢」
「仕事ってどんな?」
さくらはやや上目使いで私と目を合わせる。
「侍女。私、椿ちゃんに仕えていたみたい」
「へ?」
つい間の抜けた声を漏らすと、さくらはうつむいて両手で顔を覆った。
「どうりで私、椿ちゃんの世話が焼きたくて仕方ないんだわ」
「ふぇ?」
「初めて会ったときから知ってるような気がしたのも、つい目で追ってしまうのも、前世からの縁だったのよ」
「そうだったの?」
そんなに私のこと気にしてくれていたのかと嬉しいような、恥ずかしいような気分になった。
でもふと、疑問がわく。
「玲央はさくらのこと気づかなかったのかしら」
「まだ少ししか思い出してないけど、私と玲央は前世では会ったことないんだと思う」
「そっかあ。あ、兄さんが言ってた前世からの知り合いって、さくらも含まれていたのかな」
「うん、たぶん。お兄さんは陛下なのよね?」
「へ、陛下!?」
「皇帝だったんでしょ?」
「そうらしいけど……陛下って」
「椿ちゃん、鼻ヒクヒクしてるよ」
「だ、だって。さくらが陛下って言うんだもの」
だめだ。ファンタジーに出てきそうな皇帝の格好をした兄を想像したら笑けてきた。
王冠とか! マントとか! 魔法使ってる姿とか!
私がクスクス笑うと、さくらもつられて笑い始める。
さっきまでの暗い気分が晴れていく。
やっぱりさくらといると落ち着くな。これが前世からの縁のおかげなのなら、少しは感謝してもいいかもしれない。
もしかしたら。
カオウのことも、恋人になった後に前世のこと知ったとしたら、運命だって素直に受け入れていたのかも。
そう、思った。
「そういえば、教室から逃げるときカオウになんて言ったの?」
カオウがあんなに驚くほどのことってなんだろう。
問いかけられたさくらはニヤリと笑った。
「椿ちゃんが嫌がることしたら、アベリア様が怒るよって言ったの」
「アベリア様?」
「カオウが一番苦手だった人の名前。私の上司みたいな人よ。あー。アベリア様もこっちに生まれ変わってないかなあ」
会いたいなあとしみじみつぶやいたさくらは、私の目を正面から捉え、優しい微笑を浮かべる。
「椿ちゃんも、アベリア様が大好きだったのよ。他にも侍女が二人いてね……」
さくらが嬉々として夢の内容を話し始めたとき。
頭上の木の枝からガサッという音がした。
葉っぱがいきなり複数枚ぱらぱら落ちる。
何事かと見上げて……体が凍り付いた。
赤黒い不気味な異形の何かがいた。
近くの公園に逃げ込んで、ウィッグもコンタクトも外す。
カオウがすぐに瞬間移動して現れるかと思ったけど、そんなこともなく。私はベンチに座って心を落ち着かせていた。
「大丈夫?」
さくらがペットボトルのお茶を差し出す。
礼を言って受け取り、すでに少し空いている蓋をジーっと見つめた。
「どうしたの?椿ちゃん」
「さくらって……すごく気が利くよね」
「何? 急に。おだててもデザートはありませんよ」
「だって、いつも蓋開けてから渡してくれるじゃない」
「椿ちゃん最初の一捻りでよく手間取ってるから」
にこっと微笑むさくら。よくご存知で。
「他にもいろいろ助けてくれるよね。コンテストの衣装も率先して作ってくれるし。いつも私、さくらに頼ってばかり」
「それは……」
さくらは何か言いかけて途中で口を閉じた。
訝しんで続きを待ったけれど、「なんでもない」と首を振る。
「そんなこと気にしなくていいの。それより、これからどうするの? カオウが諦めると思えないけど」
「うーん……兄に相談してみる」
「そうだね。お兄さんなら説得してくれるかも」
あっさり頷くさくらに違和感を覚えた。
「あれ? さくら、カオウと兄さんが知り合いってどうして知ってるの?」
「あ」
「あ?」
「あー」
「あー?」
「あははははははは」
明らかにぎこちない笑いを発する。
「さくらさん?」
「ナンデショウツバキサン」
「何か隠してます?」
「ナニモカクシテマセンヨ」
これは完全に隠してるね。
「さくら。話して」
目を細めて軽く睨むと、さくらは観念したように項垂れた。
「実は……私にも前世があったようです」
「え!?」
「最近変な夢を見るようになったの。ラノベの読みすぎかなあと思っていたんだけど、どうも違う気がして」
「どんな夢?」
「お城で仕事してる夢」
「仕事ってどんな?」
さくらはやや上目使いで私と目を合わせる。
「侍女。私、椿ちゃんに仕えていたみたい」
「へ?」
つい間の抜けた声を漏らすと、さくらはうつむいて両手で顔を覆った。
「どうりで私、椿ちゃんの世話が焼きたくて仕方ないんだわ」
「ふぇ?」
「初めて会ったときから知ってるような気がしたのも、つい目で追ってしまうのも、前世からの縁だったのよ」
「そうだったの?」
そんなに私のこと気にしてくれていたのかと嬉しいような、恥ずかしいような気分になった。
でもふと、疑問がわく。
「玲央はさくらのこと気づかなかったのかしら」
「まだ少ししか思い出してないけど、私と玲央は前世では会ったことないんだと思う」
「そっかあ。あ、兄さんが言ってた前世からの知り合いって、さくらも含まれていたのかな」
「うん、たぶん。お兄さんは陛下なのよね?」
「へ、陛下!?」
「皇帝だったんでしょ?」
「そうらしいけど……陛下って」
「椿ちゃん、鼻ヒクヒクしてるよ」
「だ、だって。さくらが陛下って言うんだもの」
だめだ。ファンタジーに出てきそうな皇帝の格好をした兄を想像したら笑けてきた。
王冠とか! マントとか! 魔法使ってる姿とか!
私がクスクス笑うと、さくらもつられて笑い始める。
さっきまでの暗い気分が晴れていく。
やっぱりさくらといると落ち着くな。これが前世からの縁のおかげなのなら、少しは感謝してもいいかもしれない。
もしかしたら。
カオウのことも、恋人になった後に前世のこと知ったとしたら、運命だって素直に受け入れていたのかも。
そう、思った。
「そういえば、教室から逃げるときカオウになんて言ったの?」
カオウがあんなに驚くほどのことってなんだろう。
問いかけられたさくらはニヤリと笑った。
「椿ちゃんが嫌がることしたら、アベリア様が怒るよって言ったの」
「アベリア様?」
「カオウが一番苦手だった人の名前。私の上司みたいな人よ。あー。アベリア様もこっちに生まれ変わってないかなあ」
会いたいなあとしみじみつぶやいたさくらは、私の目を正面から捉え、優しい微笑を浮かべる。
「椿ちゃんも、アベリア様が大好きだったのよ。他にも侍女が二人いてね……」
さくらが嬉々として夢の内容を話し始めたとき。
頭上の木の枝からガサッという音がした。
葉っぱがいきなり複数枚ぱらぱら落ちる。
何事かと見上げて……体が凍り付いた。
赤黒い不気味な異形の何かがいた。
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