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彼の瞳に映っているのは

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 カオウとばっちり目が合ってしまった。
 彼は倒れた私と鏡を見て、私がさっき何をしたか悟ったようだ。
 
「……思い出したのか?」

 期待を込めた眼差し。
 私は逃げようとしたけれど、強く抱きしめられる。

「思い出したんだな?」

 カオウの顔が喜びで溢れていく。

「椿!」

 ギュウっとさらに強く私を抱きしめてから、深い口づけをした。
 私は必死に顔を動かして唇を離す。

「カオウ、違う。思い出してなんてない!」
「嘘だ」
「うそじゃない。ほんとに思い出してない」
「本当ならとっくに思い出してるはずなんだ」

 カオウは私の体を反転させて後ろから抱きしめると鏡の前に座った。
 鏡の中に、別人の格好をした私が映っている。
 
「昔はよくこうやって後ろから抱きしめてたんだ」
「そんなこと知らない」

 カオウが私の右肩にある印に舌を這わせると、また頭の中で光が弾けた。
 もう見たくなくて、目を固く瞑る。

「目、開けて」
「やだ」

 目を閉じたまま顔をそらすと、カオウは私の顔を無理矢理正面へ向けた。

「ちゃんと見て。早く思い出して」
「いや!」

 頑なな私に業を煮やしたカオウが、私の胸と秘部を同時に愛撫し始めた。ゾクゾクした快感が体を貫く。

「…や……だ……」
「見ろって」

 まだそれほど濡れていない秘部の中に、無理矢理指が挿れられる。
 
「痛い! やめて!」
「じゃあ目開けて」
「いやだっ」

 強引に指を動かし始めた。指先を曲げて、私の弱いところを執拗に責め続ける。
 久しぶりの刺激が体を悶えさせた。

「……やだぁ……! 抜いて……」
「目を開ければ止める」

 秘部の突起をくにくにと弄られるたび蜜壺の入口がキュッキュッと締まる。
 少しずつ滑りのよくなってきた中を激しくかき混ぜると、ぴちゃぴちゃと水音がたった。

「はぁっ……あ……んんっ……」

 私は感じないように体中の力を入れて耐えようとしたけれど、とめどなく愛液が垂れていく。
 ぴちゃぴちゃという音が強くなり、秘部の快感も頂点にまで達して、声が漏れないよう両手で口を押さえた。

「……………!!!」
 
 ビクッと大きく体が震える。
 それでもカオウは指の動きを止めなかった。

 秘部から蜜を掻き出すように指が蠢く。スカートまで濡れ始めたのに、喘ぎを抑えられない。
 耳を舐められると再び意識が飛びそうになった。

「……あっ…ん………だめっ。また……!」

 ぐったりしてもカオウはやめない。それどころかより激しく中をかきまぜ始めた。
 次々と襲い来る快感が胸を締め付ける。

「やめて……。もう……見るから……」

 息も絶え絶えに言うと、カオウは指を抜き、力が入らなくなった体を支える。

 深呼吸して気持ちを落ち着けてから、ゆっくり目を開けた。
 でも私は顔を紅潮させて、足も開いていて、すごく卑猥な格好をしていた。咄嗟に足を閉じ、また目を瞑る。

「こんな恥ずかしいのなんて見たくないよっ」
「恥ずかしくない。よく見て」

 カオウは指で私の顔を上げた。
 またそっと目を開けて自分を見る。足は閉じたけれど、やっぱり恥ずかしい。
 それでもカオウはすごく真剣な目で、鏡に映る私を見つめていた。
 顔に触れていた指の背で頬を撫で、首筋、鎖骨、そして肩へと優しく滑らせる。
 胸のふくらみからお腹を通った手が私を抱き寄せた。
 耳元に口を寄せて、優しく囁く。

「ずっと一緒にいようって約束しただろ?」

 バチッと音がしたかと思うほど、これまでで一番大きな光が頭の中に走った。


  広大な草地が見えた。
  青い空に、金色の鱗が輝く巨大な……大蛇という言葉では足りないほど巨大な蛇が泳いでいる。
  やがて大蛇は少年に姿を変えた。
  金色の髪と瞳の少年はにこりと微笑んで、私の目の前にふわりと降り立つ……。


 瞬時に理解した。
 これは、前世の私とカオウが出会ったときの出来事だ。

 目の裏の残像を消すように何度も瞬きをしながら開けると、カオウが祈るような目で私を見下ろしていた。
 私はぼんやりした頭で、ぽつりとつぶやく。

「綺麗な金色の蛇……。あれが、カオウ?」
「椿! 思い出したんだな」

 嬉しい、と言ってカオウは私を強く抱きしめた。
 その声で我に返る。
 カオウは嬉しそうに何度も私の頬にキスして、抱きしめたり、頭や背中を撫でる。
 愛でるように。
 前世を思い出した私を。

 ギュウと胸が締め付けられ、涙が頬を伝う。

「……カオウはやっぱり、私じゃなくて前世の私が好きなんだ」

 呆然とつぶやくと、カオウが体を離した。

「オレは椿が好きだよ」
「それならどうして無理矢理思い出させようとするの? ……思い出さない私を、どうしてそんなにつらそうな目で見るの?」
「それは……」

 口を噤むカオウに、また胸が痛む。
 もう耐えられなかった。

 ドンッとカオウを押しのけて、腕の中からすり抜ける。
 でも教室の扉へ走ろうとする私を、カオウはいとも簡単に組み敷いた。体にのしかかり、両手首を掴む。

「離して!」
「ダメだ。行かせない」
「私はこれ以上思い出さないから!」
「約束しただろ」
「だからそれは、前世のことでしょ。私は知らない。」
「思い出させる。オレの世界にも来てもらう。絶対に。どんなことをしても」

 どんなことをしても?
 嫌な考えが頭をよぎる。

「……やっぱりカオウが妖魔を操っていたの? 私を怖がらせて連れていくために」
「操ってはいない」
「だけど、今はまったく現れないじゃない」
「それは椿にあげた指輪に魔除けみたいな力を付与したからだ」
「何それ。あんな石に、そんな力があると思えない。だいたい、カオウと出会うまで、危険な目にあったことないんだよ? カオウが来てから変なことが起きるようになって、付き合うようになったら起きなくなった。石の効果じゃなくて、カオウが操ってるんじゃないの?」

 胸につかえていたことを一気に吐き出した。だけど、ちっともすっきりしなかった。
 説明してくれると思っていたのに、カオウは何も言わなかったからだ。

「無言ってことは、合ってるってこと?」
「……違う」
「じゃあ、カオウは何もしてないのね?」
「…………」

 また押し黙って目を逸らした。
 気まずい空気が流れる。

「不安なことがあれば何でも言ってって言ったのに、答えてくれないんだね」
「………………」

 また無言。
 聞けばちゃんと答えてくれると思っていた。でも違ったんだ。

 熱くなっていた気持ちが冷めていく。
 隠し事するような人の世界になんて、行けるわけない。

「カオウのことなんて信じない。カオウの世界にだって、絶対行かない」

 はっきり断言すると、カオウはスッと身を起こした。
 無表情で私を見据える。冷静な態度は怒られるより怖い。
 沈黙が不穏な空気を作る。

「……椿。オレはいつでも向こうの世界へ行けるんだよ」
「え?」
「いきなり連れていくのはさすがに可愛そうだから待ってたけど。オレを拒絶するなら、今すぐ連れていく」

 サーっと血の気が引いていった。
 茜色の空はますます暗くなり、カオウの表情が見えにくい。それが余計に恐怖心を煽る。

「今すぐ連れてって、前世のこと思い出すまでどこかに閉じ込める。こっちの世界にも、二度と戻らない」

 心臓の辺りに冷たいものが流れた。
 体が小刻みに震え始める。

「ほ……本気じゃ……ないよね?」
「本気だよ。オレは椿を手放す気はない」
「やめて……」

 私は逃げようとしたけど、カオウに上に乗られていて動けなかった。
 カオウの手が私の手を掴む。

「立って」

 掴んだまま立ち上がり、私も引っ張られた。
 このままカオウは本当に連れ去る気でいる。

「カオウやめて。行きたくない。」
「行くんだよ」
「やだ! 助けて! さくら! さくらあ!」

 自由になっていた方の手でカオウの体を叩きながら、さくらの名を大声で叫んだとき。
 
 ガラッと扉が開く。

「椿ちゃん!!」
「さくら!」

 さくらは私たちの状況を見て目を見開いた。
 慌てて駆け寄り、カオウの腕をつかむ。

「カオウ! 何してんのよ!」
「向こうへ連れていく。もう戻るつもりないから」
「なっ。無理矢理連れていかないでよね!」
「なんなら、お前も連れてってやろうか」
「はあ!?ふざけないで!!そんなことしたら……」

 さくらは何かをカオウに耳打ちした。
 カオウは驚愕した顔でさくらを凝視する。

「お前、まさか」
「行こう! 椿ちゃん!!」

 さくらが私の手をとった。でも反対の手はまだカオウに捕まったまま。ぐっと力強く引っ張られる。

「椿、行くな」

 切なそうな、乞うような瞳。

 連れ去られそうになっていたのに、ズキリと罪悪感で締め付けられる。

「椿ちゃん、行くよ!」

 さくらに再度引っ張られ、私はカオウの手を振りほどいた。
 
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