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文化祭 1
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うちの文化祭は土曜日は生徒のみ、日曜日は一般公開される。
今日は日曜日。
昨日はクラスの出し物の当番以外、焼きそばやたこ焼き、チョコバナナなど定番の屋台や、お化け屋敷やなんとか喫茶とか定番の出し物をさくらと楽しんだ。
ちなみにうちのクラスは水風船釣りや輪投げなど縁日の定番を教室内でやった。
立ってるだけで目立つ玲央が客引きしたおかげか入りは上々らしい。
今日は体育館でロックバンドやらコントやらを観賞して過ごし、今はこれから始まるミスコンへ出場するため控え室となっている教室で待機していた。
すでにコスプレ衣装に身を包んだ人々が集まっているので、ここって日本ですかって疑問に思うくらいちょっとしたカオスと化している。
「椿ちゃんすっごく似合ってる! 綺麗!」
さくらが顔を輝かせて私の体をぺたぺた触る。
「ほんと、アニメの王女にそっくり」
「あんまり嬉しくない」
私はヒロインの王女と同じように白銀色のウィッグと碧色のカラコンをつけ、真っ白なAラインのワンピースを着てる。
ただ、真っ白なワンピースってだけなら清純な印象だけど、この服は胸元が大胆に開いているから結構恥ずかしい。
口をへの字にしてむすっとしていると、着替え終わった玲央が入ってきた。
玲央は主人公と同じように、金髪に金色のカラーコンタクトをつけ、いかにもファンタジーに出てくる勇者って感じの細身の黒い服を着ていた。
金髪だけど顔の凹凸がしっかりしてるから、思ったより違和感がない。
そんな玲央が、私を見るなり目を丸くする。
「これは……想像以上だな。前世のお前そのもの」
下から上へ舐めるように見てくる。
「……胸は今の方があるな」
「変態!」
耐えられなくなって薄手のコートを羽織ろうとした。
けれど、その手は玲央に止められる。
手首をぐいっと引っ張られ、反対の手が腰に回った。
つまり、抱き寄せられた。
「ちょっ……ちょっと玲央! 離してったら!」
「ヤバイな、今のお前」
玲央の眼差しが熱い。
でもいつもと違って金色の眼をしているからか、すごく胸がそわそわした。
しかもなんだか、段々玲央の顔が近づいてくる。
「れ、玲央。近い」
「今の椿、すげークる。つーか、刺さる」
わけわかんないこと言って腰に回した腕に力を込めた。抱き寄せられていた体がさらに密着する。手首をつかんでいた方の手は私の首の後ろにあてられ、顔を背けることもできない。
「玲音っ。もう、いい加減に……!」
唇が触れるまで、もう数センチくらいしかない……。
「ストーップ!」
突然さくらが叫んだ。助けてくれた!と思ったのもつかの間。
「そのまま! キープ!」
と訳のわからない要求をされる。
「え? な、なに?」
キョドってる私に対して玲央は至極冷静だった。
「写真撮りたいんだと。俺たちのというより、アニメの主人公とヒロインの。売りさばくらしい」
「え!?」
つまり玲央は知ってて迫ってきたってこと?
だからって息が届く距離でしばらくいるなんて無理なんですけど!?
「あー! 椿ちゃん動いちゃだめ! さっきの角度! 違う! もうちょっと近づいて!」
よく見えないけど、さくらが周りでちょろちょろ動いてる。
スマホじゃなくてガチのカメラで撮ってるっぽい。
しかも、教室にいた他の出場者たちも集まって写メり始めた。
「尊い」とか言ってる声も聞こえる。
いや、これって肖像権侵害になるんじゃないですかね?
みんな現実離れした格好をしているから、節操とか常識とかぶっとんでるんですかね?
ドキマギしていると、玲央が意地悪い笑みを浮かべた。
「ほんとにする?」
「……!!」
テンパりすぎて硬直した私に顎クイした。
女子たちの黄色い声が聞こえる。
これはさすがにやばい。
周りの期待してる感が半端ない。
「や……やめ……」
抵抗虚しく、ついに唇が触れ……る寸前、教室のドアが開いた。
「コンテスト出場の皆様。まもなく始まりますので体育館へお越しください」
コンテストのスタッフだった。
助かった!
玲央の腕の力が緩んだ隙をついて、ドンッと押し退ける。
「もう! 二人ともふざけすぎ!」
「あーん。あとちょっとだったのにぃ」
憤慨すると、さくらは物欲しそうに指を加えた。
何があーんだ!
そんなキャラじゃないでしょ!
腹が立ったので先陣を切って教室を出ようとしたとき、持っていたスマホの着信音が鳴った。
何気なく画面を見た瞬間、心臓がギュッと握られたように痛んだ。
スマホが手からすり抜けて、落ちる。
「どうしたの椿ちゃん?」
画面側から落ちたのにスマホを拾おうとしない私に、さくらが心配そうな声をかける。
でも、私は返事ができなかった。
どうしよう。
「椿ちゃん? 大丈夫?」
さくらが私の顔を覗く。それでも動けないでいると、さくらが私のスマホを拾い上げた。
まだロックは解除されたまま。そこに、SNSの内容がポップアップされてる。
「……カオウが来てるの? お兄さんと?」
さくらの問いに無言で頷く。
SNSは兄からだった。カオウと来てるという一言。
どうしよう。
来るなんて言わなかったのに。
カオウにはこの姿、見られたくなかったのに。
心臓が激しく波打っている。
嫌な予感がした。
今日は日曜日。
昨日はクラスの出し物の当番以外、焼きそばやたこ焼き、チョコバナナなど定番の屋台や、お化け屋敷やなんとか喫茶とか定番の出し物をさくらと楽しんだ。
ちなみにうちのクラスは水風船釣りや輪投げなど縁日の定番を教室内でやった。
立ってるだけで目立つ玲央が客引きしたおかげか入りは上々らしい。
今日は体育館でロックバンドやらコントやらを観賞して過ごし、今はこれから始まるミスコンへ出場するため控え室となっている教室で待機していた。
すでにコスプレ衣装に身を包んだ人々が集まっているので、ここって日本ですかって疑問に思うくらいちょっとしたカオスと化している。
「椿ちゃんすっごく似合ってる! 綺麗!」
さくらが顔を輝かせて私の体をぺたぺた触る。
「ほんと、アニメの王女にそっくり」
「あんまり嬉しくない」
私はヒロインの王女と同じように白銀色のウィッグと碧色のカラコンをつけ、真っ白なAラインのワンピースを着てる。
ただ、真っ白なワンピースってだけなら清純な印象だけど、この服は胸元が大胆に開いているから結構恥ずかしい。
口をへの字にしてむすっとしていると、着替え終わった玲央が入ってきた。
玲央は主人公と同じように、金髪に金色のカラーコンタクトをつけ、いかにもファンタジーに出てくる勇者って感じの細身の黒い服を着ていた。
金髪だけど顔の凹凸がしっかりしてるから、思ったより違和感がない。
そんな玲央が、私を見るなり目を丸くする。
「これは……想像以上だな。前世のお前そのもの」
下から上へ舐めるように見てくる。
「……胸は今の方があるな」
「変態!」
耐えられなくなって薄手のコートを羽織ろうとした。
けれど、その手は玲央に止められる。
手首をぐいっと引っ張られ、反対の手が腰に回った。
つまり、抱き寄せられた。
「ちょっ……ちょっと玲央! 離してったら!」
「ヤバイな、今のお前」
玲央の眼差しが熱い。
でもいつもと違って金色の眼をしているからか、すごく胸がそわそわした。
しかもなんだか、段々玲央の顔が近づいてくる。
「れ、玲央。近い」
「今の椿、すげークる。つーか、刺さる」
わけわかんないこと言って腰に回した腕に力を込めた。抱き寄せられていた体がさらに密着する。手首をつかんでいた方の手は私の首の後ろにあてられ、顔を背けることもできない。
「玲音っ。もう、いい加減に……!」
唇が触れるまで、もう数センチくらいしかない……。
「ストーップ!」
突然さくらが叫んだ。助けてくれた!と思ったのもつかの間。
「そのまま! キープ!」
と訳のわからない要求をされる。
「え? な、なに?」
キョドってる私に対して玲央は至極冷静だった。
「写真撮りたいんだと。俺たちのというより、アニメの主人公とヒロインの。売りさばくらしい」
「え!?」
つまり玲央は知ってて迫ってきたってこと?
だからって息が届く距離でしばらくいるなんて無理なんですけど!?
「あー! 椿ちゃん動いちゃだめ! さっきの角度! 違う! もうちょっと近づいて!」
よく見えないけど、さくらが周りでちょろちょろ動いてる。
スマホじゃなくてガチのカメラで撮ってるっぽい。
しかも、教室にいた他の出場者たちも集まって写メり始めた。
「尊い」とか言ってる声も聞こえる。
いや、これって肖像権侵害になるんじゃないですかね?
みんな現実離れした格好をしているから、節操とか常識とかぶっとんでるんですかね?
ドキマギしていると、玲央が意地悪い笑みを浮かべた。
「ほんとにする?」
「……!!」
テンパりすぎて硬直した私に顎クイした。
女子たちの黄色い声が聞こえる。
これはさすがにやばい。
周りの期待してる感が半端ない。
「や……やめ……」
抵抗虚しく、ついに唇が触れ……る寸前、教室のドアが開いた。
「コンテスト出場の皆様。まもなく始まりますので体育館へお越しください」
コンテストのスタッフだった。
助かった!
玲央の腕の力が緩んだ隙をついて、ドンッと押し退ける。
「もう! 二人ともふざけすぎ!」
「あーん。あとちょっとだったのにぃ」
憤慨すると、さくらは物欲しそうに指を加えた。
何があーんだ!
そんなキャラじゃないでしょ!
腹が立ったので先陣を切って教室を出ようとしたとき、持っていたスマホの着信音が鳴った。
何気なく画面を見た瞬間、心臓がギュッと握られたように痛んだ。
スマホが手からすり抜けて、落ちる。
「どうしたの椿ちゃん?」
画面側から落ちたのにスマホを拾おうとしない私に、さくらが心配そうな声をかける。
でも、私は返事ができなかった。
どうしよう。
「椿ちゃん? 大丈夫?」
さくらが私の顔を覗く。それでも動けないでいると、さくらが私のスマホを拾い上げた。
まだロックは解除されたまま。そこに、SNSの内容がポップアップされてる。
「……カオウが来てるの? お兄さんと?」
さくらの問いに無言で頷く。
SNSは兄からだった。カオウと来てるという一言。
どうしよう。
来るなんて言わなかったのに。
カオウにはこの姿、見られたくなかったのに。
心臓が激しく波打っている。
嫌な予感がした。
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