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信じられない私がおかしいの?
しおりを挟む同じ日の夕方、この前できなかったタコ焼きパーティーをすることになり、私とさくらはキッチンで準備していた。
すっかり仲良くなってしまったカオウと玲央は、具材や飲み物やデザートを買いに行ってくれている。
私はサラダ用にトマト(こっちの世界のトマト)を切りながら、隣でたこ焼き粉を水で溶いているさくらに話しかけた。
「そういえば、さくらたちは何してたの?」
「ミスコンとミスターコンの衣装の買い出し」
「私、約束してたっけ?」
「んーん。椿ちゃんは着るだけでいいよ。今まで通り」
ニマニマとするさくら。
さくらは服を作るのが好きで、一昨年も去年もミスコンの衣装を作ってくれた。
というか、全体をプロデュースされた。
よくわからないけど、私を着飾るのが好きらしい。
「どんな衣装か教えてよ」
「今回はひみつー。楽しみにしてて。カオウにも見せてあげるといいよ」
「それは絶対いや!」
自分でもびっくりするほど声を荒げてしまい、さくらが狼狽える。
「ど、どうしたの?」
「ごめん。……玲央から聞いてない?今回のキャラのこと」
「あー。前世と似てるってやつ?」
「うん。もしその格好した私をカオウが見たら……その……」
「興奮してヤラレちゃうかもねー」
「痛!」
さらっと言われてしまい、動揺して指をちょこっと切った。
「大丈夫!?」
「あ、うん。絆創膏貼ってくる」
傷口を洗って、リビングにある薬箱から取り出した絆創膏を貼る。
指より、胸の奥が痛かった。
カオウはやっぱり、私を通して前世の私を見てる。
前世の私はきっと、カオウを拒絶なんてしなかったんだろう。
だから私がそういう素振りを見せると無理矢理キスしたりコトに及ぼうとして、私の気持ちを飲み込もうとする。
それに、あんな辛そうな顔をするのも、私がなかなか前世を思い出さないからだ。
もし前世と同じ格好をしたら、カオウは私を皇女と思いながら抱くかもしれない。
それだけは、絶対嫌だった。
「ちょ、ちょっと椿ちゃん!?そんなに痛かったの?」
さくらが駆け寄ってきて私の顔を拭く。
自分でも知らない間に、涙で濡れていた。
怪我で泣いているんじゃないと察したさくらが、私の背中をさする。
「どうしたの? 何かあった?」
私は甘えるようにサクラに抱きつき、肩越しに呟く。
「…………私やっぱり、カオウとは向き合えないよ」
背中をさすっていたさくらの手が止まった。
「あのさ」
そう言ったきりなかなか次の言葉がないので体を離すと、さくらは眉根を寄せていた。
怒っているようにも悲しんでいるようにも見える。
「言わないでおこうと思っていたんだけど」
その切り出し方は良くないことだよね。
不安になりながら続きを待つ。
「私、見ちゃったんだ。カオウが他の女の人といるところ」
どくんと大きく心臓が波打った。
「……いつ?」
「おととい。ちょうど椿ちゃんが塾に行ってる時間帯」
「見間違いじゃないの?」
「カオウだよ? 目立つから間違えないよ。カオウは椿ちゃんのこと本気だって思ってたし、他にも知り合いがいるって聞いていたから、きっと何か事情があるんだと思って言わなかったんだ」
「何してたの?」
「喫茶店にいた。すごく楽しそうに喋ってた」
「カリンさんって人かな」
「知り合いなの?」
「顔は知らないけど、時津さんって人の奥さん。赤ちゃん産んだばかりなんだって」
「うーん。出産したばかりで、夜に出歩くなんてしないんじゃないかなあ」
「………………」
私がこれ以上何も聞かないでいると、さくらはまた私の背中をさすり始めた。
「カオウと向き合う気がないなら、早く別れた方がいいよ」
「だけど……私……」
「信用できない人と一緒にいてもうまくいくわけない。妖魔ってのだって、出会ったときは一週間に三回も現れたのに、付き合い始めた途端出なくなるなんておかしいよ」
「それは、お守りの指輪があるから……」
「それもカオウが言ってるだけでしょ。本当にそれは指輪のおかげなの? だいたい、カオウが来なければ危険な目にも合わなかったんじゃないの?」
「………………」
何も言えなくなり、また涙が流れそうになったとき、カオウたちが帰ってきた音がした。
「今日はもう止める? そんな気分じゃないでしょ」
気遣わしげに言ってくれたさくらに首を振る。
「理由を説明できない。したくない」
「いいのね?」
「うん」
わかった、と小さく同意したさくらは優しく微笑んだ。
そしてなぜか、何かをくすぐるように指をこしょこしょ動かす。
「じゃあ無理してでも笑わなきゃ気づかれちゃうよ。ほら、笑って笑って」
「ちょっとさくら!?……あっ……ははは……やっ……待って。そんなとこ……あっ……だ、だめっ」
さくらに体中をくすぐられ、耐えられず身悶える。
容赦ない攻撃に変な声がでてしまい、なぜかさくらの目が熱く潤んだ。
「やだ椿ちゃん……。すごく苛めたくなるくらいかわいい」
「な、何言ってるのさくら!!……あっ、そこ触っちゃだめっ。はははははっ」
「……お前ら、女同士でなにやってんだ?」
リビングのドアを開けて私たちのじゃれあいを見た玲央とカオウの頬が、ほんのり赤くなっていた。
色々と複雑な思いを抱えたままだったけど、とりあえずこの後もさくらのおかげで気まずくならずに済んだ。
ほんとうに、さくらには助けられっぱなしだ。さくらが男の子だったら迷わないのになあなんてことを、ちょっとだけ考える。
でも目が合うと心が乱れるのはやっぱりカオウで。
知ろうとすればするほど深まっていく謎が晴れる日は、いつか来るのかな。
その謎が晴れたら、私は向き合う勇気がでるのかな。
カオウにも、前世の自分にも。
私はそんな日が来てほしいのか、来てほしくないのか、それさえもわからなかった。
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