運命の相手だからって異世界へ連れ去られそうになっています

ゆね

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他にもいたみたいです

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 学校行事の中で、文化祭が一番好きだ。
 準備のときから学校全体がお祭り騒ぎだし、クラスのみんなと一体感が生まれるから。
 ただ、一つだけ憂鬱なイベントがある。

「今年のミスコンも椿が優勝かなー」

 お昼休み、さくらがお弁当を広げながら揶揄するように言った。

「いや、辞退したいんだけど」
「昨年優勝者は強制参加です」

 グサッと鶏肉の唐揚げを突き刺すさくら。
 
 一年生のとき、周りに担がれノリでミスコンに立候補したら優勝してしまい、二年生のときはその謎ルールのせいで強制参加させられ、まさかの連勝。
 さすがに皆も飽きるから三年連続はないだろうけど、ステージに上がらなきゃいけないから憂鬱だ。

「優勝者に何かご褒美があるならやる気出るのに」
「……そのちゃっかりさ、私は大好きよ」

 ご褒美にウインナーをくれた。
 どうせなら唐揚げがよかったなあと図々しいことを思いながら咀嚼していると、大柄の快活そうな男子、高橋玲央れおが私の隣の椅子に背もたれを前にして座った。

「じゃあ今年も優勝したら、俺が一つ何でも言うことを聞いてやろう」
「おっ。去年のミスターコン優勝者。ピーマンあげよう」
「さくら、嫌いなものを玲央にあげないで」

 玲央はさくらがお弁当の蓋に置いたピーマンをパクッと口にした。
 彼は去年のミスターコン優勝者だけあってかっこいい。綺麗というより、キリッとした目と大きな口が野性的で惹きつけられる。性格も気さくだから男女問わず人気があった。

 私の視線に気づいた玲央はニカッと笑い、

「もーらい」

 と私の卵焼きを手づかみで食べた。

「あっ。また勝手に」
「いつものことだろ」

 開き直りが甚だしい。
 彼は口の中のものを飲み込むと話をもとに戻す。

「なあ。椿が優勝したら何でも言うこと聞いてやるから、俺が優勝したら付き合おうぜ」
「嫌だ」
「即答しすぎ」

 けらけらと笑いながら頭をなでてくる。
 玲央はお昼になると毎日のようにこうしてお弁当のおかずを盗み、口説いて去って行く。
 他の女性とも親しいから、本気で言っているわけではないはずだけど。
 今日も一連の流れを終えて立ち上がろうとした玲央を、さくらがニマニマ笑って止めた。

「残念。椿ちゃんにはもう婚約者がいます」
「さくら!?」
「前世からの約束だって。ね、椿ちゃん」
「何言ってるの。冗談だからね、玲央」

 訂正しなくても前世なんてさすがに信じないかと思いながら玲央を一瞥すると、意外にも彼は真顔だった。
 探るような目で私を見返している。
 
「思い出したのか?」
「え?」

 予想外の反応に、私もさくらも目をぱちくりさせた。
 言うつもりじゃなかったのか、玲央はしまったと口を押さえる。

「なんでもない。それより俺が優勝したら付き合えよ」
 
 ポンと私の頭に手を置いて席を離れた。

 呆気にとられた私たちは顔を見合わせる。
 口火を切ったのはさくらだった。

「今の、どういう意味かな」
「何か知ってる? ……まさかね」

 あはははは、と乾いた笑いが二人の間に流れた。




 
 瞬間移動は実際に体験してしまった以上、信じるしかないんだけど、それ以外は半信半疑でいる。
 百歩譲って夢の中のことは前世で本当にあったことだとしても、さすがに異世界っていうのは信じられない。
 それに王妃って……ぷぷ。思い出してもにやけてくる。

「何ニヤけてるんだ。やーらしい」

 帰ろうと下駄箱でシューズを脱いで持ち上げると、玲央がすぐ隣に立っていた。
 
「どうしたの?」
「ちょっといい?」

 珍しく真面目な玲央に、ドキンとした。

「何?」
「ここじゃなんだから、こっちきて」
「え、やだ」
「断るの癖になってないか?」

 じとっとした目を向けられたのでふふと笑う。

「いいから来いよ」

 手を引っ張られて、着いたのは校舎裏だった。
 文化祭の準備のための角材やら何やらが雑多に置いている。
 軽トラックの真横で止まる。
 こんなところで話すなんて、良い話なわけがない。

 玲央は無理やり連れてきたくせに、話すのを躊躇っているようだった。
 しばらく逡巡してから、沈黙を破る。

「お前、思い出したのか?」
「な、なにを?」

 さっきの話の流れからすると、前世のことかなという考えが一瞬頭を過るけど、まさかね。
 ……と思ったら、そのまさかでした。

「さくらが言ってただろ。前世がどうのって」
「あれは冗談だって」

 私が笑いながら手を振ると、玲央がその手をつかんだ。

「それならカオウのこと思い出してないんだな?」
「え、カオウと知り合いなの?」
「……知ってんじゃねえか」

 はあ、と深いため息をつく。

「会ったのかカオウと」
「うん。玲央はどうしてカオウのこと知ってるの?」
「カオウを知ってると言うか、前世でお前と恋人だったことを知ってるんだよ」
「うん?」
「俺も前世はお前たちと同じ世界にいたから」

 真顔で告げられて、ポカンとなる。

「……最近流行ってるの?前世設定」
「んなもん、流行ってたまるか」

 玲央が呆れた顔をする。

「前世のことはカオウから聞いたのか?」
「聞いたは聞いたけど」
「信じてないのか」
「うーん……半信半疑……というか。玲央は信じてるの?」
「最初はリアルな夢だと思っただけだったけど」

 玲央はちらりと私を見てすぐ視線を外し、数秒顔をしかめてから、なぜか照れ臭そうに言い放つ。

「高校の入学式でお前見て、本当にあったことだって確信した」
「……え?」

 玲央は握っていた私の手を引き寄せた。
 よろめいた私を厚い胸板が受け止める。

「全部思い出したんだ。椿は前世で俺が好きだった女だ」
「…………はい?」

 前世の私ってそんなモテてたの?

「お前見つけたときめちゃめちゃ嬉しかった。前は敵同士だったけど、今回は一緒になれるかもって。なのにお前、全然俺の告白受けてくれないし」
「……私、玲央に告白された覚えないんだけど」
「はあ!? あれだけ毎日してるだろうが!」
 
 玲央は苛立たし気に私の頬を両手で挟んだ。まさかお昼のあれのこと?
 
「ええ!? あれって冗談じゃないの? 他の女の子とも仲いいじゃない」
「バカ。ただの友達だ。好きなのはお前しかいない。はあー、本当にお前、俺のこと眼中にないんだな」

 前世の方がもっと意識してくれてた……とがっくり肩を落とす。
 そんなこと言われましても。
 
 玲央は私の頬を挟んだまま上を向かせる。
 彼は憂いを帯びた目で私を見つめる。

「カオウが現れたなら、悠長にしてらんねえな」

 玲央の顔が近づいてきた。あ、これやばいかも。
 体を押し退けるけど力はやっぱり足りなくて。
 私の意思を無視して唇を捕らえようとする。
 嫌だ、もう。どいつもこいつも。

 足を思いっきり踏みつけた。

「いってえ!」
 
 手が離れた隙に逃げようとした、その時。
 顔にかかる影が動いたのでふいに見上げると、軽トラックのキャブに立てかけるように積まれていた鉄パイプがグラグラと揺れていた。
 地震かと思ったけどそうじゃない。誰かが動かしているわけでもない。
 十本以上の束が勝手に動いてる。
 鉄パイプを縛っていた紐が千切れた。
 私たちの方へ倒れようとしてる。
 もしこのまま倒れて頭に当たったらただでは済まない。
 
 動くはずのないものが動いてる非現実的な状況に意識が引き寄せられて、早く逃げればいいのに足が動かなかった。
 
「危ない!!」

 私は頭を抱え、玲央は私に覆いかぶさる。
 ギュッと目を瞑った。



 鉄パイプの倒れる音が耳をつんざく。
 けれど、体に痛みはない。
 まさか玲央がかばってケガをしたかもと焦って目を開けたけど、彼も無事だった。
 私たちは先ほどいた場所……倒れた鉄パイプよりも離れた場所にいた。
 こんなことできるのは彼しかいない。私はすぐ隣に現れた彼に微笑む。

「カオウ」
「大丈夫か?」
「うん。ありがとう」

 玲央は場所が移動したことに呆然としていたが、カオウに気づくと険しい顔をした。
 カオウも玲央を睨む。
 二人の関係がわからない私はその険悪な空気に萎縮した。

「お前、レオ?」
「ああ。お前はカオウだな。助かったから礼は言っとく。だけど、今のお前って何者?」

 カオウは一度目を伏せ、悔しそうに顔を歪める。

「人間だよ。でも、前と同じ世界にいる」

 それを聞いた玲央は嘲笑した。いつもの玲央とは違う冷たい笑み。

「ははっ。またお前だけ違うのか」
「うるさいよ。今回だって椿を渡すもんか」
「だけどお前はあっちの世界にいるんだろ。今回は俺に分があると思うけど?」

 余裕のある玲央と比べて、カオウは怒りを必死に抑えているようだった。
 ギリッと歯軋りをする。

「お前は早く元の世界へ帰れ。つーかお前、変なの連れてきただろ」
「あれは元々ここにいた奴らだ。椿をあっちの世界へ連れて帰れば問題ない」
「だから、椿はこっちの人間なんだから勝手に連れて行くなよ」

 玲央は挑発するように私の肩を抱き寄せた。

「……触んなよ」

 カオウが私の手を引っ張る。

 え、これ何のドラマ?
 ま、まさか。一生に一度は言ってみたい台詞の一つを言うチャンス?
 いやいや、ないない。
 二人とも私の気持ち無視して勝手なこと言ってるし。
 イライラする。
 
「あーもう!!」
 
 大声で叫ぶ。二人とも面食らった顔をした。

「あっちの世界とかこっちの世界とか、わけわかんない! 二人でBLの世界へ行っちまえ!」

 帰る!! と私は近くに落ちていたカバンを拾って、その場を離れた。
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