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第二章
九話
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「ぅ……ぐ、ぅぅう……」
真っ暗な静寂に、苦し気な呻き声が響いている。
誰だろう。
しばらく考えてその声の主が自分である事に気付く。
苦しい。
息が上手くできない。
肌に服が、空気が触れるだけでビリビリと痛む。
心臓が激しく脈打ち今にも破裂してしまいそうだ。
体は鉛のように重く、指先一つ動かない。
怖い。
痛くて、苦しくて、怖い………
「怖がらなくともいい。」
遠くで声がする。
耳に心地よい、澄んだ涼やかな声。
「大丈夫。大丈夫だから。」
そっと囁く声と共に、唇に吐息が掛かる。
「……私が、食べてあげる。」
その言葉と共に体を蝕んでいた苦痛は消え失せ、代わりに心地よい倦怠感だけが体に残る。
薄っすらと開いた視界にぼやけて映る銀色のシルエットに手を伸ばしたけれど、彼はその手をひらりと翻し、ゆっくりと離れていく。
「ま…って……」
縋り付いてでも引き留めてしまいたいのに体は岩のように重くその場から動かせなくて、掠れた声を上げることしかできない。
「い、かな…で……」
今にも泣き出しそうな情けない声に、彼はピタリと歩みを止めて振り返った。
暗闇に銀色の光がユラユラと揺れていて綺麗。
ボンヤリと眺める俺に微笑んで、彼はまた背を向けて歩き出した。
あぁ、行ってしまう。
置いて行かないで。
側にいて。
1人にしないで。
「アルさん!」
ガシっと、自分の手が何かを掴んだ感覚に目を覚ます。
あれ、明るい。
窓から差し込む白い日の光が見開いた眼に沁みて、反射的にギュッと瞑る。
さっきまで真っ暗だったのに、どうしてこんなに明るいんだ?
不思議に思いながらも寝返りを打った俺は、未だ霞む視界に映った光景にギョッと目を見開いた。
「じゃ、ジャンさん!?」
ベッド脇には、俺に手首を掴まれて困ったように微笑むジャンさんが椅子に腰かけていたのだ。
あれ、コレ現実?
もしかして今までのアレって夢だったの?
いや冷静になって考えたら夢しかありえないだろう、馬鹿か俺は、寝ぼけるのも大概にしろ!
彼の姿を見て即座に覚醒した脳が現状を理解した瞬間、俺はジャンさんの手をパッと放して慌てて上体を起こした。
「ご、ごめんジャンさん、俺、寝ぼけた、許して!」
「そんなに謝るほどの事ではないよ。私は気にしていないから、顔を上げなさい。」
優しく肩を押されてようやく顔を上げると、ジャンさんは笑って俺の寝ぐせを直してくれた。
「寝起きのいい君がこんなに寝ぼけるなんて、余程疲れていたんだろう。」
「ううう、ありがとう……」
寛大な言葉に感謝を述べつつ、そう言えばと思い至った疑問を口にする。
「ジャンさん、何で部屋いる?何か、あった?」
こんな早朝に勝手に部屋に入って来るなんて、何か緊急事態だろうか?
首を傾げる俺に、ジャンさんは相変わらず困ったような顔をして言った。
「実を言うと、昨晩からこの部屋に居た。」
え。
「昨晩、モブソン君から先に帰った筈の君がまだ宿に戻っていないと聞いて、町中を探し回っていたのだよ。」
え゛。
「なかなか見つからないから行き違いになっているのではと宿に戻ってみたら、君が酷く魘されていたからこうして側にいたと言う次第だ。」
え゛!?
そ、そっか、そうだよな。
確かに俺が宿に戻った頃にはモブソンと別れてからかなり時間が経っていたハズ。
アイツ、あんなに泥酔していたくせに俺が戻っているか一応は確認してくれていたのか。
「へべれけになって眠っていたモブソンを叩き起こしていなければ君の不在にすら気づけなかっただろう。」
あの野郎!
ちょっと見直して損した気分だ!
「あの……えっと、心配、掛けた。ごめんなさい。」
「いや、こうして無事に戻って来たのだから、それで何よりだ。」
「ジャンさん……」
この人優しすぎやしませんか?
いい加減おじいちゃん子になりそうだ。
なんて目頭を熱くしていると、ジャンさんが遠慮がちに口を開いた。
「だが、昨晩は一体何があったんだ?」
「う………なんて、言うか……」
昨晩の事、そのまま伝えてしまって大丈夫だろうか?
主にモブソンが。
ありのままに説明したらまた長時間の説教コース待ったなしだ。
悪漢に襲われた事まで知ったらどうなるか……
よし、ここは先輩の顔を立ててやることにしようかな。
「えっと、昨日、お店、行った。けど、気分悪くなって、先、帰った。」
「……ふむ。」
「それで、道、迷った。親切な人、俺、送ってくれた。」
「………それだけかね?」
「それだけ。」
内心冷汗を垂らしつつ頷いて見せると、ジャンさんは難しい顔をして言う。
「君は昨晩、魔素酔いを起こしていた。発熱の原因はこれだろう。」
「まそ、酔い?」
何だそれ?
首を傾げる俺に彼は続ける。
「魔素酔いは、魔素を多量に摂取することによって引きおこる疾患だ。症状は様々だが、動悸、眩暈、発熱が主とされている。体質によっては皮膚の神経が過敏になると言った症例も多いと聞く。」
何だか風邪みたいな症状だな。
「軽度なら数日ほどで回復するが、重篤なものとなれば最悪死に至る事もある。」
「死!?」
「あぁ。正直に言うと、昨晩は危うい所だった。様子を見ていなければ今頃どうなっていた事か……」
真面目な表情で告げられた言葉に、背筋がゾッと凍り付く。
ジャンさんが気づいてくれていなければ、今ごろ永眠している可能性があったのか。
しかし、この世界に来てこんな症状が出たことなんて今まで一度もなかったのに……
「原因に心当たりはないかね?」
原因。
そんな物は一つしかない。
「……………昨日、ちょっと、怪我した。それを、魔法で、治してもらった。」
俺には魔素を分解するための魔核が備わっていない。
そんな体に魔素や魔力を流し込んだ時、俺の体はそれを受け入れることが出来るのか。
昨晩の苦痛が、その答えなのだろう。
いや、しかしアルさんから治癒魔法を掛けられた時は何ともなかったはず。
それなのにどうして今回に限って……?
「トラタミエント。」
「え?」
「君に治癒を掛けた者はそんな呪文を口にしただろう。」
「うん。」
「ならばそれは魔法ではなく、魔術だ。」
??
何が違うと言うのだろうか。
「魔法と魔術の違いは、大まかに言うと魔素を用いるか魔力を用いるかと言う事にある。」
「ふぅん……??」
「魔術は己の体内の魔力を呪文によって抽出、構築し発動する術を言うが…そう万能ではない。何せ生物の保有できる魔力量には限りがあるからな。その限りを超えるほど大それた術を行使することはまずできない。」
なるほど。
呼吸とともに体内に取り入れ魔素を魔力へと変換してるこの世界の人々は、蓄積した魔力を使い果たしたらまた魔力が溜まるまで待たなくてはいけないって事か。
なら。
「魔法は?魔術つかうとどう違う?」
「ふむ。魔法は魔力を使うまでもなく、空気中に存在する魔素を直接操って行使するのでな。魔術よりもずっと汎用性が高い上に、この世から魔素が枯れ果てない限りは行使に際限がない。」
え?
じゃあ魔法を使ったほうが断然いいじゃないか。
と、言うまでもなく、ジャンさんが首を振って当然の疑問を否定する。
「残念ながら、魔法を行使できる者など長い長い歴史上でも片手に収まる人数しか存在しない。今となってはお伽噺のような存在と思っていいだろう。」
「…………おとぎばなし。」
あれれ~、おかしいぞ?
アルさんって、俺の治療をした時、“治癒魔法”と言って俺の怪我を癒してくれたよね?
その他にも日常的に空飛んだりキッチンで火起こししたりゴミを消したり屋敷全体に永続的な清掃魔法かけてたり……
うん。
この事は黙っていよう。
この世の者とは思えないくらい美しい魔法使いが居ると言ったって信じてもらえるとはとても思えない。
「すっかり話がそれてしまったが、体調に問題はないかね?」
「……あっ、うん、今、元気。」
「それは良かった。」
安堵して微笑むジャンさんに、胸が痛む。
姿の見えない同僚を案じて町中探し回った挙句、帰ってみればその探し人は呑気にベッドで寝ていた、なんてエルボードロップを極められても文句は言えない。
だと言うのに彼は一晩中俺の看病をしてくれていた上こんなに気遣ってくれているのだ。
罪悪感を抱くなと言う方が難しい。
「あの……ジャンさん、本当、凄く、ごめんね。」
「謝る必要はない、私が好きでやったことだ。それに、謝罪よりも感謝された方が私は嬉しいよ。」
「!あ、ありがとう!」
「ああ。」
彼はニッコリと笑って、頭を撫でてくれた。
お、おじいちゃん……!
炸裂するおじいちゃん力に感動して目を輝かせる俺から手を放し、ジャンさんは椅子を引いて立ち上がる。
「さて……私は仕事があるからそろそろ行くとしよう。」
「そっか、決算。」
「ああ。だが、今日やり切れば後は本部の人々に任せて構わないそうだから、頑張って来るよ。」
「ん。頑張って。」
「ありがとう。熱がぶり返してはいけない、君はゆっくり休んでいなさい。」
「はい。」
もう一度頭を撫でて部屋を出て行こうとした彼は、「あ、そうだ。」と呟いてドアノブに手を掛けたまま半身だけこちらを振り返った。
「仕事が終わったら昨晩何があったか、もう少し詳しく聞かせてもらうからね。」
パタン。
静かに閉じた扉をジッと見つめる。
「ついに俺もジャンさんの説教デビューか……」
ハハハ……と乾いた笑みを零し、そして深い溜息を吐く。
キャラバン内ではジャンさんの説教は『長くて怖い』で有名だ。
知らない奴なんていない。
特に一番年が近くてよく話しかけてきてくれるブソンはあのいい加減で軽薄な性格からこの説教の餌食になる事も多く、いかにジャンさんの説教が恐ろしいか散々と愚痴を聞かされてきた。
「やっちまったなぁ……」
でも仕方ない。
今回は本当に心配と迷惑を掛けてしまったのだから、何時間だろうと甘んじて受けるべきだろう。
「でもどうか、正座だけはさせられませんように。」
この世界に正座があるかは知らないが、一先ず祈っておこう。
真っ暗な静寂に、苦し気な呻き声が響いている。
誰だろう。
しばらく考えてその声の主が自分である事に気付く。
苦しい。
息が上手くできない。
肌に服が、空気が触れるだけでビリビリと痛む。
心臓が激しく脈打ち今にも破裂してしまいそうだ。
体は鉛のように重く、指先一つ動かない。
怖い。
痛くて、苦しくて、怖い………
「怖がらなくともいい。」
遠くで声がする。
耳に心地よい、澄んだ涼やかな声。
「大丈夫。大丈夫だから。」
そっと囁く声と共に、唇に吐息が掛かる。
「……私が、食べてあげる。」
その言葉と共に体を蝕んでいた苦痛は消え失せ、代わりに心地よい倦怠感だけが体に残る。
薄っすらと開いた視界にぼやけて映る銀色のシルエットに手を伸ばしたけれど、彼はその手をひらりと翻し、ゆっくりと離れていく。
「ま…って……」
縋り付いてでも引き留めてしまいたいのに体は岩のように重くその場から動かせなくて、掠れた声を上げることしかできない。
「い、かな…で……」
今にも泣き出しそうな情けない声に、彼はピタリと歩みを止めて振り返った。
暗闇に銀色の光がユラユラと揺れていて綺麗。
ボンヤリと眺める俺に微笑んで、彼はまた背を向けて歩き出した。
あぁ、行ってしまう。
置いて行かないで。
側にいて。
1人にしないで。
「アルさん!」
ガシっと、自分の手が何かを掴んだ感覚に目を覚ます。
あれ、明るい。
窓から差し込む白い日の光が見開いた眼に沁みて、反射的にギュッと瞑る。
さっきまで真っ暗だったのに、どうしてこんなに明るいんだ?
不思議に思いながらも寝返りを打った俺は、未だ霞む視界に映った光景にギョッと目を見開いた。
「じゃ、ジャンさん!?」
ベッド脇には、俺に手首を掴まれて困ったように微笑むジャンさんが椅子に腰かけていたのだ。
あれ、コレ現実?
もしかして今までのアレって夢だったの?
いや冷静になって考えたら夢しかありえないだろう、馬鹿か俺は、寝ぼけるのも大概にしろ!
彼の姿を見て即座に覚醒した脳が現状を理解した瞬間、俺はジャンさんの手をパッと放して慌てて上体を起こした。
「ご、ごめんジャンさん、俺、寝ぼけた、許して!」
「そんなに謝るほどの事ではないよ。私は気にしていないから、顔を上げなさい。」
優しく肩を押されてようやく顔を上げると、ジャンさんは笑って俺の寝ぐせを直してくれた。
「寝起きのいい君がこんなに寝ぼけるなんて、余程疲れていたんだろう。」
「ううう、ありがとう……」
寛大な言葉に感謝を述べつつ、そう言えばと思い至った疑問を口にする。
「ジャンさん、何で部屋いる?何か、あった?」
こんな早朝に勝手に部屋に入って来るなんて、何か緊急事態だろうか?
首を傾げる俺に、ジャンさんは相変わらず困ったような顔をして言った。
「実を言うと、昨晩からこの部屋に居た。」
え。
「昨晩、モブソン君から先に帰った筈の君がまだ宿に戻っていないと聞いて、町中を探し回っていたのだよ。」
え゛。
「なかなか見つからないから行き違いになっているのではと宿に戻ってみたら、君が酷く魘されていたからこうして側にいたと言う次第だ。」
え゛!?
そ、そっか、そうだよな。
確かに俺が宿に戻った頃にはモブソンと別れてからかなり時間が経っていたハズ。
アイツ、あんなに泥酔していたくせに俺が戻っているか一応は確認してくれていたのか。
「へべれけになって眠っていたモブソンを叩き起こしていなければ君の不在にすら気づけなかっただろう。」
あの野郎!
ちょっと見直して損した気分だ!
「あの……えっと、心配、掛けた。ごめんなさい。」
「いや、こうして無事に戻って来たのだから、それで何よりだ。」
「ジャンさん……」
この人優しすぎやしませんか?
いい加減おじいちゃん子になりそうだ。
なんて目頭を熱くしていると、ジャンさんが遠慮がちに口を開いた。
「だが、昨晩は一体何があったんだ?」
「う………なんて、言うか……」
昨晩の事、そのまま伝えてしまって大丈夫だろうか?
主にモブソンが。
ありのままに説明したらまた長時間の説教コース待ったなしだ。
悪漢に襲われた事まで知ったらどうなるか……
よし、ここは先輩の顔を立ててやることにしようかな。
「えっと、昨日、お店、行った。けど、気分悪くなって、先、帰った。」
「……ふむ。」
「それで、道、迷った。親切な人、俺、送ってくれた。」
「………それだけかね?」
「それだけ。」
内心冷汗を垂らしつつ頷いて見せると、ジャンさんは難しい顔をして言う。
「君は昨晩、魔素酔いを起こしていた。発熱の原因はこれだろう。」
「まそ、酔い?」
何だそれ?
首を傾げる俺に彼は続ける。
「魔素酔いは、魔素を多量に摂取することによって引きおこる疾患だ。症状は様々だが、動悸、眩暈、発熱が主とされている。体質によっては皮膚の神経が過敏になると言った症例も多いと聞く。」
何だか風邪みたいな症状だな。
「軽度なら数日ほどで回復するが、重篤なものとなれば最悪死に至る事もある。」
「死!?」
「あぁ。正直に言うと、昨晩は危うい所だった。様子を見ていなければ今頃どうなっていた事か……」
真面目な表情で告げられた言葉に、背筋がゾッと凍り付く。
ジャンさんが気づいてくれていなければ、今ごろ永眠している可能性があったのか。
しかし、この世界に来てこんな症状が出たことなんて今まで一度もなかったのに……
「原因に心当たりはないかね?」
原因。
そんな物は一つしかない。
「……………昨日、ちょっと、怪我した。それを、魔法で、治してもらった。」
俺には魔素を分解するための魔核が備わっていない。
そんな体に魔素や魔力を流し込んだ時、俺の体はそれを受け入れることが出来るのか。
昨晩の苦痛が、その答えなのだろう。
いや、しかしアルさんから治癒魔法を掛けられた時は何ともなかったはず。
それなのにどうして今回に限って……?
「トラタミエント。」
「え?」
「君に治癒を掛けた者はそんな呪文を口にしただろう。」
「うん。」
「ならばそれは魔法ではなく、魔術だ。」
??
何が違うと言うのだろうか。
「魔法と魔術の違いは、大まかに言うと魔素を用いるか魔力を用いるかと言う事にある。」
「ふぅん……??」
「魔術は己の体内の魔力を呪文によって抽出、構築し発動する術を言うが…そう万能ではない。何せ生物の保有できる魔力量には限りがあるからな。その限りを超えるほど大それた術を行使することはまずできない。」
なるほど。
呼吸とともに体内に取り入れ魔素を魔力へと変換してるこの世界の人々は、蓄積した魔力を使い果たしたらまた魔力が溜まるまで待たなくてはいけないって事か。
なら。
「魔法は?魔術つかうとどう違う?」
「ふむ。魔法は魔力を使うまでもなく、空気中に存在する魔素を直接操って行使するのでな。魔術よりもずっと汎用性が高い上に、この世から魔素が枯れ果てない限りは行使に際限がない。」
え?
じゃあ魔法を使ったほうが断然いいじゃないか。
と、言うまでもなく、ジャンさんが首を振って当然の疑問を否定する。
「残念ながら、魔法を行使できる者など長い長い歴史上でも片手に収まる人数しか存在しない。今となってはお伽噺のような存在と思っていいだろう。」
「…………おとぎばなし。」
あれれ~、おかしいぞ?
アルさんって、俺の治療をした時、“治癒魔法”と言って俺の怪我を癒してくれたよね?
その他にも日常的に空飛んだりキッチンで火起こししたりゴミを消したり屋敷全体に永続的な清掃魔法かけてたり……
うん。
この事は黙っていよう。
この世の者とは思えないくらい美しい魔法使いが居ると言ったって信じてもらえるとはとても思えない。
「すっかり話がそれてしまったが、体調に問題はないかね?」
「……あっ、うん、今、元気。」
「それは良かった。」
安堵して微笑むジャンさんに、胸が痛む。
姿の見えない同僚を案じて町中探し回った挙句、帰ってみればその探し人は呑気にベッドで寝ていた、なんてエルボードロップを極められても文句は言えない。
だと言うのに彼は一晩中俺の看病をしてくれていた上こんなに気遣ってくれているのだ。
罪悪感を抱くなと言う方が難しい。
「あの……ジャンさん、本当、凄く、ごめんね。」
「謝る必要はない、私が好きでやったことだ。それに、謝罪よりも感謝された方が私は嬉しいよ。」
「!あ、ありがとう!」
「ああ。」
彼はニッコリと笑って、頭を撫でてくれた。
お、おじいちゃん……!
炸裂するおじいちゃん力に感動して目を輝かせる俺から手を放し、ジャンさんは椅子を引いて立ち上がる。
「さて……私は仕事があるからそろそろ行くとしよう。」
「そっか、決算。」
「ああ。だが、今日やり切れば後は本部の人々に任せて構わないそうだから、頑張って来るよ。」
「ん。頑張って。」
「ありがとう。熱がぶり返してはいけない、君はゆっくり休んでいなさい。」
「はい。」
もう一度頭を撫でて部屋を出て行こうとした彼は、「あ、そうだ。」と呟いてドアノブに手を掛けたまま半身だけこちらを振り返った。
「仕事が終わったら昨晩何があったか、もう少し詳しく聞かせてもらうからね。」
パタン。
静かに閉じた扉をジッと見つめる。
「ついに俺もジャンさんの説教デビューか……」
ハハハ……と乾いた笑みを零し、そして深い溜息を吐く。
キャラバン内ではジャンさんの説教は『長くて怖い』で有名だ。
知らない奴なんていない。
特に一番年が近くてよく話しかけてきてくれるブソンはあのいい加減で軽薄な性格からこの説教の餌食になる事も多く、いかにジャンさんの説教が恐ろしいか散々と愚痴を聞かされてきた。
「やっちまったなぁ……」
でも仕方ない。
今回は本当に心配と迷惑を掛けてしまったのだから、何時間だろうと甘んじて受けるべきだろう。
「でもどうか、正座だけはさせられませんように。」
この世界に正座があるかは知らないが、一先ず祈っておこう。
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