妖狐の嫁になれと言われました。

冰彗

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一話

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 目を覚ますと最初に視界に入ったのは見慣れた天井。壁に掛けられた時計で時刻を確認すると今の時間は午前八時五分だった。

「学校っ!」

 俺は大きな声でそう言いながら慌てて上半身を起こしスマホを手に取るとロック画面に日付が表示された。今日は四月二十九日、祝日。祝日ということは大学は休み。

「慌てて損したぁ……」

 肩の力が一気に抜けてそのままベッドに横になる。

 俺の名前は三日月みかづき深桜みおう、二十歳の大学二年生。新学期が始まったばかりで毎朝ドタバタしていたせいで祝日なのに大学に行くところだった。

 このままニ度寝をしてしまおうかと考えているうちに目が冴えてしまい、眠れそうにもなかった。

 再度上半身を起こして両腕を上げて背伸びをする。眠っている間に凝ってしまった肩や腰を解しているとスマホにメッセージが届いたことを報せる通知が鳴った。

「ん?」

 スマホの画面を明るくして見てみると通知は兄からだった。

『新学期が始まったな。元気か? 母さんが心配していたぞ』

 兄である深夜しんやからのメッセージはこういう内容だった。

「兄さんは心配性だなー」

 小さな声でそう呟くと俺は器用に親指を動かしながら文字を入力した。

『元気だよ。母さんには近いうちに連絡するよ』

 メッセージを送り深く息を吐くとまたしてもピコンと通知音が鳴った。

『そうか、なら良いんだ。体調に気を付けるんだぞ』

 メッセージはすぐ返ってきてそう書かれていた。俺はそれに対して『はーい』とだけ返す。

 俺の家は両親、兄、俺の四人家族。父さんは海外赴任していて母さんはハンドメイド作家として活動しており、兄さんは会社員として働いている。

 兄さん、今日は祝日なのに仕事なのかな? 休みの日はお昼過ぎまで寝ているような人だから仕事の日以外でこんな時間に起きているわけないし。

 そんなことを考えながらぼーっとしていると外で雨音が聞こえてきた。ちらりと窓越しに外を見ると晴れているはずなのに雨が降っていた。

 こういう現象を日本ではなんて言うんだっけな。あ、そうだ。

「確か、狐の嫁入りだっけな」

 小さな声でそう呟くと先程までなかったはずの眠気に襲われてしまった。俺はその眠気に負けてしまいそのままベッドに横になり眠ってしまった。

 部屋の窓がゆっくり開いて誰かが入ってくる音にも気付かず。
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