僕を愛して

冰彗

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第一章

『第七話』

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 その日の夕方、午後五時。僕は一旦自宅へ戻り斐都の迎えに行く準備をしていた。

 途中で買い物もしたいからエコバック持って行こうかな。晩ご飯どうしようかな、斐都に聞こうかな。また雑炊って言われたら却下しないとな。

 そんなことを考えながら支度をして、家を出た。マンションから出ると丁度帰宅してきた三日月さんに遭遇した。

「心広さん……!」

「三日月さん、こんにちは」

「こんにちは、斐都くんのお迎えですか?」

「そうですけど」

「一緒に行っても構いませんか?」

「はい?」

「俺、心広さんともっと仲良くなりたいんです」

「僕はなりたくありません。あなただって嫌でしょう、子持ちのオメガなんて面倒で」

「そんなことありませんよ。心広さんはとても頑張り屋な人です」

 なんか、昔姉さんも同じこと言ってたな。『心広は頑張り屋さんだから心配』的なことを。

 そんなことを思い出していると斐都の迎えに行かなければならないことを思い出した。

「来てもいいですけど、その代わりあなたのこと詳しく教えて下さい」

「! はい!」

 三日月さんはそう言うと嬉しそうに、はにかむように微笑んだ。

 ○○○

 斐都の保育園に向かっている間に色々話を聞けた。

 三日月悠音さん、職業は会社員で実家は母子家庭。大学まではなんとか卒業して今に至る。ちなみに金髪なのも深い緑色の瞳も外国人の母親譲りなんだそうだ。

 そんなことを教えてもらっている間に斐都の保育園に着いた。

「三日月さんはここで待っていて下さい」

「えっ、どうしてですか?」

「その、三日月さんは身長が高いので子どもたちに『巨人だー』とか言って悪戯されるかもですし、怖がる子もいるかもなので」

 僕がそう言うと三日月さんはあからさまにがっかりしたような表情を浮かべた。

「大人しく待っていて下さいね」

「分かりました……」

 三日月さんにそう言い、僕は保育園の敷地内に入った。

「斐都、迎えに来たよ」

「ママ……!」

 僕を見つけた斐都は嬉しそうに笑みを浮かべると僕の方へ近寄ってきた。その姿を見た僕は嬉しくなり斐都をぎゅっと抱き締めた。

「おかえり。今日もいっぱい遊んだ?」

「うん、きょうね、ゆりちゃんと一緒におままごとして、ゆきくんといっしょにえほんよんだの」

「そっか、楽しかった?」

「うん!」

 僕の問い掛けに嬉しそうに教えてくれる斐都を見てクスッと笑みをこぼした。

「斐都、今日の晩ご飯何がいい?」

「ぞーすい」

「……雑炊以外でお願い」

「えぇ~……」

 案の定雑炊がいいと言った斐都に却下を出すと拗ねてしまった。

 そのまま斐都を抱っこして保育園の外に出ると三日月さんがしょんぼりとした様子でしゃがみこんでいた。そういえば忘れてたな。

「三日月さん、お待たせ致しました」

 しゃがみこんでいる三日月さんに声を掛けると三日月さんは目線を僕の方へ向けて嬉しそうに微笑んだ。

「いえ、待ってません!」

「でもしょんぼりされてましたよね?」

「見てたんですか!?」

「まあ、はい」

「格好悪いところ見られてしまいました」

 三日月さんはそう言うと照れたように己の頬を掻いた。

 斐都は土曜日にあった人だと分かったらしく、警戒していた。警戒している斐都に気付いた三日月さんは抱っこしている斐都に近付いた。

「斐都くん、だよね? この間はごめんね、君の大事なお母さんを怖がらせてしまって」

「……つぎしたらげんこつするからね」

 なかなか物騒だな。

 そんなことを思いながら二人のやり取りを見ていた。斐都が物騒なことを言うのでこれはどう反応したらいいのかと思ったらしい三日月さんは目線で『どういう意味ですか?』と聞いてきた。

「今回は許すけど次やったら拳骨するからね、だそうです」

「一応お許しは出た感じですかね」

「まあ一応は」

「よかった~……」

 斐都に許してもらてたのが余程嬉しかったのかホッと安堵したように深く息を吐いた。

「そうだ。心広さん、今日の夕飯ご一緒しませんか? 美味しいお店知ってるんです」

 三日月さんは突然そう言った。まるで名案だと言いたげな表情を浮かべて。

「でも……」

「この前の償いです。怖い思いさせてしまったので」

 彼はそう言うと心の底から申し訳ないと言いたげな表情を浮かべた。

 正直、どうしていいのか分からない。斐都に聞いてみよう。

「斐都、お兄さんと一緒にご飯食べる?」

「ママのごはんたべたい」

 即答だった。

「だそうですので、今回はすみません」

 僕はそう言って頭を下げ謝罪すると三日月さんは「大丈夫です。斐都くんにお許しをもらえるようにします」とちょっと頓珍漢とんちんかんなことを言った。

 内心、面白い人だな、と思いながら彼と別れた。

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