僕に構わないで

冰彗

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一話

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 意識が少し浮上してくると周りの音が少しだが感じ取れるようになる。

 外で鳴くスズメの鳴き声。車の走行音。瞼の裏からでも分かる太陽の光。そして、空腹を感じさせるベーコンとチーズの焼ける良い匂い。

 瞼をゆっくり開けると見慣れた寝室の天井が一番最初に視界に入る。もう何年も見ている朝の光景にホッと安堵の息を漏らす。

 リビングに通じる扉の向こうからは人の足音とテレビの音が聞こえてくる。恐らく朝のニュースでも見ながら朝食の準備をしているのだろう。

 上半身を起こしてベッド脇のサイドテーブルに置いている赤色の眼鏡を手に取り耳に掛けると先程よりも視界がクリアに見えた。まあこれ、伊達眼鏡なんだけどね。伊達眼鏡をするようになってから視力が悪くなったような気がする。遠くの文字が見えにくいんだよね。近視かな。

 そろそろ本格的にちゃんとした眼鏡を用意する必要があるかな。そんな事を考えていると扉を三回ノックする音が聞こえてきた。

「日和、起きてるか?」

「うん、起きてるよ」

「なら早くこっちに来いよ。朝飯はもう出来てるんだからな。あ、そうだ。飲み物は何が良い? コーヒー以外が良いならフルーツスムージーでも作ろうか?」

「そうだね。苺と牛乳、少し蜂蜜を入れたフルーツスムージーをお願い」

「分かった。早く来いよ」

 扉の向こうにいる幼馴染の夢咲ゆめさき一七三ひなみは聞きたい事だけを聞くと扉の前から居なくなってしまった。

 幼馴染の一七三と同居するようになって早数年、家事全般全く出来ない僕の代わりに一七三が食事、洗濯、掃除諸々をやってくれている。本当、至れり尽くせりって感じだ。

 一度だけ一七三の仕事が忙しい時に食事の用意をしようと思ってキッチンに入ったが指は包丁で切ってしまうわ、力加減が出来ずにまな板を真っ二つに割ってしまうわ、塩と砂糖を間違えて入れてしまうとなんとも言えない料理音痴を披露してしまった。

 その惨状を見た一七三は僕に一言、「キッチンに入るの禁止」と言ったのだ。

 あれに関しては僕もびっくりしているのだ。料理をした事がないとはいえあそこまで出来ないのは最早ある種の天才ではないだろうか。

 閑話休題。

 僕はパジャマ代わりにしているスウェットを脱ぎ外に行く時用の洋服に着替えた。腰まで伸びている桃色の髪が鬱陶しいと思う時もあるが切る気は更々ない。髪を櫛で梳かしハーフアップにする。身長があまり高くない僕の外見を鏡で見るとパッと見は女性にしか見えない。

「これはこれでどうなんだろうな……」

 自嘲的に笑みを零しながら上記を述べる。
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