1 / 13
序章
しおりを挟む
同じ学部に少し有名な人物が居る。白色に近しい白銀色の長い髪を腰まで伸ばしていて、エメラルドのように深い緑色の瞳をしたその人物の名前は八月一日立夏。名前が女性っぽいことや髪が長いこと、そして低めの身長から女性なのではと入学時に騒がれていたが正真正銘男である。
俺が抱いていた八月一日立夏の第一印象は『無口で誰とも絡まない奴』だった。
大学二年になってもずっと一人。食堂でも、授業を受けている時も一人だ。サークルにも所属していないようで授業が終わるとすぐさま大学から居なくなってしまう。
暇で長い授業を受けている時に八月一日を観察してみることにした。八月一日は授業用のノートとは別の青色の大学ノートを取り出し、そのノートに何かを書き始めた。残念なことに少し距離があったせいで何を書いているのかは分からない。
何書いてんだ?
そんなことを考えている間にいつの間にか授業が終わっており授業が終わるや否やそそくさと鞄にノートを入れると八月一日は教室を出て行ってしまった。
慌てて追い掛けると俺はあることに気付く。八月一日は、思いの外歩くのが速かった。良く言えば儚げ、悪く言えばぼーっとしているように見える八月一日が歩くのが速いとは思わなかった。
俺は小走りになりながら追い掛ける。漸く追いつき、八月一日の肩を強く握る。
「八月一日ッ、ちょっと、待てよ…!」
「……何?」
八月一日はそう言うと右耳からワイヤレスイヤホンを外すと虚無の色で染められた瞳で俺を見てきた。
「さっき、何か書いてただろ」
「授業用ノートのこと?」
「いや、それじゃなくてだな」
「じゃあ、何?」
「えっと…」
何か書いていたのは分かっていたが何を書いていたかまでは知らない。というか見えなかった。
言い淀んでいると八月一日は何も言わない俺を見て小さく溜息を吐いた。
「…もしかして、これ?」
八月一日はそう言うと鞄の中から青色の大学ノートを取り出して俺の前に差し出してきた。
「嗚呼、うん。多分これ!」
俺がそう言うと八月一日は少し悩んだような表情を浮かべた後。
「読む?」
「えっ、良いのか?」
「うん、良いよ」
八月一日はそう言うと俺にノートを渡してきた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
俺は一言そう言い、ノートをペラっと一ページめくった。
「ん? これ、設定ってやつか?」
ノートに書かれていたのは人物設定と呼ばれる類のものだった。
また一ページめくると書かれていたのは苗字や男女別の名前、海外の精霊や日本の妖怪、ドラゴンの種類の名前などなど。
姉貴が小説を書くときの資料としてこんなものを書いていた記憶がある。
「八月一日って小説書いているのか?」
「それ見ただけで小説ってよく分かったね」
「あ、嗚呼。俺の姉貴が趣味で小説書く人だったからそれに似ててな」
「ふーん、そうなんだ」
あ、少し照れた?
伏し目がちにしながら顔を俯かせてそう言う八月一日を見て俺は少しドキッとした。
姉貴が言っていた言葉を思い出す。『綺麗な人の伏し目って思わず激写したくなるくらい綺麗なんだよねぇ』と言っていた言葉を。
激写とまではいかないが写真に収めたくなるのはすごくよく分かる。
「な、なあ! 八月一日、お前の写真を撮らせてくれ‼︎」
「…えっ」
俺は思わずそう言ってしまった。対して八月一日はというと驚いたように目を見開いていた。
これが俺、月島星那と八月一日立夏の出会いだ。
俺が抱いていた八月一日立夏の第一印象は『無口で誰とも絡まない奴』だった。
大学二年になってもずっと一人。食堂でも、授業を受けている時も一人だ。サークルにも所属していないようで授業が終わるとすぐさま大学から居なくなってしまう。
暇で長い授業を受けている時に八月一日を観察してみることにした。八月一日は授業用のノートとは別の青色の大学ノートを取り出し、そのノートに何かを書き始めた。残念なことに少し距離があったせいで何を書いているのかは分からない。
何書いてんだ?
そんなことを考えている間にいつの間にか授業が終わっており授業が終わるや否やそそくさと鞄にノートを入れると八月一日は教室を出て行ってしまった。
慌てて追い掛けると俺はあることに気付く。八月一日は、思いの外歩くのが速かった。良く言えば儚げ、悪く言えばぼーっとしているように見える八月一日が歩くのが速いとは思わなかった。
俺は小走りになりながら追い掛ける。漸く追いつき、八月一日の肩を強く握る。
「八月一日ッ、ちょっと、待てよ…!」
「……何?」
八月一日はそう言うと右耳からワイヤレスイヤホンを外すと虚無の色で染められた瞳で俺を見てきた。
「さっき、何か書いてただろ」
「授業用ノートのこと?」
「いや、それじゃなくてだな」
「じゃあ、何?」
「えっと…」
何か書いていたのは分かっていたが何を書いていたかまでは知らない。というか見えなかった。
言い淀んでいると八月一日は何も言わない俺を見て小さく溜息を吐いた。
「…もしかして、これ?」
八月一日はそう言うと鞄の中から青色の大学ノートを取り出して俺の前に差し出してきた。
「嗚呼、うん。多分これ!」
俺がそう言うと八月一日は少し悩んだような表情を浮かべた後。
「読む?」
「えっ、良いのか?」
「うん、良いよ」
八月一日はそう言うと俺にノートを渡してきた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
俺は一言そう言い、ノートをペラっと一ページめくった。
「ん? これ、設定ってやつか?」
ノートに書かれていたのは人物設定と呼ばれる類のものだった。
また一ページめくると書かれていたのは苗字や男女別の名前、海外の精霊や日本の妖怪、ドラゴンの種類の名前などなど。
姉貴が小説を書くときの資料としてこんなものを書いていた記憶がある。
「八月一日って小説書いているのか?」
「それ見ただけで小説ってよく分かったね」
「あ、嗚呼。俺の姉貴が趣味で小説書く人だったからそれに似ててな」
「ふーん、そうなんだ」
あ、少し照れた?
伏し目がちにしながら顔を俯かせてそう言う八月一日を見て俺は少しドキッとした。
姉貴が言っていた言葉を思い出す。『綺麗な人の伏し目って思わず激写したくなるくらい綺麗なんだよねぇ』と言っていた言葉を。
激写とまではいかないが写真に収めたくなるのはすごくよく分かる。
「な、なあ! 八月一日、お前の写真を撮らせてくれ‼︎」
「…えっ」
俺は思わずそう言ってしまった。対して八月一日はというと驚いたように目を見開いていた。
これが俺、月島星那と八月一日立夏の出会いだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」


あの日の記憶の隅で、君は笑う。
15
BL
アキラは恋人である公彦の部屋でとある写真を見つけた。
その写真に写っていたのはーーー……俺とそっくりな人。
唐突に始まります。
身代わりの恋大好きか〜と思われるかもしれませんが、大好物です!すみません!
幸せになってくれな!

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

【運命】に捨てられ捨てたΩ
雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる