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四話
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「すみません。希緒の荷物持ってもらって」
「いえいえ、僕がしたいだけですので」
保育園に着き、希緒のいる年長さんクラスに行くと希緒は眠かったのかうとうとと船を漕いでいた。声を掛けると瞼を少しだけ開けて俺を見ると「にーに…」とだけ言って俺に抱っこをせがんできた。
結果、希緒は俺がおんぶする事になり、希緒の荷物やケーキの箱は先輩が持ってくれている。
希緒は寂しかったのか眠ったまま俺の服を強く握っていた。
また、寂しい思いをさせてしまった。
そう思い、心の中で希緒に懺悔した。発情期を抑える為には薬をのむしかない。強いものは副作用も強いからあまり使いたくないけど。
そんな事を考えていると皇先輩に頭を優しく撫でられた。
「怖い顔してましたよ」
先輩はそう言うと小さく微笑んだ。そして続けてこう言った。
「僕と番になりませんか?」
「…………」
俺は先輩の言葉に可とも不可とも言えなかった。ずっと黙っている俺を先輩は問い詰めもしない。本気なのか冗談なのか分からない。ちょっと其処まで行きませんか、というノリで言ってくるのだから余計分からない。
マンションに着いて部屋に先輩を招いた。希緒は寝室で寝かせる事にした。
椅子に座って先輩を見ると未だににこにこと微笑んだまま。本当に、本心が分からない。
「俺は、先輩と番にはなれません」
「どうしてですか?」
「……俺はアルファを信用していないので」
俺はそう言って立ち上がるとケーキの箱を冷蔵庫に仕舞った。冷蔵庫を閉めると突然背後から先輩に抱き締められてしまった。
「矛盾していますよ、真琴君。信用していないのなら、どうして僕を家に入れたんですか? これでも自惚れてたんですよ?」
先輩は俺の耳元で囁くように言った。ぞわぞわとしか感覚が背筋を走り、吐息を漏らしてしまいそうになる。
肩を竦めて我慢するように唇を固く結んでいると先輩はクスッと笑みを零した。
「もしかして」
耳、弱いんですか?
先輩は耳元でそう囁くと耳たぶを唇でやんわりと噛んだ。
「ひぁっ…」
ゾクッとした感覚が背筋を走ったのと同時に俺は小さく嬌声をあげた。嬌声を漏らした俺の様子を見て先輩は少しだけ口角を上げた。その様子を見て少しだけ、昔の事を思い出した。
「怖くないですよ、怖くない」
俺の心情を察したのか先輩は楽しそうな声色から一転、優しい声色に変わった。俺よりも大きくて暖かな手で頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃいます……」
「真琴君、髪さらさらですね」
「話聞いてますか?」
雑に撫でていたかと思えば今度は髪を梳かすように優しく撫でられた。
居た堪れない。というか、姉さんにもこんなふうに撫でられた事ないからどうしていいのか分からない。
「うぅ……」
頬を赤く染めて小さな呻き声を出していると先輩はとても楽しそうな表情を浮かべて俺を見ていた。
「笑いましたね、良かったです」
「……えっと?」
「先程、悲しそうな表情をしていました。真琴君は笑っている方が似合ってます」
俺は目を見開いた。その言葉は、俺がオメガだと分かったその日に両親から言われた言葉だからだ。『真琴は泣いている顔よりも、笑っている方が似合うよ』と。有り触れた言葉だけどとても嬉しかった。
目元から涙がぽろぽろと流れる。突然泣き始めた俺を見て先輩は驚いたのか「だ、大丈夫ですか?」とおろおろと挙動不審になりながら問い掛けてきた。
「大丈夫です。ありがとうございます、皇先輩」
涙を流しながらも俺は笑みを浮かべてそう言うと先輩は嬉しそうな表情を浮かべて俺を抱き締めた。
「あ、の?」
「真琴君可愛いです。番になりましょう」
「お断りします」
「ええっ!?」
何故驚く。さっきからそう言っているのに。
クスクスと笑いながらそんな事を思っていると先輩は拗ねた子どものように頬を膨らませていた。可愛いな、と思ってしまった。
先輩は頬を膨らませていた、かと思いきやすぐににこりと笑みを浮かべたかと思いきや、俺を抱き上げた。
「わっ」
「真琴君軽いですね」
先輩はそう言うと俺のこめかみに口付けを落とした。こめかみの次は耳や首筋に触れる程度の口付けを落としていった。
「……?」
俺はきょとんとして首を傾げた。
「可愛いのでキスしたくなっちゃいました」
「かわいい、ですかね……。俺、男ですけど」
「可愛いですよ」
先輩の言葉を聞いて首を傾げてそう言うと先輩は即答するように返答すると俺を下ろしてくれた。
その時、希緒が突然泣き出したらしく大きな泣き声が寝室から聞こえてきた。
「希緒?」
先輩から離れて寝室に向かうと希緒はお気に入りの熊の人形を抱き締めて大きな声で泣いていた。
「希緒、どうしたの? おいで」
希緒に声を掛けて抱っこすると幼い子どもに戻ったような様子でどうしようかと思ってしまった。
あ、夕飯どうしよう。
未だ嗚咽混じりで泣いている希緒を抱っこしたまま背中を撫でていた。
「大丈夫そうですか?」
心配したのか先輩は寝室に入ってきてそう問い掛けた。
「すみません、なんか夜泣きみたいな感じみたいで」
「いえいえ。小さい子どもは可愛いですから」
不思議だ、と思った。
アルファは攻撃的な人格が多いと聞く。なのに、先輩は本当にアルファなのだろうか、と思ってしまうほど先輩は優しい人物に見えた。
こんなに優しいアルファの人が、なんで俺と番になりたいと思うのだろう。
心の中でそう思っていると先輩は俺と希緒の頭を優しく一撫でしてきた。
「先輩。明日、お時間ありますか?」
「明日は授業もないので図書館でレポートでもしようかと」
「俺の授業終わったら、お話出来ますか?」
真剣な面持ち、真剣な声色でそう言うと先輩は先程と変わりない笑みを浮かべて「良いですよ」と言った。
先輩はそれだけ言うと「また明日」と言って帰って行った。
「いえいえ、僕がしたいだけですので」
保育園に着き、希緒のいる年長さんクラスに行くと希緒は眠かったのかうとうとと船を漕いでいた。声を掛けると瞼を少しだけ開けて俺を見ると「にーに…」とだけ言って俺に抱っこをせがんできた。
結果、希緒は俺がおんぶする事になり、希緒の荷物やケーキの箱は先輩が持ってくれている。
希緒は寂しかったのか眠ったまま俺の服を強く握っていた。
また、寂しい思いをさせてしまった。
そう思い、心の中で希緒に懺悔した。発情期を抑える為には薬をのむしかない。強いものは副作用も強いからあまり使いたくないけど。
そんな事を考えていると皇先輩に頭を優しく撫でられた。
「怖い顔してましたよ」
先輩はそう言うと小さく微笑んだ。そして続けてこう言った。
「僕と番になりませんか?」
「…………」
俺は先輩の言葉に可とも不可とも言えなかった。ずっと黙っている俺を先輩は問い詰めもしない。本気なのか冗談なのか分からない。ちょっと其処まで行きませんか、というノリで言ってくるのだから余計分からない。
マンションに着いて部屋に先輩を招いた。希緒は寝室で寝かせる事にした。
椅子に座って先輩を見ると未だににこにこと微笑んだまま。本当に、本心が分からない。
「俺は、先輩と番にはなれません」
「どうしてですか?」
「……俺はアルファを信用していないので」
俺はそう言って立ち上がるとケーキの箱を冷蔵庫に仕舞った。冷蔵庫を閉めると突然背後から先輩に抱き締められてしまった。
「矛盾していますよ、真琴君。信用していないのなら、どうして僕を家に入れたんですか? これでも自惚れてたんですよ?」
先輩は俺の耳元で囁くように言った。ぞわぞわとしか感覚が背筋を走り、吐息を漏らしてしまいそうになる。
肩を竦めて我慢するように唇を固く結んでいると先輩はクスッと笑みを零した。
「もしかして」
耳、弱いんですか?
先輩は耳元でそう囁くと耳たぶを唇でやんわりと噛んだ。
「ひぁっ…」
ゾクッとした感覚が背筋を走ったのと同時に俺は小さく嬌声をあげた。嬌声を漏らした俺の様子を見て先輩は少しだけ口角を上げた。その様子を見て少しだけ、昔の事を思い出した。
「怖くないですよ、怖くない」
俺の心情を察したのか先輩は楽しそうな声色から一転、優しい声色に変わった。俺よりも大きくて暖かな手で頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃいます……」
「真琴君、髪さらさらですね」
「話聞いてますか?」
雑に撫でていたかと思えば今度は髪を梳かすように優しく撫でられた。
居た堪れない。というか、姉さんにもこんなふうに撫でられた事ないからどうしていいのか分からない。
「うぅ……」
頬を赤く染めて小さな呻き声を出していると先輩はとても楽しそうな表情を浮かべて俺を見ていた。
「笑いましたね、良かったです」
「……えっと?」
「先程、悲しそうな表情をしていました。真琴君は笑っている方が似合ってます」
俺は目を見開いた。その言葉は、俺がオメガだと分かったその日に両親から言われた言葉だからだ。『真琴は泣いている顔よりも、笑っている方が似合うよ』と。有り触れた言葉だけどとても嬉しかった。
目元から涙がぽろぽろと流れる。突然泣き始めた俺を見て先輩は驚いたのか「だ、大丈夫ですか?」とおろおろと挙動不審になりながら問い掛けてきた。
「大丈夫です。ありがとうございます、皇先輩」
涙を流しながらも俺は笑みを浮かべてそう言うと先輩は嬉しそうな表情を浮かべて俺を抱き締めた。
「あ、の?」
「真琴君可愛いです。番になりましょう」
「お断りします」
「ええっ!?」
何故驚く。さっきからそう言っているのに。
クスクスと笑いながらそんな事を思っていると先輩は拗ねた子どものように頬を膨らませていた。可愛いな、と思ってしまった。
先輩は頬を膨らませていた、かと思いきやすぐににこりと笑みを浮かべたかと思いきや、俺を抱き上げた。
「わっ」
「真琴君軽いですね」
先輩はそう言うと俺のこめかみに口付けを落とした。こめかみの次は耳や首筋に触れる程度の口付けを落としていった。
「……?」
俺はきょとんとして首を傾げた。
「可愛いのでキスしたくなっちゃいました」
「かわいい、ですかね……。俺、男ですけど」
「可愛いですよ」
先輩の言葉を聞いて首を傾げてそう言うと先輩は即答するように返答すると俺を下ろしてくれた。
その時、希緒が突然泣き出したらしく大きな泣き声が寝室から聞こえてきた。
「希緒?」
先輩から離れて寝室に向かうと希緒はお気に入りの熊の人形を抱き締めて大きな声で泣いていた。
「希緒、どうしたの? おいで」
希緒に声を掛けて抱っこすると幼い子どもに戻ったような様子でどうしようかと思ってしまった。
あ、夕飯どうしよう。
未だ嗚咽混じりで泣いている希緒を抱っこしたまま背中を撫でていた。
「大丈夫そうですか?」
心配したのか先輩は寝室に入ってきてそう問い掛けた。
「すみません、なんか夜泣きみたいな感じみたいで」
「いえいえ。小さい子どもは可愛いですから」
不思議だ、と思った。
アルファは攻撃的な人格が多いと聞く。なのに、先輩は本当にアルファなのだろうか、と思ってしまうほど先輩は優しい人物に見えた。
こんなに優しいアルファの人が、なんで俺と番になりたいと思うのだろう。
心の中でそう思っていると先輩は俺と希緒の頭を優しく一撫でしてきた。
「先輩。明日、お時間ありますか?」
「明日は授業もないので図書館でレポートでもしようかと」
「俺の授業終わったら、お話出来ますか?」
真剣な面持ち、真剣な声色でそう言うと先輩は先程と変わりない笑みを浮かべて「良いですよ」と言った。
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