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四章 ―― 夢と空の遺跡 ――
空夢1 『約束の出会い』
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⑩
「――っ……」
「あ、ノエルが起きるよー!」
急速に戻ってくる意識を感じながら私は重い身体を持ち上げる。
そこはフィリーの部屋だった。私の部屋と違い、最小限な物しか置いていない殺風景な部屋。
そこに、エアとリレフ、それにテトラが集まり私を心配そうに見つめていた。
「みんな……フィリーの部屋。私、どのくらい眠っていた?」
「一日経たないくらいかな。結構長い間、眠っていたよ」
「そんなに……」
壁に掛けられた時計を見ると、思っていた以上に時間が経過していた。
もうすぐ、昨日私たちが遺跡に向かった時と同じ時間だ。
「ノエル……それにみんな、っつ……」
ベッドの上に寝かされていたフィリーが起き上がり、額を押さえる。
「どうやら無事、成功したみたいだね。なかなか起きないから心配したよ」
リレフの言葉に、フィリーが首を振る。
「ここは……オレの部屋か? なにがあった? あの黒いローブは?」
「フィリーにも色々伝えないとね。後でゆっくり説明するよ。今は少し休んでいて。それより、少し厄介なことになっている」
「……厄介?」
なんか、三日くらい寝ちゃった後みたいに頭が働かない。
「うん、君のお母さんだ」
「お母さんがどうしたの?」
そういえば、私はフィリーの夢に入り込んだんだった。
それを見守っていたお母さんが、今この場にいない。
「ノエルが寝た後ね、お母さんすっごい怒ってたんだよ。『魔族が魔族を襲うなんてとんでもないわ!』って感じで」
エアが身振り翼振りで再現する。あー、すっごい想像ができる。
お母さんアレで子煩悩なところあるから、表情は変えてなかったけれど、フィリーの状態にご立腹してたんだろう。
「ボクらは止めたんだけど、行政区の寄り合いに直訴しちゃって……討伐隊が出来ちゃったんだ」
「討伐隊……?」
リレフの言葉をテトラが引き継ぐ。
「ええ、ノエル……あなた達が出会った魔族を退治しに、街の魔族達が集まって、あの遺跡に向かったわ」
テトラの顔色は青ざめている。
一つの可能性を考えているのだろう。
それは、遺跡を出るときに私も過ぎった可能性だ。
黒いローブの男は、テトラのツガイなんじゃないか。
その可能性だ。
――。
「つっ……」
急に頭痛が頭を駆け巡る。
なに、この沸き上がる不安な思い。
何か大事な事を……忘れている気がする。
テトラに関わる何かを――。
「――そうだ」
私の呟きに、みんなが首を傾げる。
そうだ、黒いローブの男に私は出会った。
フィリーの夢の中で、彼と会話した。
「――メフィス。メア種のメフィス!」
私は彼と、確かに約束をした。
それは――それは――。
―― 僕は、彼女と ――
―― 私は、私は絶対に、テトラとあなたを ――
―― !! ――
それを思い出した瞬間、私は立ち上がる。そして、困惑するユニコーンに向かい、言った。
「テトラ! すぐに準備して!」
「へ!? 準備って!?」
「私はあなたのツガイと出会った。夢の中で、彼に出会った!」
みんなの目が開かれる。
「ノ、ノエル……ほんとに!?」
「うん、やっぱり、黒いローブの魔族は、テトラのツガイだった」
「やっぱり……じゃあ、結構急いだ方がいいかも。結構な数の魔族が、あの遺跡に向かっている」
リレフがエアの背にしがみつく。
「大変。早く、行かなきゃ!」
エアが部屋の中で宙に浮かぶ。
「うん、行こう……テトラのツガイを、助けに行こう!!」
⑪
「オレを助けてくれたんだな。ノエル」
沼地を飛んで進みながら、フィリーが呟く言葉が私に届く。
「……大変だったんだからね」
脇に抱えられた私は髪を整えながらなんでもないかのように答える。
フィリーと私、エアとリレフ、それにテトラが魔族半島の空を飛んでいる。
「……ちっ、もうちっと早く反応してれば、奴の魔法は避けられた。やっぱ、オレはまだ弱えーな」
「でもお陰で、テトラのツガイが分かったんだよ。結果オーライだよ」
「オーライってなんだ?」
「……なんでもない」
背の高い草に隠されていた階段が綺麗に見えている。
先に来た魔族達が刈り取ったのだろう。
「自分のツガイに助けられるなんて、オレもまだまだだ」
「……助け合いだよ。私だって、フィリーに助けられることが沢山あるよ」
私の言葉には反応せず、フィリーは階段を飛び続ける。
ほどなく、私たちは大きな洞窟の中へと辿り着いた。
「見えたぜ、ちとマズいな」
遺跡の建物へと向かう洞窟の中で私を抱えるフィリーが言う。
建物の入り口前には沢山の魔族達がローブの男を取り囲んでいた。
何人か倒れている魔族がいる。メフィスが夢魔法を使ったのだろう。
「フィリー! 急いで!」
「言われなくても!」
フィリーが飛ぶスピードを上げ、私の顔を突風が吹き抜ける。
メフィスの周りにいる魔族の手が光った。アレってマズいんじゃない?
「エア! メフィスの周りに風を出せる!?」
「やってみる!」
緑の竜巻が三つ、メフィスの周りに発生し、回転をはじめる。
一気に私たちに注目が集まった。
「先に、行くね!」
隣を駆ける、白馬の姿をしたテトラの足が速まった。虹がメフィスへと一直線に伸びていく。
周りを囲う魔族を飛び越え、テトラはメフィスへと向かっていく。
メフィスもそれに気がついた。
虹をかけるユニコーンに気がついた。
頭を覆っていたフードを取り、慈愛に満ちた視線を送る。
ふたりの視線が重なった瞬間、テトラは幻獣化を解いた。
代わりに現れたその顔は、私の見てきたテトラとは別人だった。
暗い表情は消え、美しく煌めいている。
虹が、テトラの身体を包み込む。
空が、長い銀色の髪に絡まる。
沢山の魔族が見守る中、ふたりはお互いの存在だけを見つめていた。
空の魔族が、遺跡の前へと降り立った。
そこに、夢の魔族が駆け寄る。
夢が、空を抱きしめた。
古代の遺跡を前に、長い間想いを募らせていた魔族たちが初めて出会い、抱きしめあう。
この日、この瞬間、すれ違いの片一羽《カタワレ》たちは、魔族のツガイへと変化した。
「――っ……」
「あ、ノエルが起きるよー!」
急速に戻ってくる意識を感じながら私は重い身体を持ち上げる。
そこはフィリーの部屋だった。私の部屋と違い、最小限な物しか置いていない殺風景な部屋。
そこに、エアとリレフ、それにテトラが集まり私を心配そうに見つめていた。
「みんな……フィリーの部屋。私、どのくらい眠っていた?」
「一日経たないくらいかな。結構長い間、眠っていたよ」
「そんなに……」
壁に掛けられた時計を見ると、思っていた以上に時間が経過していた。
もうすぐ、昨日私たちが遺跡に向かった時と同じ時間だ。
「ノエル……それにみんな、っつ……」
ベッドの上に寝かされていたフィリーが起き上がり、額を押さえる。
「どうやら無事、成功したみたいだね。なかなか起きないから心配したよ」
リレフの言葉に、フィリーが首を振る。
「ここは……オレの部屋か? なにがあった? あの黒いローブは?」
「フィリーにも色々伝えないとね。後でゆっくり説明するよ。今は少し休んでいて。それより、少し厄介なことになっている」
「……厄介?」
なんか、三日くらい寝ちゃった後みたいに頭が働かない。
「うん、君のお母さんだ」
「お母さんがどうしたの?」
そういえば、私はフィリーの夢に入り込んだんだった。
それを見守っていたお母さんが、今この場にいない。
「ノエルが寝た後ね、お母さんすっごい怒ってたんだよ。『魔族が魔族を襲うなんてとんでもないわ!』って感じで」
エアが身振り翼振りで再現する。あー、すっごい想像ができる。
お母さんアレで子煩悩なところあるから、表情は変えてなかったけれど、フィリーの状態にご立腹してたんだろう。
「ボクらは止めたんだけど、行政区の寄り合いに直訴しちゃって……討伐隊が出来ちゃったんだ」
「討伐隊……?」
リレフの言葉をテトラが引き継ぐ。
「ええ、ノエル……あなた達が出会った魔族を退治しに、街の魔族達が集まって、あの遺跡に向かったわ」
テトラの顔色は青ざめている。
一つの可能性を考えているのだろう。
それは、遺跡を出るときに私も過ぎった可能性だ。
黒いローブの男は、テトラのツガイなんじゃないか。
その可能性だ。
――。
「つっ……」
急に頭痛が頭を駆け巡る。
なに、この沸き上がる不安な思い。
何か大事な事を……忘れている気がする。
テトラに関わる何かを――。
「――そうだ」
私の呟きに、みんなが首を傾げる。
そうだ、黒いローブの男に私は出会った。
フィリーの夢の中で、彼と会話した。
「――メフィス。メア種のメフィス!」
私は彼と、確かに約束をした。
それは――それは――。
―― 僕は、彼女と ――
―― 私は、私は絶対に、テトラとあなたを ――
―― !! ――
それを思い出した瞬間、私は立ち上がる。そして、困惑するユニコーンに向かい、言った。
「テトラ! すぐに準備して!」
「へ!? 準備って!?」
「私はあなたのツガイと出会った。夢の中で、彼に出会った!」
みんなの目が開かれる。
「ノ、ノエル……ほんとに!?」
「うん、やっぱり、黒いローブの魔族は、テトラのツガイだった」
「やっぱり……じゃあ、結構急いだ方がいいかも。結構な数の魔族が、あの遺跡に向かっている」
リレフがエアの背にしがみつく。
「大変。早く、行かなきゃ!」
エアが部屋の中で宙に浮かぶ。
「うん、行こう……テトラのツガイを、助けに行こう!!」
⑪
「オレを助けてくれたんだな。ノエル」
沼地を飛んで進みながら、フィリーが呟く言葉が私に届く。
「……大変だったんだからね」
脇に抱えられた私は髪を整えながらなんでもないかのように答える。
フィリーと私、エアとリレフ、それにテトラが魔族半島の空を飛んでいる。
「……ちっ、もうちっと早く反応してれば、奴の魔法は避けられた。やっぱ、オレはまだ弱えーな」
「でもお陰で、テトラのツガイが分かったんだよ。結果オーライだよ」
「オーライってなんだ?」
「……なんでもない」
背の高い草に隠されていた階段が綺麗に見えている。
先に来た魔族達が刈り取ったのだろう。
「自分のツガイに助けられるなんて、オレもまだまだだ」
「……助け合いだよ。私だって、フィリーに助けられることが沢山あるよ」
私の言葉には反応せず、フィリーは階段を飛び続ける。
ほどなく、私たちは大きな洞窟の中へと辿り着いた。
「見えたぜ、ちとマズいな」
遺跡の建物へと向かう洞窟の中で私を抱えるフィリーが言う。
建物の入り口前には沢山の魔族達がローブの男を取り囲んでいた。
何人か倒れている魔族がいる。メフィスが夢魔法を使ったのだろう。
「フィリー! 急いで!」
「言われなくても!」
フィリーが飛ぶスピードを上げ、私の顔を突風が吹き抜ける。
メフィスの周りにいる魔族の手が光った。アレってマズいんじゃない?
「エア! メフィスの周りに風を出せる!?」
「やってみる!」
緑の竜巻が三つ、メフィスの周りに発生し、回転をはじめる。
一気に私たちに注目が集まった。
「先に、行くね!」
隣を駆ける、白馬の姿をしたテトラの足が速まった。虹がメフィスへと一直線に伸びていく。
周りを囲う魔族を飛び越え、テトラはメフィスへと向かっていく。
メフィスもそれに気がついた。
虹をかけるユニコーンに気がついた。
頭を覆っていたフードを取り、慈愛に満ちた視線を送る。
ふたりの視線が重なった瞬間、テトラは幻獣化を解いた。
代わりに現れたその顔は、私の見てきたテトラとは別人だった。
暗い表情は消え、美しく煌めいている。
虹が、テトラの身体を包み込む。
空が、長い銀色の髪に絡まる。
沢山の魔族が見守る中、ふたりはお互いの存在だけを見つめていた。
空の魔族が、遺跡の前へと降り立った。
そこに、夢の魔族が駆け寄る。
夢が、空を抱きしめた。
古代の遺跡を前に、長い間想いを募らせていた魔族たちが初めて出会い、抱きしめあう。
この日、この瞬間、すれ違いの片一羽《カタワレ》たちは、魔族のツガイへと変化した。
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