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四章 ―― 夢と空の遺跡 ――
夢4 『夢色の仲間たち』
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⑤
「もうちょっとさぁ! 大事に、扱って、――よ!」
宙を飛びながら両手を光らせ、特大の火炎弾をメフィスに発射する。
業火がうねりを上げ、メフィスへ向かっていく。
爆炎を前に、メフィスが動いた。
「そろそろ――来ると思ったよ!」
赤い電撃が地面に走る。地面からにょきにょきと人の形をした何かが生まれていく。
電撃は急速に形作られ一人の魔族の姿に変化する。
アレは……アレは!!
「さあ、今度は自分相手だ」
業火の前に“私”が立っていた。襲いかかる火炎弾に向け、右手をかざしている。
爆炎と爆炎が重なり合った。
同じ威力の火炎弾同士がぶつかり合い、空中でお互いを相殺していく。
落ちる私に向け、“私”が片手を輝かせている。もう一発、火炎弾を討つ気だ。
でも――
「遅いよ!」
私は既に両手を振り上げていた。
魔力を練り、地面を輝かせて狙いを定めていた。
狙いは当然――
私が放った火柱に、“私”が包まれた。
「はっ!? はぁあ!?」
消し炭になっていく“私”を見ながらメフィスが驚愕の声を上げる。予想外の展開に思考がついてきていないようだ。その隙を突いて、私は落下の勢いをつけたまま、メフィスに飛びかかった。
ぶつかり合い、地面を転がる私たち。
メフィスは抵抗するけれど、力はそこまで強くない。だから私でも――
「抵抗しないで! 撃つよ!?」
マウントのポジションを取った私は、メフィスを押さえつけながら右手を光らせた。
「……ごほっ、き、君は馬鹿なのか? なんで、あんな躊躇《ちゅうちょ》無く自分に魔法を……」
「友達相手は無理だけど、自分相手なら撃てるよ。それに――」
撃つ瞬間、私は自分が『つばさ』だと思っていた。
『つばさ』が『ノエル』に向け、魔法を撃っていた。ノエルが別の存在だと認識したからこそ、躊躇なく魔法を撃てた。
――。
なに――私のこの感覚は――。
私、どこかおかしいのかな。
だめだ。今はそんなこと考えている場合じゃない。フィリーを助けなきゃ。
「――なんでもない……それより、早くこの悪夢を解いて!」
「駄目だって言ってるよね。僕の存在が消えるんだから」
私にのしかかられながら、メフィスは動じていない。むしろ落ち着きを取り戻してきたようだ。
「……なんなの!? あなたの目的はなに!? なんで、フィリーを襲ったの! あの“石碑”がある場所でなにをしていたの!?」
「質問が多いね……答える義務なんか……ない!」
地面に赤い電撃が広がった。円状に広がる電撃がまとまっていき、沢山の形が作られていく。
形作られた電撃の一つが私に襲いかかってきた。
咄嗟に飛び避け、距離を置いて腰を沈める。
「……ゴブリン」
黄色い目、裂けた口、潰れたネズミのような顔。地面から次々にゴブリンが生まれていく。
私に沢山の敵意が向けられていく。
「さっきの質問だけど、一つだけ教えてあげるよ……僕の目的は、魔族を全て消し去ることさ」
メフィスが立ち上がり、ローブに付いた汚れを払う。
「ツガイの呪いに縛られる魔族なんて、不幸でしかない」
メフィスの目には憎しみが浮かんでる。
「全員死んでしまえばいいんだ!!」
メフィスの叫びに合わせて、ゴブリンの群れが私に襲いかかってきた。
⑥
襲いかかるゴブリンを焼いて、燃やして、消し炭にする。
いくら私が火炎弾で燃やそうとも、火柱で数を減らそうとも、新たなゴブリンが次々に現れる。
メフィスが赤い電撃を地面に放ち、新たなゴブリンが生み出される。
「……キリないんですけど!!」
両手から生まれた二つの火炎弾がそれぞれゴブリンを焼き尽くす。
まずい、このままだとマズいかも。私の魔力はまだまだあるけど、向こうがどれだけ残っているか未知数だ。
なんか、“石碑”に付いている宝石で魔力を吸っていたみたいだし、ゴブリン一匹生み出すのにあまり大きな魔力を使ってないっぽい。
私の魔力が枯渇したら、私はこの世界から追い出されてしまう。
ちらりと、上空を見る。
フィリーもエアとリレフに苦戦しているみたいだ。
私は死んでも現実世界に戻るだけみたいだけど、この世界のフィリーはどうなるんだろう。
死んでも同じようにどこかで復活するのかもしれない。
でも違うかもしれない。アレはフィリーの自我みたいなものだから、自分を失ってしまう可能性だってある。そうなったら、最悪だ。
「やっぱりここで、この局面、なんとかするしかないよね!」
火柱がゴブリン達を焼き尽くす。
減ったと思ったらまた増え、徐々に私をゴブリンが取り囲んでいる。
いくらでも自分の味方を増やせるなんて、チートだ。
「ああ、もう! うっとうしい!!」
こんなやつどうすればいいの。――。
『――ああ、後、少しだけサービスしておいた』
ふいに、もやの中にいた、うさんくさい男のセリフが頭に響いてくる。
そうだ、あの人は言っていた。もし、黒いローブの男と戦うハメになったら――
なったら――
「えっと、なんだったっけ?」
爆炎がゴブリンを吹き飛ばしていく。
あの人はなんか碌でもないこと言っていたような……。
――って!
「もう、思い出してるじゃん!!」
殴りかかるゴブリンを消し炭にしながら、私は思い出した言葉を反復する。
『もし、黒いローブの男と戦うハメになったなら、……俺を思い出せ』
男は確かにそう言っていた。
思い出した。思い出したよ!? だからどうだというんだ。
念の為、ゴブリンを燃やしながら自分の身体を確認する。――特に、変化はない。
魔法も強くなってるわけでもない。
「結局なにがしたかったのあの人は!!」
人の指を傷付けといて……。
そ、そうだ。そういえば、他に何か言っていた。
えーっと、たしか、終わり際、何か言っていた。
『お前はもう魔――』
「まっ、ってなによ! まっ、て!」
「さっきからなにをぶつぶつ、言ってるんだ!」
メフィスが相変わらず、ゴブリンを生み出している。
魔が付く単語なんて沢山あるよ。魔族、魔物、魔界、それに――
「……なにを、君は――」
ふいに、メフィスの魔法がやんだ。
私に向け、驚愕の顔を浮かべている。
それは私も同じだった。自分の腕に現れた変化に驚いていた。
「君はなにをしている!!!!」
メフィスの問いかけに、私自身も答えられない。
指輪から赤い電撃が溢れていた。それは指輪に付けられた、輝く宝石から溢れ、私の腕に絡みついている。
見た感じ、メフィスが出していた夢魔法の電撃と同じものだ。
「……ま、ほう? 魔法!?」
お前はもう、魔法を使える。そう言いたかったの?
男の言葉が頭の中に響く。
『その指輪とお前の間に、『血の盟約』を行った』
『血の盟約』ってのが何かは分からない。
とにかく、私と指輪になにか繋がりができたんだ。だから、この現象を引き起こせている。
――この指輪は、夢の中に入り込める力を持っている。
――それは、言ってしまえばメフィスの使っている魔法と同じ力。
――そう、同じ、魔法だ。
「だったら――もしかしたら!」
指輪に魔力を込める。赤い電撃が私の身体を伝い、地面へと流れていく。
「君は……何故……君は一体、……一体なんなんだ!!」
知らないよ。私はただの魔族。
この力は、もやの中にいた『人間』の力。
指輪の力だ。
「……これで、対等だね」
私の周りには、私の生み出した集団がいた。
それぞれ武器を構え、ゴブリン達に向けて威嚇の声を放っている。
メフィスは夢の世界で、ゴブリンの集団を生み出し仲間にした。
それと同じように、私も生み出し、仲間にした。
ぬめぬめした皮。身体は人間のように大きいけれど、顔はトカゲのそれ。目は真っ黄色で、口から細く長い舌をチロチロと出している。
リザードマンの集団がゴブリン達へと襲いかかった。
「もうちょっとさぁ! 大事に、扱って、――よ!」
宙を飛びながら両手を光らせ、特大の火炎弾をメフィスに発射する。
業火がうねりを上げ、メフィスへ向かっていく。
爆炎を前に、メフィスが動いた。
「そろそろ――来ると思ったよ!」
赤い電撃が地面に走る。地面からにょきにょきと人の形をした何かが生まれていく。
電撃は急速に形作られ一人の魔族の姿に変化する。
アレは……アレは!!
「さあ、今度は自分相手だ」
業火の前に“私”が立っていた。襲いかかる火炎弾に向け、右手をかざしている。
爆炎と爆炎が重なり合った。
同じ威力の火炎弾同士がぶつかり合い、空中でお互いを相殺していく。
落ちる私に向け、“私”が片手を輝かせている。もう一発、火炎弾を討つ気だ。
でも――
「遅いよ!」
私は既に両手を振り上げていた。
魔力を練り、地面を輝かせて狙いを定めていた。
狙いは当然――
私が放った火柱に、“私”が包まれた。
「はっ!? はぁあ!?」
消し炭になっていく“私”を見ながらメフィスが驚愕の声を上げる。予想外の展開に思考がついてきていないようだ。その隙を突いて、私は落下の勢いをつけたまま、メフィスに飛びかかった。
ぶつかり合い、地面を転がる私たち。
メフィスは抵抗するけれど、力はそこまで強くない。だから私でも――
「抵抗しないで! 撃つよ!?」
マウントのポジションを取った私は、メフィスを押さえつけながら右手を光らせた。
「……ごほっ、き、君は馬鹿なのか? なんで、あんな躊躇《ちゅうちょ》無く自分に魔法を……」
「友達相手は無理だけど、自分相手なら撃てるよ。それに――」
撃つ瞬間、私は自分が『つばさ』だと思っていた。
『つばさ』が『ノエル』に向け、魔法を撃っていた。ノエルが別の存在だと認識したからこそ、躊躇なく魔法を撃てた。
――。
なに――私のこの感覚は――。
私、どこかおかしいのかな。
だめだ。今はそんなこと考えている場合じゃない。フィリーを助けなきゃ。
「――なんでもない……それより、早くこの悪夢を解いて!」
「駄目だって言ってるよね。僕の存在が消えるんだから」
私にのしかかられながら、メフィスは動じていない。むしろ落ち着きを取り戻してきたようだ。
「……なんなの!? あなたの目的はなに!? なんで、フィリーを襲ったの! あの“石碑”がある場所でなにをしていたの!?」
「質問が多いね……答える義務なんか……ない!」
地面に赤い電撃が広がった。円状に広がる電撃がまとまっていき、沢山の形が作られていく。
形作られた電撃の一つが私に襲いかかってきた。
咄嗟に飛び避け、距離を置いて腰を沈める。
「……ゴブリン」
黄色い目、裂けた口、潰れたネズミのような顔。地面から次々にゴブリンが生まれていく。
私に沢山の敵意が向けられていく。
「さっきの質問だけど、一つだけ教えてあげるよ……僕の目的は、魔族を全て消し去ることさ」
メフィスが立ち上がり、ローブに付いた汚れを払う。
「ツガイの呪いに縛られる魔族なんて、不幸でしかない」
メフィスの目には憎しみが浮かんでる。
「全員死んでしまえばいいんだ!!」
メフィスの叫びに合わせて、ゴブリンの群れが私に襲いかかってきた。
⑥
襲いかかるゴブリンを焼いて、燃やして、消し炭にする。
いくら私が火炎弾で燃やそうとも、火柱で数を減らそうとも、新たなゴブリンが次々に現れる。
メフィスが赤い電撃を地面に放ち、新たなゴブリンが生み出される。
「……キリないんですけど!!」
両手から生まれた二つの火炎弾がそれぞれゴブリンを焼き尽くす。
まずい、このままだとマズいかも。私の魔力はまだまだあるけど、向こうがどれだけ残っているか未知数だ。
なんか、“石碑”に付いている宝石で魔力を吸っていたみたいだし、ゴブリン一匹生み出すのにあまり大きな魔力を使ってないっぽい。
私の魔力が枯渇したら、私はこの世界から追い出されてしまう。
ちらりと、上空を見る。
フィリーもエアとリレフに苦戦しているみたいだ。
私は死んでも現実世界に戻るだけみたいだけど、この世界のフィリーはどうなるんだろう。
死んでも同じようにどこかで復活するのかもしれない。
でも違うかもしれない。アレはフィリーの自我みたいなものだから、自分を失ってしまう可能性だってある。そうなったら、最悪だ。
「やっぱりここで、この局面、なんとかするしかないよね!」
火柱がゴブリン達を焼き尽くす。
減ったと思ったらまた増え、徐々に私をゴブリンが取り囲んでいる。
いくらでも自分の味方を増やせるなんて、チートだ。
「ああ、もう! うっとうしい!!」
こんなやつどうすればいいの。――。
『――ああ、後、少しだけサービスしておいた』
ふいに、もやの中にいた、うさんくさい男のセリフが頭に響いてくる。
そうだ、あの人は言っていた。もし、黒いローブの男と戦うハメになったら――
なったら――
「えっと、なんだったっけ?」
爆炎がゴブリンを吹き飛ばしていく。
あの人はなんか碌でもないこと言っていたような……。
――って!
「もう、思い出してるじゃん!!」
殴りかかるゴブリンを消し炭にしながら、私は思い出した言葉を反復する。
『もし、黒いローブの男と戦うハメになったなら、……俺を思い出せ』
男は確かにそう言っていた。
思い出した。思い出したよ!? だからどうだというんだ。
念の為、ゴブリンを燃やしながら自分の身体を確認する。――特に、変化はない。
魔法も強くなってるわけでもない。
「結局なにがしたかったのあの人は!!」
人の指を傷付けといて……。
そ、そうだ。そういえば、他に何か言っていた。
えーっと、たしか、終わり際、何か言っていた。
『お前はもう魔――』
「まっ、ってなによ! まっ、て!」
「さっきからなにをぶつぶつ、言ってるんだ!」
メフィスが相変わらず、ゴブリンを生み出している。
魔が付く単語なんて沢山あるよ。魔族、魔物、魔界、それに――
「……なにを、君は――」
ふいに、メフィスの魔法がやんだ。
私に向け、驚愕の顔を浮かべている。
それは私も同じだった。自分の腕に現れた変化に驚いていた。
「君はなにをしている!!!!」
メフィスの問いかけに、私自身も答えられない。
指輪から赤い電撃が溢れていた。それは指輪に付けられた、輝く宝石から溢れ、私の腕に絡みついている。
見た感じ、メフィスが出していた夢魔法の電撃と同じものだ。
「……ま、ほう? 魔法!?」
お前はもう、魔法を使える。そう言いたかったの?
男の言葉が頭の中に響く。
『その指輪とお前の間に、『血の盟約』を行った』
『血の盟約』ってのが何かは分からない。
とにかく、私と指輪になにか繋がりができたんだ。だから、この現象を引き起こせている。
――この指輪は、夢の中に入り込める力を持っている。
――それは、言ってしまえばメフィスの使っている魔法と同じ力。
――そう、同じ、魔法だ。
「だったら――もしかしたら!」
指輪に魔力を込める。赤い電撃が私の身体を伝い、地面へと流れていく。
「君は……何故……君は一体、……一体なんなんだ!!」
知らないよ。私はただの魔族。
この力は、もやの中にいた『人間』の力。
指輪の力だ。
「……これで、対等だね」
私の周りには、私の生み出した集団がいた。
それぞれ武器を構え、ゴブリン達に向けて威嚇の声を放っている。
メフィスは夢の世界で、ゴブリンの集団を生み出し仲間にした。
それと同じように、私も生み出し、仲間にした。
ぬめぬめした皮。身体は人間のように大きいけれど、顔はトカゲのそれ。目は真っ黄色で、口から細く長い舌をチロチロと出している。
リザードマンの集団がゴブリン達へと襲いかかった。
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