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四章 ―― 夢と空の遺跡 ――
遺跡3 『人生経験』
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③
「ありがとう。もう大丈夫だから」
人の姿に戻ったテトラに水筒の水を渡す。
壁の背にもたれて喉を潤すテトラ。
落とし穴に落下した私たちはなんとか一命を取りとめ、モノトーンのタイルが並んだ通路の途中に腰を落ち着けていた。
さっき落ちてきた落とし穴は閉じられ、上に飛んで抜けることはできなそう。
「少しここで休んでて。私たちは抜け出せそうな場所を探してみるね」
ローブの隙間からテトラの身体を見てみたけど、大きなアザができてる。
内臓とか傷ついていないといいけど。
テトラはしばらく動けそうにない。さっきは助けてもらったし、今度は私たちが頑張らないと。
「すぐに戻ってくるからな。何かあったら声を上げろよ」
「ええ、ありがとう」
テトラに手を振り、私たちは通路をひたすら歩き続ける。奥の方にうっすらと灯りが見えるので、あそこまで行けば何か見つかるはず。多分。
「ったく、エアも碌なことしねーな」
「本当だよね。……ふたりとも無事だといいけど」
「だな。ま、悪運が強い二匹だから大丈夫だろ」
「だねー……で、この手はなに?」
フィリーの太い腕が私の肩に回され、引き寄せられている。
「あー……気にすんな」
「……気になる」
なんか強い力で引き寄せられて離れられないんだけど。気にするなって方が難しいんですけど。
「嫌か?」
「べ、別にぃ……」
「ならいいだろ」
強引か。フィリーの癖に。
なに急に。フィリーの癖に。
私の心配ばかりして。フィリーの癖に!
……。
「……う、うぁあああああ!!」
「な、なんだ!? どうした!?」
はぁ、はぁ……。ま、マズイ。気が動転して不思議ちゃん系のヤバい行動とった気がする。だめだ。落ち着けノエル。あなた元つばさでしょ。人間でしょ。
人生経験豊富なんだからこんなことで……取り乱し……人生、経験――
……。
「つばさの時もろくな経験無いじゃん!!!!」
「どうした!?」
はぁ、はぁ。もうやめよう。変な子だと思われる。でも叫んだらちょっと落ち着いた。
ホント、フィリーもやめてよ。私こういうの慣れてないんだよ。
しばらく道なりに歩いていると広いドーム状の空間に辿り着いた。
高い天井からホタルみたいな光が放たれ雪のように散っている。
見わたすと私たちが出てきたような出口が沢山並んでいた。
いくつもの道がこの空間に繋がっているのだろう。
「ノエル。オレの後ろに下がれ」
隣に立つ、フィリーの言葉は耳に入ってこなかった。
私はそれだけ、心を揺さぶられていた。
広場の中央はその部分だけ土台のようにせり上がっている。
そこに真っ黒のローブを着た存在が立っていた。
黒いローブの前には光り輝く物体が浮かび上がっている。
私は、その光る物体を知っていた。
この世界に生まれる前から、既に知っていた。
「“石碑”……? 嘘でしょ!?」
あの日、常見重工ビルの屋上で、私たちは謎の石碑に遭遇した。
砕かれて、小さくなっているけれど見間違えるわけがない。
目の大きな女の人の絵を見間違えるわけがない。
広場の中央には、私と悠人が転生する前に出現した、石碑の欠片が宙を浮いていた。
「なんで!?……なんでここにあるの!?」
「ノエル……なにか知ってんのか?」
フィリーの質問にも答えられない。それだけ動揺しているし、答える事ができない存在だ。
石碑の欠片にはあの日のように拳大の宝石が取り付けられている。
そこから眩い光がしじまのように発射されていて、黒いローブの伸ばした手に吸収されていた。
なんだろう……まるで、宝石の力を吸い取っているみたい。
しじまは黒いローブの全身を伝って消えていく。
ふいに、静寂が訪れた。
黒いローブが振り返り、私たちを確認した。深めのフードを被っていて顔はまるで見えない。
「ノエル、気をつけろ……何かしてくんぞ」
ローブの存在がまとう空気を読み取ったのか、フィリーは全身の力を込め、鉤爪を構える。
ローブの腕が高々と掲げられた。
ローブの手から赤い閃光が走り、壁を伝って出入り口の中に入り込んでいく。
あまりのまぶしさに私たちは身を低くしてその光をやり過ごす。
なにあの赤い電気っぽい魔法。雷魔法? でもいつかのゴブリンが撃ってきた雷魔法とは雰囲気が全然違う。よく分からないけど、あたったらマズイ気がする。
ぱっと、電気のスイッチを消すように赤い光がやんだ。
それと同時に出入り口から物音が湧き出てくる。
それは伝染し、出入り口の至る所から沸き上がってくる。
がしゃがしゃと、ずるりずるりと。
「糞が……」
フィリーの喉から、唾を飲む音が聞こえてきた。
そして、私は見た。
出入り口から鎧を着たトカゲが這い出てくるのを。
ぬめぬめした皮。身体は人間のように大きいけれど、顔はトカゲのそれ。目は真っ黄色で、口から細く長い舌をチロチロと出している。
「リザードマン……」
私の呟きに呼応するかのように、人の大きさをしたトカゲたちが続々と這い出てきた。
ボロボロの鎧を着込んでいて、剣やハンマーを持つトカゲ達もいる。
真っ黄色の目が次々に私たちを捕らえていく。
トカゲの集団が私たちに襲いかかってきた。
「ありがとう。もう大丈夫だから」
人の姿に戻ったテトラに水筒の水を渡す。
壁の背にもたれて喉を潤すテトラ。
落とし穴に落下した私たちはなんとか一命を取りとめ、モノトーンのタイルが並んだ通路の途中に腰を落ち着けていた。
さっき落ちてきた落とし穴は閉じられ、上に飛んで抜けることはできなそう。
「少しここで休んでて。私たちは抜け出せそうな場所を探してみるね」
ローブの隙間からテトラの身体を見てみたけど、大きなアザができてる。
内臓とか傷ついていないといいけど。
テトラはしばらく動けそうにない。さっきは助けてもらったし、今度は私たちが頑張らないと。
「すぐに戻ってくるからな。何かあったら声を上げろよ」
「ええ、ありがとう」
テトラに手を振り、私たちは通路をひたすら歩き続ける。奥の方にうっすらと灯りが見えるので、あそこまで行けば何か見つかるはず。多分。
「ったく、エアも碌なことしねーな」
「本当だよね。……ふたりとも無事だといいけど」
「だな。ま、悪運が強い二匹だから大丈夫だろ」
「だねー……で、この手はなに?」
フィリーの太い腕が私の肩に回され、引き寄せられている。
「あー……気にすんな」
「……気になる」
なんか強い力で引き寄せられて離れられないんだけど。気にするなって方が難しいんですけど。
「嫌か?」
「べ、別にぃ……」
「ならいいだろ」
強引か。フィリーの癖に。
なに急に。フィリーの癖に。
私の心配ばかりして。フィリーの癖に!
……。
「……う、うぁあああああ!!」
「な、なんだ!? どうした!?」
はぁ、はぁ……。ま、マズイ。気が動転して不思議ちゃん系のヤバい行動とった気がする。だめだ。落ち着けノエル。あなた元つばさでしょ。人間でしょ。
人生経験豊富なんだからこんなことで……取り乱し……人生、経験――
……。
「つばさの時もろくな経験無いじゃん!!!!」
「どうした!?」
はぁ、はぁ。もうやめよう。変な子だと思われる。でも叫んだらちょっと落ち着いた。
ホント、フィリーもやめてよ。私こういうの慣れてないんだよ。
しばらく道なりに歩いていると広いドーム状の空間に辿り着いた。
高い天井からホタルみたいな光が放たれ雪のように散っている。
見わたすと私たちが出てきたような出口が沢山並んでいた。
いくつもの道がこの空間に繋がっているのだろう。
「ノエル。オレの後ろに下がれ」
隣に立つ、フィリーの言葉は耳に入ってこなかった。
私はそれだけ、心を揺さぶられていた。
広場の中央はその部分だけ土台のようにせり上がっている。
そこに真っ黒のローブを着た存在が立っていた。
黒いローブの前には光り輝く物体が浮かび上がっている。
私は、その光る物体を知っていた。
この世界に生まれる前から、既に知っていた。
「“石碑”……? 嘘でしょ!?」
あの日、常見重工ビルの屋上で、私たちは謎の石碑に遭遇した。
砕かれて、小さくなっているけれど見間違えるわけがない。
目の大きな女の人の絵を見間違えるわけがない。
広場の中央には、私と悠人が転生する前に出現した、石碑の欠片が宙を浮いていた。
「なんで!?……なんでここにあるの!?」
「ノエル……なにか知ってんのか?」
フィリーの質問にも答えられない。それだけ動揺しているし、答える事ができない存在だ。
石碑の欠片にはあの日のように拳大の宝石が取り付けられている。
そこから眩い光がしじまのように発射されていて、黒いローブの伸ばした手に吸収されていた。
なんだろう……まるで、宝石の力を吸い取っているみたい。
しじまは黒いローブの全身を伝って消えていく。
ふいに、静寂が訪れた。
黒いローブが振り返り、私たちを確認した。深めのフードを被っていて顔はまるで見えない。
「ノエル、気をつけろ……何かしてくんぞ」
ローブの存在がまとう空気を読み取ったのか、フィリーは全身の力を込め、鉤爪を構える。
ローブの腕が高々と掲げられた。
ローブの手から赤い閃光が走り、壁を伝って出入り口の中に入り込んでいく。
あまりのまぶしさに私たちは身を低くしてその光をやり過ごす。
なにあの赤い電気っぽい魔法。雷魔法? でもいつかのゴブリンが撃ってきた雷魔法とは雰囲気が全然違う。よく分からないけど、あたったらマズイ気がする。
ぱっと、電気のスイッチを消すように赤い光がやんだ。
それと同時に出入り口から物音が湧き出てくる。
それは伝染し、出入り口の至る所から沸き上がってくる。
がしゃがしゃと、ずるりずるりと。
「糞が……」
フィリーの喉から、唾を飲む音が聞こえてきた。
そして、私は見た。
出入り口から鎧を着たトカゲが這い出てくるのを。
ぬめぬめした皮。身体は人間のように大きいけれど、顔はトカゲのそれ。目は真っ黄色で、口から細く長い舌をチロチロと出している。
「リザードマン……」
私の呟きに呼応するかのように、人の大きさをしたトカゲたちが続々と這い出てきた。
ボロボロの鎧を着込んでいて、剣やハンマーを持つトカゲ達もいる。
真っ黄色の目が次々に私たちを捕らえていく。
トカゲの集団が私たちに襲いかかってきた。
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