125 / 147
四章 ―― 夢と空の遺跡 ――
遺跡1 『すれ違いのシャラク』
しおりを挟む③
「駄目だ、見つからない……」
「ねー」
二週間後、テトラの住む洞窟に私たちは訪れていた。
エアはテーブルに突っ伏して足をパタパタさせている。
隣に座ったフィリーは腕を肩で組んで難しい顔をしているし、リレフは妖精《フェアリー》のオモチャにされている。
「私は大丈夫よ。もう片一羽《カタワレ》の生活にも慣れたんだから。みんな無理をしないで」
私の向かいに座るテトラが気を使っているのが目に見えて分かる。
それだけ、私たちのツガイ捜索は難航していた。
だってさー。そもそも魔族って自分の家族が大事だから、他の魔族の家庭環境とかそこまで興味を持ってないんだよ。
片一羽《カタワレ》を探すだけでも一苦労だよ。
別に片一羽《カタワレ》かどうかはオープンだから、それを知っている魔族は知っているけど、噂にもならないことだから、探すのが大変すぎる。
「今日で十五匹目だったけど、やっぱり違うんだよね?」
リレフがひげを妖精《フェアリー》に引っ張られながらテトラに尋ねる。
見つけた片一羽《カタワレ》は防壁の外に連れていき、上空からテトラに観察してもらうっていうプランだ。
「うん……自分のツガイなら、分かると思う。あの中には居ないかな」
「もうめぼしい片一羽《カタワレ》はいないし、地道に聞き込みで探すのもこれで限界かなぁ……このまま闇雲に探していても、いつまで経ってもみつからない気がしてきた」
リレフが妖精《フェアリー》に尻尾をかじられながら考え込む。
「オレらはわかんねーけど、その相手が近くに居るっていう、片一羽《カタワレ》の感覚ってのはどの程度細かく感じ取れるんだ?」
「それ、私も気になってたー!」
そうだ。実は私も。
せめて街のどの辺りにいるとか分かれば、少しは状況が変わってくるかもしれない。
けれど、テトラは首を振る。
「私も上手く説明できない感覚なの。第五区街《シャラク》に居るときは、西側の遠く離れた場所に居るって感覚だったし、今は近くに居るって感覚。それ以上の……どの辺りかまでは、分からないの」
「じゃあ、例えばその魔族が近くで泳いでても防壁の外でゴブリンと戦ってても、テ
トラの感覚はこれ以上変わらないんだね」
「相手が第三区街《ブルシャン》の近くにいる限り、そうだと思う」
私の言葉にテトラはうなずく。
「そっかぁ……この前のお母さんみたいに、テトラのツガイも旅行とか行かないかな。それなら、テトラも離れてるって感覚になるんだから、特定しやすいと思う」
温泉に行くとウキウキしてたお母さんを思い出す。
「んな都合よく行くかよ」
「旅行……」
私の発した言葉にリレフが反応し、動きを止める。
目をまんまるに開き、群がる妖精《フェアリー》にも反応せず考え込む。
「……そうか、もしかしたら――」
「どうしたのー? リレフ」
エアの言葉を受け、リレフは立ち上がる。
「もしかしたら、ボクらは大きな勘違いをしていたのかもしれない」
「勘違い?」
リレフは私の言葉には返さず、ぴょんと跳ね、テトラ前に降り立った。
そして、テトラに尋ねる。
「この辺りの地図とかある?」
④
「そもそもだけど、相手が人の意識ってのが間違いなんじゃないかな」
妖精《フェアリー》が持ってきた地図をテーブルに広げ、リレフが話しだす。
「でも、テトラが近くまで来てるのに、テトラのことを探そうとしないんだよ」
だからみんな、人の意識なんだろうと考えたんだ。
「その『テトラが自分の近くまで向かって来ている』って感覚を向こうが持ってなかったとしたら?」
「どういうこと?」
向こうも片一羽《カタワレ》なら、当然テトラが近くまできているって感覚があると思う。
「いい、ノエル。向こうも実は、『テトラの近くまで辿り着いた』って考えているかもしれないんだ」
「あっ! そういうことー!?」
エアは察したらしい。飛び跳ねている。フィリーも頷いている。ピンときてないのは私だけか。
「つまりはこういうことだろ? テトラの相手は“第三区街《ブルシャン》出身とは限らない”」
「え? だって……テトラは相手を探して第三区街《ブルシャン》に辿り着いたんだよね?」
「もー、ノエル! 魔族の街は、ブルシャンだけじゃないんだよ!」
「……ブルシャンだけじゃない……あっ!? そういうこと!?」
「そう、テトラの相手も、テトラと同じように彼女を探して、他の街からブルシャンに辿り着いたかもしれないんだ」
リレフは考えついたことを頭の中でまとめる。
そうか、私たちが第三区街《ブルシャン》出生だから失念してたけど、
なにも魔族の街は一つじゃない。第三区街《ブルシャン》の西には四番区街《オーレド》だってある。その先だってそうだ。
テトラの探す魔族が、四番区街《オーレド》から来た可能性だってあるんだ。
私は本の知識から、魔族の街の位置関係を思い浮かべる。
四番区街《オーレド》から東に進めば三番区街《ブルシャン》があって、そこから東に進めば五番区街《シャラク》がある。
テトラは五番区街《シャラク》出身で、ブルシャンに向けて西に旅をしてきた。
同じように、テトラの探してる魔族も、四番区街《オーレド》からブルシャンに向け東に旅してきた可能性だってある。
そして丁度中間地点、三番区街《ブルシャン》に辿り着いたところで、どちらも“近くにいる”と感じとった。
「それってつまり……」
エアの言葉をリレフが繋ぐ。
「向こうも、同じように考えたのかもね。『なんで相手は僕を探しにきてくれないんだろう』って」
私たちの推論だけど、もしもそうなら、とても大きなすれ違いだ。
魔族はツガイの感覚を信じきっている。だからこそ、どちらも『近くに辿り着いた』と感じたし、『相手が探しにこない』と感じてしまった。
ツガイの感覚が起こってしまったすれ違いだ。
「じゃあ、向こうも同じように、私が探しに来てくれるのを待っているってこと?」
テトラの結論に、リレフはうなずく。
「その可能性は十分にあると思う。似たような思考のツガイなら似たような行動をしてもおかしくない。ブルシャンのめぼしい片一羽《カタワレ》は探したから、後は……」
「街の外ってことね……」
私はテーブルに広げられた地図に目を移す。
三番区街《ブルシャン》を中心に据えた周辺マップだ。魔族に名所扱いされた場所やデートスポットが克明に描かれている。
「この辺りで、ここと同じような洞窟だとか、魔族が安心して住めるような場所を知らない?」
リレフの質問に、私たちはめいめい首を振る。
街の中に住まいを持っているのに、他に住めそうな場所なんて考えたこともないからだ。
「私の場合、水浴びしてる時にこの子と仲良くなって、ここに辿り着いただけだから……他は知らない」
テトラが近くに浮かんでいた一匹の妖精《フェアリー》に手を伸ばし、胸に抱く。
妖精《フェアリー》は小さく鳴いて、テトラに甘えている。
「街の外って一言でいっても広いからね。ボクも知らないし、どうしようかな……」
「しらみ潰しに探すっきゃねーか」
「そんなの時間かかりすぎるでしょ、馬鹿フィリー」
「じゃあどうすんだよ、単純女」
「うるさい、この脳筋」
「脳までお花畑女に言われたくねーよ」
「だ、だれがお花畑だ!」
「あーはいはい! こんなところで喧嘩しないのー!」
エアの制止を無視してにらみ合う私たち。そしてそれを見て笑うテトラ。
「本当に、あなた達仲がいいのね」
「「良くない!」」
私とフィリーのステレオにも動じない。
「片一羽《カタワレ》の私から見ても、お似合いのツガイよ。羨ましい――あっ」
テトラに抱かれていた妖精《フェアリー》がふわりと浮かび上がった。
ふわふわと浮かび、テーブルに広げられた地図の一点に降り立つ。
「え、もしかして……」
「に!」
妖精《フェアリー》は私の言葉に答えるように、小さく鳴き、つぶらな瞳を向けてきた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?
ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる