63 / 147
三章 ――白色の王子と透明な少女――
⑨<少女4> 『新たな力』
しおりを挟む
⑪【ソフィア】
叫び声に満たされる森の町を私の身体が駆け抜ける。
目に映る子供の影を次々と光の粒子へと変えていく。
「……数が、多すぎる」
もう五十体は倒したよ。でも、周りを見わたすとまだそこら中を影が走り回っている。
橋から斜め下の通路をぞき込むと、逃げ遅れた女の人が二匹の影に挟まれ震えていた。
「……あーもう! 二度とやらないって決めたのに!」
私は助走をつけ、高く飛んだ。
森の風が、悲鳴が、私の身体を駆け抜ける。
だん、と音を立て、私は女の人の目の前に降りたった。
二匹の影が私に意識を移した。けれど、遅い。既に私は細剣《レイピア》の狙いを絞っていた。
……コイツは、右足付け根。
鋭い剣先が影の中で光る一点を突き刺す。
ぼんっと音を立て、影の子供は細かな光の粒に変わり広がっていく。
コイツは、右目辺り!
再び、光の粒子が広がった。
何度も倒しているうちに分かった事だけど、この影の弱点、身体の中でなんか光っている点は、個体によって位置がバラバラだ。目立つ光だから分かるんだけど、毎回位置を確認して突き抜かなきゃいけない。
助けた女の人のお礼を受け、私は階段を駆け上がる。
「……もう、なんなの!? 一体!」
なんか流されて戦ってるけど、この子供の影は一体なんなんだろう。生き物じゃないのは明白だ。こんな生き物いてたまるか。
一番可能性が高いのはやっぱり、アレだよね。子供っぽいと思われるかもだけど、魔法――
「!!」
広場になっている枝の上を駆けていた私の前に、突如子供の影が現れた。
……なんかこの子、今何も無いところから突然現れなかった?
突いても突いても減ってかないはずだよ。
こんなの、どうすればいいの?
戸惑う私を囲むように、次々と子供の影が現れる。
十の影に囲まれたところで、私は大きく息を吸い込んだ。
「上等よ! 何匹でもかかってこい!」
広場に光る粒子が広がった。
それは次々に連鎖し、まるできらめく虹の中を通り抜けて行くように錯覚する。
もうこうなったら根比べだ。
なんだかよく分からない現象だけど、終わりは絶対にあるはずだ。
私が疲れて動けなくなるのが先か、この子達が尽きるのが先か。
剣術大会準優勝の肩書きにかけて、私は絶対に諦めない!
*****
「だ、駄目。もう駄目……多すぎる」
私は膝を立て、肩で息をする。その周りを影の子供達が囲っていた。その数は瞬きの度に増え、私の逃げ道を塞いでいる。
む、ムリムリ。だって、相手は無限に出て来るんだもん。休む暇が全くないんだもん。
私、人間なんだよ。体力が無尽蔵にあるわけじゃないんだよ!
「こ、コレって……マズい状況?」
私を囲う子供達の頭が次々と割れていく。どんどん、どんどん大きくなっていく。
――ごめん、お母さん。先に行くけど来ないでね。無事でいてね。
――マシュー、大事にしてた干し肉食べちゃったけど恨まないでね。
――あと、王子様、もう一回、姿を見たかったよ。
『諦めちゃ駄目だ!』
ああ、まだ私、十三歳だよ。これから沢山、楽しい事あったのに――
『まだキミは、戦える!』
せめて恋の一つくらいしたかったなぁ。ほんと、つまらない人生だ――
『こっちだ、こっちを見て!』
私の足元に、謎の生物が居た。
四本足で、大きな耳をパタパタさせている。
大きさは私のくるぶしくらい。長めの鼻が印象的な紫の生物だ。
大きな丸い宝石が付いた首飾りをぶら下げている。
……。
……。
……。えい。
『ちょお!?』
レイピアで突き刺そうとすると、飛び跳ねて逃げられる。
ちっ、意外と素早い。
『な、何をするんだぁ!』
「うるさい! 折角、人が有終の美飾ろうとしてんのよ!? 空気読みなさいよ幻覚!」
突如放たれた私の大きな叫びに、周りの影達もビクリとする。
『幻覚じゃない! 僕はちゃんとここにいる!』
「幻覚じゃなければ余計怖いわよ! ことば話すぬいぐるみなんて、怖い絵本でしか見たことないわよ!」
『ぬいぐるみじゃない! れっきとした魔族だ! ……いいから僕を持って!』
「怖い怖い怖い! 私を呪い殺す気!? 取り憑く気!? 他行って他に!」
『現在進行形で食べられそうな子が何を言ってるのさ!?』
……はっ!? しまった、非現実的な事が大きすぎてつい現実逃避してしまった。
そうだった。なんか私が突然叫んだおかげか、空気読んでくれたみたいだけど、私、謎の子供達にぱっくりされそうになっていたんだった。
「アナタを持ったらどうなるの!?」
『キミを経由すれば、僕の魔法をキミが使えるようになる!』
なにそれ、怖い。
「私経由って何よ!? それ、絶対、健康に悪いんじゃない!?」
そうこうしている間にも、動きを再開した影の頭が膨れ上がっている。
『健康を気にする前に今、死にたいの!? 説明している暇はない!』
そうだ。私はまだまだ、人生を楽しまなきゃいけない。
今、こんなところで、食べられる訳にはいかない。
――ああ、もう、どうにでもなれ!
飛び跳ねていた紫の生物を抱え込む。
「で、どうすればいいの!?」
『キミが思う、最も強い存在を強く思い描いて。それが現実となって現れるから』
凄い。凄いけど、こんな局面でぱっと思いつかない。
――って!
子供の一人が襲いかかってきた。大きく広がった頭の先を寸前で避ける。
『早く!』
「うるさい! そんなのすぐに思いつかないよ! 強い存在……強い存在――」
一体動いたからか、子供の影が次々に動き始める。攻撃が連鎖していく。
……ああ、もう! アレしか思いつかない! アレでいいや!
私は頭の中に一人の人物を思い浮かべる。
私が知る、最も強い存在の姿を。
一瞬、視界に赤い光が広がった。
細剣を持つ右手に赤いしじまが広がる。そのしじまは渦になり、細剣を通って剣先から広がっていく。
そして、それは現れた。
「す、凄い……ホントに出てきた」
私が知る、最も強い存在。
私が知る、最も頼りになる存在が。
『……キミがそれでいいなら、いいけどさ』
謎の生物が呆れた声を出す。
私の前には、“私”が立っていた。
最も頼りになる存在、“私”が細剣《レイピア》を持ち、影達に対峙していた。
叫び声に満たされる森の町を私の身体が駆け抜ける。
目に映る子供の影を次々と光の粒子へと変えていく。
「……数が、多すぎる」
もう五十体は倒したよ。でも、周りを見わたすとまだそこら中を影が走り回っている。
橋から斜め下の通路をぞき込むと、逃げ遅れた女の人が二匹の影に挟まれ震えていた。
「……あーもう! 二度とやらないって決めたのに!」
私は助走をつけ、高く飛んだ。
森の風が、悲鳴が、私の身体を駆け抜ける。
だん、と音を立て、私は女の人の目の前に降りたった。
二匹の影が私に意識を移した。けれど、遅い。既に私は細剣《レイピア》の狙いを絞っていた。
……コイツは、右足付け根。
鋭い剣先が影の中で光る一点を突き刺す。
ぼんっと音を立て、影の子供は細かな光の粒に変わり広がっていく。
コイツは、右目辺り!
再び、光の粒子が広がった。
何度も倒しているうちに分かった事だけど、この影の弱点、身体の中でなんか光っている点は、個体によって位置がバラバラだ。目立つ光だから分かるんだけど、毎回位置を確認して突き抜かなきゃいけない。
助けた女の人のお礼を受け、私は階段を駆け上がる。
「……もう、なんなの!? 一体!」
なんか流されて戦ってるけど、この子供の影は一体なんなんだろう。生き物じゃないのは明白だ。こんな生き物いてたまるか。
一番可能性が高いのはやっぱり、アレだよね。子供っぽいと思われるかもだけど、魔法――
「!!」
広場になっている枝の上を駆けていた私の前に、突如子供の影が現れた。
……なんかこの子、今何も無いところから突然現れなかった?
突いても突いても減ってかないはずだよ。
こんなの、どうすればいいの?
戸惑う私を囲むように、次々と子供の影が現れる。
十の影に囲まれたところで、私は大きく息を吸い込んだ。
「上等よ! 何匹でもかかってこい!」
広場に光る粒子が広がった。
それは次々に連鎖し、まるできらめく虹の中を通り抜けて行くように錯覚する。
もうこうなったら根比べだ。
なんだかよく分からない現象だけど、終わりは絶対にあるはずだ。
私が疲れて動けなくなるのが先か、この子達が尽きるのが先か。
剣術大会準優勝の肩書きにかけて、私は絶対に諦めない!
*****
「だ、駄目。もう駄目……多すぎる」
私は膝を立て、肩で息をする。その周りを影の子供達が囲っていた。その数は瞬きの度に増え、私の逃げ道を塞いでいる。
む、ムリムリ。だって、相手は無限に出て来るんだもん。休む暇が全くないんだもん。
私、人間なんだよ。体力が無尽蔵にあるわけじゃないんだよ!
「こ、コレって……マズい状況?」
私を囲う子供達の頭が次々と割れていく。どんどん、どんどん大きくなっていく。
――ごめん、お母さん。先に行くけど来ないでね。無事でいてね。
――マシュー、大事にしてた干し肉食べちゃったけど恨まないでね。
――あと、王子様、もう一回、姿を見たかったよ。
『諦めちゃ駄目だ!』
ああ、まだ私、十三歳だよ。これから沢山、楽しい事あったのに――
『まだキミは、戦える!』
せめて恋の一つくらいしたかったなぁ。ほんと、つまらない人生だ――
『こっちだ、こっちを見て!』
私の足元に、謎の生物が居た。
四本足で、大きな耳をパタパタさせている。
大きさは私のくるぶしくらい。長めの鼻が印象的な紫の生物だ。
大きな丸い宝石が付いた首飾りをぶら下げている。
……。
……。
……。えい。
『ちょお!?』
レイピアで突き刺そうとすると、飛び跳ねて逃げられる。
ちっ、意外と素早い。
『な、何をするんだぁ!』
「うるさい! 折角、人が有終の美飾ろうとしてんのよ!? 空気読みなさいよ幻覚!」
突如放たれた私の大きな叫びに、周りの影達もビクリとする。
『幻覚じゃない! 僕はちゃんとここにいる!』
「幻覚じゃなければ余計怖いわよ! ことば話すぬいぐるみなんて、怖い絵本でしか見たことないわよ!」
『ぬいぐるみじゃない! れっきとした魔族だ! ……いいから僕を持って!』
「怖い怖い怖い! 私を呪い殺す気!? 取り憑く気!? 他行って他に!」
『現在進行形で食べられそうな子が何を言ってるのさ!?』
……はっ!? しまった、非現実的な事が大きすぎてつい現実逃避してしまった。
そうだった。なんか私が突然叫んだおかげか、空気読んでくれたみたいだけど、私、謎の子供達にぱっくりされそうになっていたんだった。
「アナタを持ったらどうなるの!?」
『キミを経由すれば、僕の魔法をキミが使えるようになる!』
なにそれ、怖い。
「私経由って何よ!? それ、絶対、健康に悪いんじゃない!?」
そうこうしている間にも、動きを再開した影の頭が膨れ上がっている。
『健康を気にする前に今、死にたいの!? 説明している暇はない!』
そうだ。私はまだまだ、人生を楽しまなきゃいけない。
今、こんなところで、食べられる訳にはいかない。
――ああ、もう、どうにでもなれ!
飛び跳ねていた紫の生物を抱え込む。
「で、どうすればいいの!?」
『キミが思う、最も強い存在を強く思い描いて。それが現実となって現れるから』
凄い。凄いけど、こんな局面でぱっと思いつかない。
――って!
子供の一人が襲いかかってきた。大きく広がった頭の先を寸前で避ける。
『早く!』
「うるさい! そんなのすぐに思いつかないよ! 強い存在……強い存在――」
一体動いたからか、子供の影が次々に動き始める。攻撃が連鎖していく。
……ああ、もう! アレしか思いつかない! アレでいいや!
私は頭の中に一人の人物を思い浮かべる。
私が知る、最も強い存在の姿を。
一瞬、視界に赤い光が広がった。
細剣を持つ右手に赤いしじまが広がる。そのしじまは渦になり、細剣を通って剣先から広がっていく。
そして、それは現れた。
「す、凄い……ホントに出てきた」
私が知る、最も強い存在。
私が知る、最も頼りになる存在が。
『……キミがそれでいいなら、いいけどさ』
謎の生物が呆れた声を出す。
私の前には、“私”が立っていた。
最も頼りになる存在、“私”が細剣《レイピア》を持ち、影達に対峙していた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?
ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる