61 / 147
三章 ――白色の王子と透明な少女――
⑦<少女3> 『影の襲撃』
しおりを挟む
⑨【ソフィア】
喧噪が聞こえてくる。
遠くから、沢山の人達の叫び声が聞こえてくる。
暗闇の中、その叫び声に釣られ、私の意識は急速に呼び戻される。
「……はぁう!?」
夢から目覚める瞬間、私の身体は一瞬だけ落下し、慌てて身体に意識を向ける。
危なく倒れ込むところだっ――。
「って寝てる!?」
ま、まずい。お母さん達を見張るつもりが、いつの間にか眠っちゃってたよ。
だってなかなか出てこないんだもん。木陰と涼しい風が心地よすぎて眠っちゃったよ。
大丈夫かな。お母さん達、もう行っちゃったかな。
私は大きく伸びをし、立ち上がる。
その瞬間……気がついてしまった。
森の町ノカ。その情景が、私が眠る前と大きく変わっている事に。
「……な、何アレ……」
人間の子供程度だろうか、逃げ惑う人々を追いかける黒い影がいくつも蠢《うごめ》いていた。
丁度マシューくらいの大きさなので、遊び相手を求めているように見える。
周りの縁だけ白く輝き、橋を駆け、通路から通路に飛び移り、階段を飛び跳ねながら観光客に襲いかかっている。
一人のオジサンが壁に追い詰められ震えている。手に持つ鞄を振り回した途端、異変が起きた。黒い影の持つ頭の部分が、ぱかりと開いたのだ。
開いた頭は徐々に大きくなり、鞄を振り回すオジサンよりも大きくなる。
遠く離れていたけれど、がぷり、という音が聞こえてきた気がした。
二つに広がった大きな頭にオジサンは飲み込まれていた。
すぐに子供の形に戻った影はしばらく咀嚼を続け、別の獲物を目指し橋を駆け出していく。
「大変……」
何か分からない。私の理解を大きく超えている。分からないけれど、何か良くない事態になっている。
何か悪いモノに町が襲われている。
だん、と音を立てて私の目の前にある木箱に影が落ちてきた。
影の身体は縁の部分だけが白く光っていて、それとは別に胸の中心辺りが丸く光り輝いている。
咄嗟に私はレイピアを抜いていた。
長く練習してきた型が、私の思考より先に身体を動かし、剣先が影の頭目指して風を切る。
ぼんっと音を立て、レイピアが影の頭を貫通した。
「!!」
て、手応えがない!?
影の片手が大きく広がる。指先が大きく、鋭く伸び私目指し唸りをあげる。
けれど、影の手は空を切った。私は既に背後へと大きく飛んでいた。――そして、
「な、何? なんなのアナタ!?」
背後に飛びながら私は影の腕を二度切り裂いていた。人だったら肉が避けて骨が見えるくらいの深さで。
けれども影の腕は無事だった。何事もなかったかのように私に襲いかかってくる。
まるで空気を切るような手応えだった。でもさっきのオジサンみたいに向こうの攻撃は私に届くのだろう。鋭く尖った指で切り裂かれたら、怪我をすることが目に見えて分かる。
影の頭が蠢《うごめ》く。大きく膨れ上がり、がぱりと真っ二つに割れる。
「そう簡単に――」
私は既に、影との距離を詰めていた。
大会の第三試合、繰り出す一撃一撃がやけに重い男の子を相手した時のことを思い出す。
向こうが一撃必殺なら、私は手数で勝負だ。
「食べられると思うな!」
高速で放つ突きが次々と影の身体を貫通していく。私の腕、そして細剣の残像が広がる。
連続で繰り出される剣閃を受け、影の身体がみるみる削り取られていく。
かつん、と剣先に小さな手応えを感じた。瞬間、異変が起こった。
ぼんっと音を立て、影が小さく細かな粒に変化した。まるで光をあてた霧のようにきらめきながら散らばっていく。
「――っくりしたぁー!」
突然のことに、私の身体は突きの体勢のまま固まる。
光の粒は空気と溶け合い、霧散して消えていった。……だ、大丈夫そうね。変な攻撃かと思ったよ。心臓が飛び出るかと思った。
気持ちを無理矢理落ち着かせ、状況を整理するため思考を張り巡らせる。
攻撃して分かった。この影の弱点は身体の中に光る小さな光だ。そこを貫けば、影は消えて無くなる。
「そうと分かったら……」
私のやること、そんなのたった一つでしょ!
喧噪が聞こえてくる。
遠くから、沢山の人達の叫び声が聞こえてくる。
暗闇の中、その叫び声に釣られ、私の意識は急速に呼び戻される。
「……はぁう!?」
夢から目覚める瞬間、私の身体は一瞬だけ落下し、慌てて身体に意識を向ける。
危なく倒れ込むところだっ――。
「って寝てる!?」
ま、まずい。お母さん達を見張るつもりが、いつの間にか眠っちゃってたよ。
だってなかなか出てこないんだもん。木陰と涼しい風が心地よすぎて眠っちゃったよ。
大丈夫かな。お母さん達、もう行っちゃったかな。
私は大きく伸びをし、立ち上がる。
その瞬間……気がついてしまった。
森の町ノカ。その情景が、私が眠る前と大きく変わっている事に。
「……な、何アレ……」
人間の子供程度だろうか、逃げ惑う人々を追いかける黒い影がいくつも蠢《うごめ》いていた。
丁度マシューくらいの大きさなので、遊び相手を求めているように見える。
周りの縁だけ白く輝き、橋を駆け、通路から通路に飛び移り、階段を飛び跳ねながら観光客に襲いかかっている。
一人のオジサンが壁に追い詰められ震えている。手に持つ鞄を振り回した途端、異変が起きた。黒い影の持つ頭の部分が、ぱかりと開いたのだ。
開いた頭は徐々に大きくなり、鞄を振り回すオジサンよりも大きくなる。
遠く離れていたけれど、がぷり、という音が聞こえてきた気がした。
二つに広がった大きな頭にオジサンは飲み込まれていた。
すぐに子供の形に戻った影はしばらく咀嚼を続け、別の獲物を目指し橋を駆け出していく。
「大変……」
何か分からない。私の理解を大きく超えている。分からないけれど、何か良くない事態になっている。
何か悪いモノに町が襲われている。
だん、と音を立てて私の目の前にある木箱に影が落ちてきた。
影の身体は縁の部分だけが白く光っていて、それとは別に胸の中心辺りが丸く光り輝いている。
咄嗟に私はレイピアを抜いていた。
長く練習してきた型が、私の思考より先に身体を動かし、剣先が影の頭目指して風を切る。
ぼんっと音を立て、レイピアが影の頭を貫通した。
「!!」
て、手応えがない!?
影の片手が大きく広がる。指先が大きく、鋭く伸び私目指し唸りをあげる。
けれど、影の手は空を切った。私は既に背後へと大きく飛んでいた。――そして、
「な、何? なんなのアナタ!?」
背後に飛びながら私は影の腕を二度切り裂いていた。人だったら肉が避けて骨が見えるくらいの深さで。
けれども影の腕は無事だった。何事もなかったかのように私に襲いかかってくる。
まるで空気を切るような手応えだった。でもさっきのオジサンみたいに向こうの攻撃は私に届くのだろう。鋭く尖った指で切り裂かれたら、怪我をすることが目に見えて分かる。
影の頭が蠢《うごめ》く。大きく膨れ上がり、がぱりと真っ二つに割れる。
「そう簡単に――」
私は既に、影との距離を詰めていた。
大会の第三試合、繰り出す一撃一撃がやけに重い男の子を相手した時のことを思い出す。
向こうが一撃必殺なら、私は手数で勝負だ。
「食べられると思うな!」
高速で放つ突きが次々と影の身体を貫通していく。私の腕、そして細剣の残像が広がる。
連続で繰り出される剣閃を受け、影の身体がみるみる削り取られていく。
かつん、と剣先に小さな手応えを感じた。瞬間、異変が起こった。
ぼんっと音を立て、影が小さく細かな粒に変化した。まるで光をあてた霧のようにきらめきながら散らばっていく。
「――っくりしたぁー!」
突然のことに、私の身体は突きの体勢のまま固まる。
光の粒は空気と溶け合い、霧散して消えていった。……だ、大丈夫そうね。変な攻撃かと思ったよ。心臓が飛び出るかと思った。
気持ちを無理矢理落ち着かせ、状況を整理するため思考を張り巡らせる。
攻撃して分かった。この影の弱点は身体の中に光る小さな光だ。そこを貫けば、影は消えて無くなる。
「そうと分かったら……」
私のやること、そんなのたった一つでしょ!
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?
ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

歪んだ恋にさようなら
木蓮
恋愛
双子の姉妹のアリアとセレンと婚約者たちは仲の良い友人だった。しかし自分が信じる”恋人への愛”を叶えるために好き勝手に振るまうセレンにアリアは心がすり減っていく。そして、セレンがアリアの大切な物を奪っていった時、アリアはセレンが信じる愛を奪うことにした。
小説家になろう様にも投稿しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる