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三章 ――白色の王子と透明な少女――
プロローグ 『決戦の影』
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【プロローグ】
――約五百年前
帝都は戦渦に包まれていた。
夜空を炎に包まれた不死鳥が舞い、煉り石で造られた建物が次々に倒壊していく。
形を残した建造物も炎に包まれ、激しく繰り広げられる魔法の連鎖により、至る所でその短い余命を散らしていた。
花の都と呼ばれた美皇帝の裾野はもはや見る影もなく、命からがら逃げ出した帝都の民達の悲鳴で彩られていた。
ターンブル帝国皇帝の下に突如現れた『帝都の厄災』。
そしてその眷属達の引き起こした災禍は遂に極限まで達し、国と国が損得の垣根を越えた連携を見せた。
名声を轟かせた勇者達が結集し、幾多の犠牲を乗り越え、遂に『帝都決戦』を決行する。
激しい戦いが繰り広げるその影で、一人の男が瓦礫の隙間をひた走っていた。
脇にミスリル製の小さな宝箱《チェスト》を抱え、息を切らしながら目的の場所まで走っていた。
「どこに逃げようってんだコラ」
瓦礫の上から重圧が降り注いできた。
それは先を急ぐ男の足を止めるに十分な程の威圧を放ち、男の身体を縛り付ける。
「正直そいつのことは好きじゃねぇが、エルデナのお気に入りだからな。逃げられると後が面倒くせぇ」
暗闇に包まれた黒い影が拳を鳴らす。巨体であることは分かるが、その姿は影に隠れて男の目には映らない。
男は、震える脚に活を入れ、再び走り出した。
影が小さく舌打ちする。
「逃がさねぇッつってんだろ!」
巨体が一瞬にして男の背中へと距離を詰めた。鋭く伸びた爪が男の背中に襲いかかる。
「!?」
次に巨体が見たのは、身を犠牲にし男を庇った兵の亡骸だった。
胸を爪に串刺しにされながらも、安らかな顔で逝っている。
開きつつある逃げる男と巨体の距離を埋めるように、続々と雑兵達が集まってくる。
「雑魚がいくら集まろうとも、同じなんだよ!」
逃げる男の背中へ、野獣の咆吼が届いてきた。
*****
どれだけ、男は走っただろう。
どれだけの犠牲を払ったのだろう。
遂に男は目的地へと辿り着いた。
燃えさかる噴水の前に白馬に乗った男がいた。
その男は白い鎧と凪をその身にまとい、戦乱に包まれた帝都であることを忘れさせる雰囲気を持っていた。
「……良くやった」
白い鎧の男はそう言い、宝箱《チェスト》を男から受け取る。
「どうぞ、お逃げください。私はここに残ります」
振り返る男の背から覚悟を感じ取り、白い男は頷く。
「すまない。お前の犠牲、無駄にはしない」
白馬が、駆けだしていった。
残された男に、影をまとった巨体が迫りつつあった。
――約五百年前
帝都は戦渦に包まれていた。
夜空を炎に包まれた不死鳥が舞い、煉り石で造られた建物が次々に倒壊していく。
形を残した建造物も炎に包まれ、激しく繰り広げられる魔法の連鎖により、至る所でその短い余命を散らしていた。
花の都と呼ばれた美皇帝の裾野はもはや見る影もなく、命からがら逃げ出した帝都の民達の悲鳴で彩られていた。
ターンブル帝国皇帝の下に突如現れた『帝都の厄災』。
そしてその眷属達の引き起こした災禍は遂に極限まで達し、国と国が損得の垣根を越えた連携を見せた。
名声を轟かせた勇者達が結集し、幾多の犠牲を乗り越え、遂に『帝都決戦』を決行する。
激しい戦いが繰り広げるその影で、一人の男が瓦礫の隙間をひた走っていた。
脇にミスリル製の小さな宝箱《チェスト》を抱え、息を切らしながら目的の場所まで走っていた。
「どこに逃げようってんだコラ」
瓦礫の上から重圧が降り注いできた。
それは先を急ぐ男の足を止めるに十分な程の威圧を放ち、男の身体を縛り付ける。
「正直そいつのことは好きじゃねぇが、エルデナのお気に入りだからな。逃げられると後が面倒くせぇ」
暗闇に包まれた黒い影が拳を鳴らす。巨体であることは分かるが、その姿は影に隠れて男の目には映らない。
男は、震える脚に活を入れ、再び走り出した。
影が小さく舌打ちする。
「逃がさねぇッつってんだろ!」
巨体が一瞬にして男の背中へと距離を詰めた。鋭く伸びた爪が男の背中に襲いかかる。
「!?」
次に巨体が見たのは、身を犠牲にし男を庇った兵の亡骸だった。
胸を爪に串刺しにされながらも、安らかな顔で逝っている。
開きつつある逃げる男と巨体の距離を埋めるように、続々と雑兵達が集まってくる。
「雑魚がいくら集まろうとも、同じなんだよ!」
逃げる男の背中へ、野獣の咆吼が届いてきた。
*****
どれだけ、男は走っただろう。
どれだけの犠牲を払ったのだろう。
遂に男は目的地へと辿り着いた。
燃えさかる噴水の前に白馬に乗った男がいた。
その男は白い鎧と凪をその身にまとい、戦乱に包まれた帝都であることを忘れさせる雰囲気を持っていた。
「……良くやった」
白い鎧の男はそう言い、宝箱《チェスト》を男から受け取る。
「どうぞ、お逃げください。私はここに残ります」
振り返る男の背から覚悟を感じ取り、白い男は頷く。
「すまない。お前の犠牲、無駄にはしない」
白馬が、駆けだしていった。
残された男に、影をまとった巨体が迫りつつあった。
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