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三章 ――白色の王子と透明な少女――
幕間 『密談』
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【幕間】
玉座の間で二人の男が対面する。
そのどちらも白銀の髪、赤い瞳を持つ男。ルスラン王国王族であった。
一人は肩を超えた長い白銀の髪を持つ王太子テュール、そしてもう一人は癖っ毛の強い白銀の髪に甘く女のような顔立ちが特徴の、第三王子バルドルであった。
「これはこれはテュール兄上。ご機嫌麗しゅうございます」
貼り付けたような笑顔、取って付けたような撫で声にテュールの表情が険しくなる。
「バルドルこそ元気そうだねぇ。父上になんの相談かな?」
「世間話をしただけですよ。兄上こそ、キューリア湾の問題でお忙しいでしょうに……父上になんのご相談なのです?」
「僕は父上に呼ばれて来ただけだよ。……本当なら、ワーダー海域につきっきりになりたいくらいなんだけど、そうも言ってられなくてね」
「聞けば、島《ルパート》に動きがあったとか」
「……耳が早いね。まあ、帝国軍事拠点《クフイーダ》に動きがあるのはいつものことなんだけど、今回はちょ~っときな臭いんだよね」
「お呼びいただければいつでも馳せますが」
「……ああ。その時は、よろしく頼むよ」
お互いの社交辞令を終え、強国の未来を背負う男と国を持たない男はすれ違った。
一人は険しい顔のまま。一人は貼り付けたような笑顔のままに。
*****
「……バルドルになんのご用があったのです」
「妙なことを言うな。テュール。親が子に会うのに理由が必要か?」
「あの男は信用できませぬ。目的のためならば、王族をも手にかける男です」
「ロキが捕らえられた時の一件か。……証拠があるわけでもなかろう」
「奴以外に有り得ませぬ。草の報告からも現王政に不満を持っているのは明らかです」
「国を持てぬ男だからな。不満も溜まろう……だが、俺はそれでいいと思っている」
「王族に手をかける男が、何故でしょうか?」
「国など、一枚岩にはなれぬ。不満があるならば変えてみせれば良い。お主らがそれを上回れば良いだけの話だ」
「……腐敗の温床になり得る存在は排除するべきかと」
「腐敗と決めつけるな。俺も兄を乗り越え、弟を蹴落とし、この国を強くした。それを腐敗というならば、この国はとうに腐敗しきっている」
「……父上とは器の質が違います」
「それは当然そうだ。俺がどれだけのことをやってきたと思っている。培ってきた経験の差は歴然だ。……俺から見たら、テュール、お前ですらまだまだひよっこよ」
「そうでしょうね。……私はまだまだ、あなたから学ぶことがございます」
「だがまあ、今回はひよっこなりに良くやっておる。キューリア湾の肝はワーダー海域だ。島《ルパート》の件ではしてやったりと考えていた奴らも、今頃冷や汗をかいておろう」
「ですが、問題は激化しております。聞けば帝国軍事拠点《クフイーダ》に戦艦が集まっているとの情報も。糸が切れるのもそう遠い未来ではないかと」
「こちらからもシセラ艦をディファールに送ろう。だが、糸は切れるのを待て。くれぐれもこちらから手を出すな。欲をかいていると思われる」
「私としてはこの問題を早く終わらせてしまいたい気持ちもあります」
「国の問題はなにもキューリア湾だけではないからな。『教会《うたひめ》』の顔色を伺いつつ、魔族との交流も行わなくてはならない。“北”と“東”の問題もあるな」
「比べて、南は良くやっています。当面はロキだけで十分かと」
「だろうな。俺もここまで上手くやれるとは思わなかった」
「ですが今回の一件、エスタールは少々目立ちすぎました。警戒はするべきかと」
「なぁに、迂闊なことのできぬ国と思わせるだけで十分だ。仮に攻めたところで、旨味の少ない国。しばらくは誰も攻めようと思わぬよ」
「火種の心配がないのならば、ロキを“北”か“東”に送るのも一手なのでは」
「奴は現状、エスタールを基盤として動かした方が良いだろう。だが、クフイーダが大きく動いた時は経験を積ませてやれ。あ奴の振るう采配は俺も興味がある」
「……分かりました」
「他にも魔族関連での問題が発生した際は、あ奴を使う予定だ。王族であるに関わらず、地位や立場にこだわらぬ男だ。王族の中では最も、魔族と上手くやれる男であろうからな」
「……兄としてはもう少し、地位や立場を望んでもらいたいものですが」
「それを含め、あ奴の性格だろう。上手く利用すれば良いだけだ。……ああ、そう言えば、もう一つ問題があったな。……これを渡しておく」
「……指輪ですか?」
「ああ、……実はな――」
玉座の間で二人の男が対面する。
そのどちらも白銀の髪、赤い瞳を持つ男。ルスラン王国王族であった。
一人は肩を超えた長い白銀の髪を持つ王太子テュール、そしてもう一人は癖っ毛の強い白銀の髪に甘く女のような顔立ちが特徴の、第三王子バルドルであった。
「これはこれはテュール兄上。ご機嫌麗しゅうございます」
貼り付けたような笑顔、取って付けたような撫で声にテュールの表情が険しくなる。
「バルドルこそ元気そうだねぇ。父上になんの相談かな?」
「世間話をしただけですよ。兄上こそ、キューリア湾の問題でお忙しいでしょうに……父上になんのご相談なのです?」
「僕は父上に呼ばれて来ただけだよ。……本当なら、ワーダー海域につきっきりになりたいくらいなんだけど、そうも言ってられなくてね」
「聞けば、島《ルパート》に動きがあったとか」
「……耳が早いね。まあ、帝国軍事拠点《クフイーダ》に動きがあるのはいつものことなんだけど、今回はちょ~っときな臭いんだよね」
「お呼びいただければいつでも馳せますが」
「……ああ。その時は、よろしく頼むよ」
お互いの社交辞令を終え、強国の未来を背負う男と国を持たない男はすれ違った。
一人は険しい顔のまま。一人は貼り付けたような笑顔のままに。
*****
「……バルドルになんのご用があったのです」
「妙なことを言うな。テュール。親が子に会うのに理由が必要か?」
「あの男は信用できませぬ。目的のためならば、王族をも手にかける男です」
「ロキが捕らえられた時の一件か。……証拠があるわけでもなかろう」
「奴以外に有り得ませぬ。草の報告からも現王政に不満を持っているのは明らかです」
「国を持てぬ男だからな。不満も溜まろう……だが、俺はそれでいいと思っている」
「王族に手をかける男が、何故でしょうか?」
「国など、一枚岩にはなれぬ。不満があるならば変えてみせれば良い。お主らがそれを上回れば良いだけの話だ」
「……腐敗の温床になり得る存在は排除するべきかと」
「腐敗と決めつけるな。俺も兄を乗り越え、弟を蹴落とし、この国を強くした。それを腐敗というならば、この国はとうに腐敗しきっている」
「……父上とは器の質が違います」
「それは当然そうだ。俺がどれだけのことをやってきたと思っている。培ってきた経験の差は歴然だ。……俺から見たら、テュール、お前ですらまだまだひよっこよ」
「そうでしょうね。……私はまだまだ、あなたから学ぶことがございます」
「だがまあ、今回はひよっこなりに良くやっておる。キューリア湾の肝はワーダー海域だ。島《ルパート》の件ではしてやったりと考えていた奴らも、今頃冷や汗をかいておろう」
「ですが、問題は激化しております。聞けば帝国軍事拠点《クフイーダ》に戦艦が集まっているとの情報も。糸が切れるのもそう遠い未来ではないかと」
「こちらからもシセラ艦をディファールに送ろう。だが、糸は切れるのを待て。くれぐれもこちらから手を出すな。欲をかいていると思われる」
「私としてはこの問題を早く終わらせてしまいたい気持ちもあります」
「国の問題はなにもキューリア湾だけではないからな。『教会《うたひめ》』の顔色を伺いつつ、魔族との交流も行わなくてはならない。“北”と“東”の問題もあるな」
「比べて、南は良くやっています。当面はロキだけで十分かと」
「だろうな。俺もここまで上手くやれるとは思わなかった」
「ですが今回の一件、エスタールは少々目立ちすぎました。警戒はするべきかと」
「なぁに、迂闊なことのできぬ国と思わせるだけで十分だ。仮に攻めたところで、旨味の少ない国。しばらくは誰も攻めようと思わぬよ」
「火種の心配がないのならば、ロキを“北”か“東”に送るのも一手なのでは」
「奴は現状、エスタールを基盤として動かした方が良いだろう。だが、クフイーダが大きく動いた時は経験を積ませてやれ。あ奴の振るう采配は俺も興味がある」
「……分かりました」
「他にも魔族関連での問題が発生した際は、あ奴を使う予定だ。王族であるに関わらず、地位や立場にこだわらぬ男だ。王族の中では最も、魔族と上手くやれる男であろうからな」
「……兄としてはもう少し、地位や立場を望んでもらいたいものですが」
「それを含め、あ奴の性格だろう。上手く利用すれば良いだけだ。……ああ、そう言えば、もう一つ問題があったな。……これを渡しておく」
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