群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

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二章    ――生まれの片一羽――

ノエル7 『巨大ゴブリン戦①』

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        ****

 突然だけど白状しよう。実は私は不器用な女だ。知ってるって? ふっふっふ、実はね、 魔法もなのだよ。
 お母さんは炎で鳥とか魚とか、なんなら3Dの地図とかも作って見せてたけど、私はその才能なし。
 その代わり人よりも魔力が膨大らしくて、高火力の火炎弾を自分の手を痛めないで軽々と打つことができる。……なにが言いたいって? つまり、

        ****


「ごめん、もう魔力残り少ない」
 なにを隠そう、私は威力が大きな魔法しか打てないのだ。それってつまりは燃費が悪いということ。

「だよねー、あんだけぶっぱなせばねー」

「むしろ、あれだけ打てるノエルが怖いよボクは」
 二人にやけに感心されてしまった。……はっ現実逃避してる場合じゃない。

 巨体が大きく息を吸い込んだ。
 咆哮一つでビリビリと空気が震える。体の動きが止められる。

「ふん、図体でかけりゃいいってもんじゃねぇよ!」
 もはや戦意喪失気味の私たち三人を尻目に、一人やる気満々な戦闘馬……もとい脳筋A。あんたあのバケモノに勝つつもりなの?
 立ち上がった巨大ゴブリンは十メートル以上背丈がある。体はボディビルダーの様な筋肉に覆われ、挙げ句に口からはオットセイの様な大きな牙が生えている。これ、ホントにゴブリン?

「ノエル後火炎弾なん発くらい?」

「三……位? 火柱だと一回で終わりかも」

「火柱でアレ、倒せそう?」

「いやいや、無理無理」

「だよねー」
 巨大ゴブリンはゆったりと私たちを確認し、なにを思ったのか集落から出て行く。

「あれ? 逃げちゃった?」
 エアがあっけに取られたように声を出す。どすーん、どすーん、と足音が遠ざかる。

「へっ腰抜けめ」

「……もしかして、助かった?」
 突然、夜になった。一瞬だけ、そう思ってしまった。私たちの上に大きな影が広がったからだ。

「エア! 風ーーーーー!!」
 見上げたリレフが大声を出す。エアが突風を私たちに当てる。吹き飛ぶ四人、そして直後にそれは落ちてきた。
 衝撃と地鳴り。そして土煙。
 私たちがさっきまで居たところに巨大ゴブリンが生えていた。

「飛んで……きた?」
 理解が追いつかない。あの巨体でジャンプ?--ひっ
 私たちを仕留め損なったと認識した瞬間、巨大なゴブリンはその長い腕を振る。
 その手は、紙一重で私たちに当たらない。ギリギリ、偶然当たらなかっただけだ。
 エアの突風を受けていた私たちに更なる暴風が当たる。と、巨大ゴブリンのもう片方の手が……光った。

「リレフ! 反--」
 私が言い終わる前に、巨大ゴブリンが地面に輝くこぶしをぶち当てる。長い扇状に地面が波打ち、私たちが地面に着地した瞬間、トゲの波が私たちに襲いかかる。

 けれども、リレフの胸の宝石は光っていた。

 前後左右、ついでに下から次々に襲いかかるトゲの波を魔法反射ではじき返す。光の壁は丸い球状となり私たちを守る。光の球が私たちの体ごと上下に激しく揺れる。エレベーターを高速で動かしてるみたい。気持ち悪い。

「あの巨体であのスピード、ついでに魔法と来たか」

「ど、どうしよ、ノエル」

「私に聞かないで……」
 絶対チートだアレ。勝てるわけない。

「考えなきゃ、なにか……ヒントになることは」
 私は元居た世界の情報とこちらでの本の知識を頭の中でごちゃごちゃと引き出す。
 あ、ドラ○もんってこんな時焦りながら鍋とかお箸とか出してたっけ。未来の猫型ロボットでもああなるんだから私だって――

「来たよ!」
 巨体が、迫る。タックル!
 暴風と共に押し寄せる肉壁。だがそれが当たる前に私の体が浮かび上がった。いつの間にかエアが私の両肩を掴み、急上昇してる。
 フィリーもリレフを抱え、浮かび上がってきた。上空から見下ろす形となる。巨大ゴブリンは私たちを見上げ、良く分からない叫び声を上げている。

「ここなら、攻撃届かなそうだね」

「うん、でも油断はできない」
 フィリーの腕の中でリレフもどうするか考えているようだ。

「あ、あんまり長く持たないかも」
 バッサバッサと飛ぶエアが苦しそうな声を上げる。

「大丈夫?エア、どこか痛い?」

「ううん、ノエルが重……あ、ううん、なんでもない」
 ……ごめんね、ダイエットするから。今はもうちょっと頑張って。

「……うっし、決まった」
 ずっと黙ってたフィリーがなにかを決意する。

「フィリー、どうするの?」

「あいつの目を狙う。両目ともだ」
 それ悪役のすること、と心の中で思いつつも、口には出さない。

それしかないかな……エア、風切りの刃カマイタチで目を狙える?」

「や、やって……みる」
 それどころじゃなさそうだ。御免、エア。重くて御免。
 見ると、痺れを切らしたのか巨体の手が私たちにかざされ、光る。

「なにかしてくるよ!」
 巨大な丸い岩がうねりを上げ、飛んで来た。だが、リレフの魔法反射で逆に巨体の方へ跳ね返される。
 巨大なゴブリンはそれを認識した瞬間、パンチで岩を粉砕する。

「っぶなー!」

「見た目が実弾だったからちょっと不安だった。良かったよ跳ね返せて」
 やっぱり跳ね返せるのは魔法のみらしい。それだけでも助かるけど。

「うっし、じゃあ行ってくる。下ろすぞ、リレフ」

「私も……限界。ごめんね、ノエル。今日から鍛えるね」
 謝らないで。それじゃあ私が悪いみた……私が悪いのか!?
 私とリレフを下ろし、翼組は上空から巨体へ近寄る。

「ノエルはちょっと休んで魔力回復してて。ボクはサポートしてる」
 リレフはそう言って走り去って行った。
 先ほどからフィリーが巨体の顔に近づこうとしているが、長い腕に阻まれ、なかなか接近できてない。エアも動き回る巨体にカマイタチを当て辛そうにしてる。

 私はあの巨大なゴブリンを倒す方法を必死で考える。

 なにか……なにかないか。
 そういえばさっき、なにか考えてて……ド○えもん? でもあんな便利な存在ここには……あっ!

「フィリー! 秘密道具! じゃない、武器落ちてる」
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