群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

一章 ――王家の使命――

ロキ18 『希望』

　空に衝撃が走った。

　夜空が弾け、赤く染まる。
　遅れて激しい爆音と地鳴りが響き渡る。

「……なんだ――あれは」
　俺は空を見上げていた。ラーフィア山脈を越えた夜空を見上げていた。

　そこには巨大な火柱が上がっていた。

　竜巻のように渦巻く炎が燃え上がり、空を突き抜けている。
　山脈を越えた先だというのに、暴力的な力と圧倒的な破壊力を感じ取れる。
　それはさながら、激しく身体を燃やす竜だった。
　空を越えて、その先へと高く昇る火竜だった。

「……『魔界』なのか？　一体、何が起こっている！？」
　ラーフィア山脈を越えた先は、魔界へと繋がっている。
　そこで、何かが起こっている。

　突然の現象に驚いたのは、白竜も同じだったようだ。
　俺に向けていた口を閉じ、俺と同じように火柱に魅せられている。

　そして、白竜はその両翼を大きく開いた。
　白竜が高く飛翔していく。火柱の正体を見るため、ラーフィア山脈を越えていく。


　俺は、その機会を逃さなかった。

　麓に向けて、ただ、ただ、走った。

　確証があったわけじゃない。それでも、一筋の希望にかけ、走った。

　白竜は山脈を越える者を食らう。ならば、降りてしまえば逃れられるかもしれない。


　転び、枯れ木に傷つきながら岩盤を飛ぶように駆けていく。

　体中が痛み、傷口が激しく熱を帯びる。それでも、希望に向けて力が湧き出てくる。

　心が軽くなる。

「……ありがとよ！　『魔界』！」
　あれは……あの火柱は、俺に与えられた、最後の助け手だ！