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帝都のひと夏

四阿にてⅢ(終)

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「殿下、申し訳ございません。」
小径から現れたのは先ほどの近衛騎士だけだった。
「馬車溜まりまで行ったのですが、一足違いで帰られたとのことです。」
走って来たのか、心なしか息が荒い。
「何だって?あいつが俺の言伝を忘れるはずがないんだが・・・」
殿下が焦って言うと、近衛騎士は言葉を継いだ。
「先ほどすれ違った時もお顔の色が悪かったので、御不調だったのでは?お言付けが必要なら団長をお呼びしましょうか?」
「いや、良い。有難う。お前は元の配置に戻ってくれ。」
「私はこの四阿の警備担当であります。殿下とご令嬢がいらっしゃる間は先ほどの場所におりますので。」
「そうか、ご苦労。」
やり取りを済ませると、騎士はさっと一礼して去って行った。
あっけに取られて見ているだけだった私を振り返った殿下は、済まなそうな顔で口を開いた。
「済まない!無理やり連れて来て偉そうな事言っておきながら、会わせられなかった。段取り不足は俺の失態だ。」
頭を下げる殿下に慌てる。
「殿下、頭をお上げください。確かに先ほどご挨拶した時のジキス・・・ロイス卿はあまり顔色が良くありませんでしたから・・・」
殿下がどんな言付けをしたのかは分からないけど、私みたいに雑だったのかもしれないけど。殿下の様子を見るに、いつもはそれで通じてたんでしょう?
なら、とても責められないわ。
私が再び頭を上げるようお願いすると、殿下はやっと顔を上げた。
「君の帝都滞在中、なるべく早く、ゆっくり会える機会を設けるから。俺の招待を厭わずに受けて欲しい。」
真剣なまなざし。心なんか読まなくても、うそじゃないって信じられる。
「有難うございます、殿下。楽しみにしておりますわ。」
今度は意識しなくても自然に微笑むことが出来た。
「ありがとう。」
殿下もほっとしたように微笑む。その顔は心なしか赤かった。

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