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帝都のひと夏

抜け目のない王子さまでした

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あの人!
驚いた私には目もくれず、その人は木立を抜ける。

「あ、あら・・・」
「・・・どなた?」
「さ、さぁ・・・」
いきなり現れたのが知らない若い男性で、彼女たちも驚いたみたい。顔を見合わせてから、若者の方を向きつつ一歩下がった。
でも、警戒の表情を物ともしない彼は優雅な足取りで近づくと、三歩手前で止まり、自然に腰を屈めた。
「こんにちは、小さな貴婦人レディ方。立ち聞きをしてしまったご無礼をお許し下さい。」
ご挨拶させていただいても?
垂れ気味の榛色の瞳に警戒させないにこやかな笑みを浮かべて続ける。
「私はロンヌ王国、シヴレー伯の弟、ステファン・オーランドと申します。」
言いながら、一番近い令嬢に向かい、笑みを深めると、訴えるように胸に手を当て、もう片方を差し出した。
彼女はサッと赤くなって、友人たちに助けを求める目を向けたけれど、みんな赤くなって見ているだけだ。
分かるわ。みんな私と同い年くらいの子だもの。どうしていいか分からないよね。
同情して見ていると、挨拶を求められた子は観念したみたい。ぎこちなくカーテシーをした。
「・・・ヘンドルフ伯爵家のアンネと申します。」
恐る恐る差し出された微かに震える手。
でも、その手をそっと握る仕草も、指先に落とす口付けも、実に優雅で洗練されていて。
令嬢方はちょっとどぎまぎしているみたい。
それはそうよね。
貴族の令嬢と言ってもデビュー前は基本同じ年頃の子たちとの交流しかない。こういう大きな会に出るときは、挨拶は家族か後見人の後ろについて行うから、こんな風に大人の男性と一人で挨拶を交わすこと自体、有り得ない。
こんな時、もしオストマルク帝国うちの男性なら、驚かせて済まない、と一言言ってさっさと立ち去るだろう。
それを、いきなり正式な挨拶をしてくるなんて。
しかも、ロンヌ王国と言えば、騎士道と伊達男で有名な恋の国と言われている。
ステファンさん、、、自称フィン兄さまの親友で、私にとってはチョコプリンの仇、、、は、ちょっと見だと柔らかそうなくせのある薄茶色の髪と垂れ気味の榛色の瞳が、優しい雰囲気を醸し出すきれいな男の人なのだ。
そんな人に、騎士がお姫様にするような礼をされては、デビュー前の女の子はドキドキするに決まってるじゃない。
見る間に三人と挨拶を交わし、令嬢たちを虜にしたステファンさんは、彼女たちを家族の元へ送るエスコートを申し出た。
そのままさっさと背中を向けて、令嬢たちと去って行く、、、と思ったら、ふと、こちらを向いた。
え?
目が合った気がして思わず見つめ返すと、声を出さず、口だけ動かして何か言った、、、と思ったら、耳元でささやく声がした。
「一つ貸しですよ。後でご挨拶に伺います。」
思わずビクッとして耳を押さえたら、いたずらっぽく笑いながらウインクをして、そのまま去って行く。
風に乗せる術式!
それにしても、、、ロンヌの伊達男には気をつけなさい、とマナーの先生に言われたのは、こういうことだったのね、、、。
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