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帝都のひと夏

見知った顔を見つけました。

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その声と共に。
さぁっと、音もなくその場の人々が膝を折った。もちろん私も、出来る限りの優雅さでカーテシーをする。
その沈黙の礼の中を。
ゆったりとした足音が三つ、室内に入って来た。そのまま上座へと進んでいく。
やがて足音は消え。
「皆、面を上げなさい。」
落ち着いた声がして、静寂が破られた。
声の方に向け、やや俯き加減まで顔を上げ、ちらっと見上げると、一段高く作られた席に座る皇帝夫妻と、、、見覚えのある殿下の姿が見えた。
あ。
と思った時。
再び皇帝陛下が口を開いた。
「これは余が主催するとはいえ、新たな騎士の誕生を祝い親交と絆を深め、帝国の一層の安寧を願う祝いの会である。中には儀礼に慣れないものもいるであろう。以降は無礼講とする故、皆、この目出度い午後のひと時を楽しんで欲しい。」
陛下の言葉が終わると同時に、軽やかな音楽が流れ始め、今まで閉じていたバルコニーへの窓がサッと開いた。涼しい風が入って来るその向こうには、明るい夏の初めの光が満ちる、緑豊かな庭園が続いている。
そして。
今まで飲み物しかなかったのに、次々と美味しそうな軽食や可愛くて色とりどりのお菓子が運ばれてきた。
「良かった。これからだったのね。」
どおりでみんな席に着かずに立って話していた訳だわ。小声で呟くと、聞きつけた伯父さまが、くっと笑った。
「食べられちゃったと思った?食べ物はいつも、陛下の挨拶の後に出るんだよ。お菓子をほおばった時に陛下が来たら困るだろう?」
「伯父さまったら失礼ね。でも、仰る通りだわ。」
私も小さく笑ってから、その場を見回す。
みんな少しずつ話したり、移動したりし始めて、場に音と動きが戻って来た。
あ。早速食事をとりに行く人もいる。いいな。
気付けば朝から何も食べて無い。コルセットで軽く締めているけど、余裕で食べられるくらいペコペコだ。
ケーキやタルトも良いけど、先ずはサンドウィッチからかな、、、。挨拶終わったし食べたいな、、、そう考えていると。
「ディーちゃん。ご飯は後だよ。先ず私たちが陛下に挨拶に行かないと、他の貴族は行けないんだから。」
私の視線の方向とは全然違う向きで、伯父さまについっと手を引かれた。
「え?」
つられて歩き始めながら、伯父さまを見上げる。
「待ってると緊張するからね。始めに済ませてしまうって、結構良いよ?」とウィンクされてしまった。
伯父さまったら。お茶目さんでいらっしゃるんだから。

私たちが移動すると、それに連れて人々が自然に道を開けてくれる。いつの間にか父さま母さま、オスカー兄上にフィン兄さま、オリヴィエ兄さままで集まってきて、結構な集団になってしまった。
「おや、結局アルフも来たのかい?これからするのは陛下への挨拶だよ?頭を下げるんだけど?」
伯父さまがにやにやしながら父さまに話しかけると。
「ディアナとエレオノーレが行くのです。行かない訳には。」
ムッとした口調で返してきた。その隣では、エスコートされた母さまが、アル。お願いだ。大人しくして頭を下げてくれよ、と幼子に言うような注意をしている。
父さまってホント子供みたい。秘かに同情しながら母さまを見ていると、今度はひょいっと顔をのぞかせた。
「義兄上、申し訳ありません。義兄上と一緒ならアルも頭を下げると思うので、、、他の方にも失礼なのは承知していますが、ご厚意に甘えさせて頂き、コンラート一門として拝謁させていただきます。」
そうか。バーベンベルク辺境伯夫妻として挨拶するなら、公爵家と有力侯爵家の後だから、もうちょっと後になるのね。
「君たちが我が一門であることは私の喜びだ。何の問題がある?」
伯父さまは母さまに鷹揚に微笑んで、ゆっくりと前を向き。
「オストマルクの輝く栄光、皇帝陛下。そして皇后陛下、皇太子殿下。拝謁の栄を賜り有難く存じます。」
壇上の陛下に向かい、頭を下げた。
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