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帝都のひと夏
例えばすごろくで、ゴール目前に振出しに戻ったような?
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「っ」
思わず一歩踏み出そうとすると、兄さまの手に制止される。
見上げると、兄さまは黙って首を振った。
木の幹を殴りつけたステファンさんは、そのまま暫くそこに佇んでいたが。
やがて顔を上げると先ほどの男の人と同じように東屋の方へ消えて行った。
「良かったの?」
私が口を出すことでは無いけれど。何を言ってるんだかさっぱりだったけど。こんな場面を見てしまうとやっぱり気になる。
でも、兄さまは、ステファンさんが去った方を見つめながら言った。
「うん。あいつも男で王子だったら、あんな場面見られたなんて恥ずかしいだろうからね。これで良いんだ。ディーも今のは内緒でね。」
そしてふっと気付いたように、
「それより、そろそろお茶会始まるぞ。僕たちも行こう。ステファン達が消えた方に抜け道あるのかな?」
行ってみようか?
私の顔を覗き込む笑顔は、バーベンベルクの森で秘密の探検に付き合ってくれる、いつものものだった。
「兄さま!早く!」
「くっそう、あのクソ親父!ただじゃ置かないからな!」
いま、私たちは騎士団任命式に伴う皇宮主催のお茶会に行くべく、廊下を小走りしている。
もう、遅刻しちゃうし髪もドレスも乱れて泣きそう。
どうしてこんなことになっちゃうの!!
さっきの庭の木立の奥は、会場となる表宮殿へ通じる道だった。
木立越しに少し先に見える建物が、会場らしい。
「お、いいじゃん。ディー、ここ抜けようか?」
兄さまはさっさと足を踏み出したけど、私はその腕をぐっとつかんだ。
「だめ、兄さま。私今日はドレスなの。」
そう。
回廊をズンズン、庭園をサクサク歩いていたとはいえ、昼間のものとは言え、今日の私はお披露目用のキラキラのふわふわのドレスに、ちょっとだけど、かかとの付いた靴なのだ。
木立を抜けたりなんかしたら、スカートのレースが引っかかること間違いなし。
「この格好じゃ無理よ。兄さま、戻りましょう?」
庭園を戻り回廊を少し歩けば、馬車道があってお茶会会場へ送ってくれる馬車が待っている。
そう言ったのに。
兄さまったら私をひょいとローブに入れるなり、
「なら、面倒だから会場まで転移しよう。」
「あ、駄め・・・!」
止める間もなく転移してしまったの。
「あっれ?ここどこ?」
いきなり全く予想しない場所に出て驚く兄さま。
もう!だから止めたのに!
「兄さまったら!今日は警備の為に皇宮周辺は転移が一切出来ないようにしている、って父さまが今朝言ってたじゃない!」
「え!そうなの?・・・ごめんね、ディー。僕は親父の話は聞いて無いんだ。」
言ってる間もなく、足音がして、若い魔導師が来た。
「あー今日はダメだって通達出したのに。転移しちゃったの誰だよ?」
言いながらこっちを見る。
見ればここは魔導師団の門内、詰所の前だった。なるほど、今日は皇宮周辺で転移すると、ここへ飛ばされちゃうのね。
どうしよう、、、。
慌てる私をローブで隠すと、兄さまはチラッと魔導師を見た。
「え?団長・・・」
途端に一歩後ずさる若手さん。
え?それはちょっと父さまに対して酷くない?
思わず心の中で突っ込んでいると、兄さまが憎々しげに訂正した。
「違う、あんなのと一緒にするな。僕はフィン・グンダハール。バーベンベルク辺境伯家の次男だ。」
瞳の色以外一緒なのに、あんなのって言ってる。しかも魔導師団にいるのに、団長である父さまの息子とは名乗らないのね。
突込みどころが多くて疲れちゃう、なんて思っていると。
わらわら詰所から出てきた中に兄さまの知り合いがいたみたいで、よう、フィン、と話しかけられた。
「何してんだ、こんなことで?まさか今日に限ってこっちに来て、しかも転移しちゃったのか?」
「ああ、お前か・・・まあな。ちょっと急ぎなんだ。ここから表宮まで馬車出るか?」
「今うちに止まってるのあるかな・・・でも、魔導師団のだと、表宮の玄関までしか行けないぞ?」
「何でもいい、あるなら貸してくれ。」
仲良しさんなのか、兄さまは全く遠慮せず頼みごとをしている。
「・・・一台あるって。今こっちに回してもらった。けど、相変わらず態度でかいなお前・・・あれ?ローブの中、誰かいるの?なになに?もしかして女の子だったりする?」
「黙れよ。」
兄さまは相変わらず素っ気ない態度だし、人はだんだん寄ってくるし。
隠れてても、何だか視線を感じていたたまれない。
そうこうしてるうちに馬車が来た。ほら、乗れよ、とお知り合いらしき魔導師さんが扉を開けてくれる。
兄さまは「おう、悪いな。」と言って私ごとさっさと乗り込んで扉を閉めた。
うう、人としてその態度はどうなの、兄さま!
せめて私からだけでもお手間を取らせた謝罪とお礼を伝えよう。
「あの、有難うございました。」
ローブから顔だけ出して開いた窓越しに魔導師の皆さんにお礼を言う。
「!」
「ディー!御者、早く出せ!」
慌てた様子で窓を閉めた兄さまのせいで、一言しか言えなかったけど。
なんであの魔導師さんたち、あんなに驚いていたんだろう?兄さまの連れがお礼を言うなんて思わなかったとか?
どれだけ失礼なの?兄さまったら!
思わず一歩踏み出そうとすると、兄さまの手に制止される。
見上げると、兄さまは黙って首を振った。
木の幹を殴りつけたステファンさんは、そのまま暫くそこに佇んでいたが。
やがて顔を上げると先ほどの男の人と同じように東屋の方へ消えて行った。
「良かったの?」
私が口を出すことでは無いけれど。何を言ってるんだかさっぱりだったけど。こんな場面を見てしまうとやっぱり気になる。
でも、兄さまは、ステファンさんが去った方を見つめながら言った。
「うん。あいつも男で王子だったら、あんな場面見られたなんて恥ずかしいだろうからね。これで良いんだ。ディーも今のは内緒でね。」
そしてふっと気付いたように、
「それより、そろそろお茶会始まるぞ。僕たちも行こう。ステファン達が消えた方に抜け道あるのかな?」
行ってみようか?
私の顔を覗き込む笑顔は、バーベンベルクの森で秘密の探検に付き合ってくれる、いつものものだった。
「兄さま!早く!」
「くっそう、あのクソ親父!ただじゃ置かないからな!」
いま、私たちは騎士団任命式に伴う皇宮主催のお茶会に行くべく、廊下を小走りしている。
もう、遅刻しちゃうし髪もドレスも乱れて泣きそう。
どうしてこんなことになっちゃうの!!
さっきの庭の木立の奥は、会場となる表宮殿へ通じる道だった。
木立越しに少し先に見える建物が、会場らしい。
「お、いいじゃん。ディー、ここ抜けようか?」
兄さまはさっさと足を踏み出したけど、私はその腕をぐっとつかんだ。
「だめ、兄さま。私今日はドレスなの。」
そう。
回廊をズンズン、庭園をサクサク歩いていたとはいえ、昼間のものとは言え、今日の私はお披露目用のキラキラのふわふわのドレスに、ちょっとだけど、かかとの付いた靴なのだ。
木立を抜けたりなんかしたら、スカートのレースが引っかかること間違いなし。
「この格好じゃ無理よ。兄さま、戻りましょう?」
庭園を戻り回廊を少し歩けば、馬車道があってお茶会会場へ送ってくれる馬車が待っている。
そう言ったのに。
兄さまったら私をひょいとローブに入れるなり、
「なら、面倒だから会場まで転移しよう。」
「あ、駄め・・・!」
止める間もなく転移してしまったの。
「あっれ?ここどこ?」
いきなり全く予想しない場所に出て驚く兄さま。
もう!だから止めたのに!
「兄さまったら!今日は警備の為に皇宮周辺は転移が一切出来ないようにしている、って父さまが今朝言ってたじゃない!」
「え!そうなの?・・・ごめんね、ディー。僕は親父の話は聞いて無いんだ。」
言ってる間もなく、足音がして、若い魔導師が来た。
「あー今日はダメだって通達出したのに。転移しちゃったの誰だよ?」
言いながらこっちを見る。
見ればここは魔導師団の門内、詰所の前だった。なるほど、今日は皇宮周辺で転移すると、ここへ飛ばされちゃうのね。
どうしよう、、、。
慌てる私をローブで隠すと、兄さまはチラッと魔導師を見た。
「え?団長・・・」
途端に一歩後ずさる若手さん。
え?それはちょっと父さまに対して酷くない?
思わず心の中で突っ込んでいると、兄さまが憎々しげに訂正した。
「違う、あんなのと一緒にするな。僕はフィン・グンダハール。バーベンベルク辺境伯家の次男だ。」
瞳の色以外一緒なのに、あんなのって言ってる。しかも魔導師団にいるのに、団長である父さまの息子とは名乗らないのね。
突込みどころが多くて疲れちゃう、なんて思っていると。
わらわら詰所から出てきた中に兄さまの知り合いがいたみたいで、よう、フィン、と話しかけられた。
「何してんだ、こんなことで?まさか今日に限ってこっちに来て、しかも転移しちゃったのか?」
「ああ、お前か・・・まあな。ちょっと急ぎなんだ。ここから表宮まで馬車出るか?」
「今うちに止まってるのあるかな・・・でも、魔導師団のだと、表宮の玄関までしか行けないぞ?」
「何でもいい、あるなら貸してくれ。」
仲良しさんなのか、兄さまは全く遠慮せず頼みごとをしている。
「・・・一台あるって。今こっちに回してもらった。けど、相変わらず態度でかいなお前・・・あれ?ローブの中、誰かいるの?なになに?もしかして女の子だったりする?」
「黙れよ。」
兄さまは相変わらず素っ気ない態度だし、人はだんだん寄ってくるし。
隠れてても、何だか視線を感じていたたまれない。
そうこうしてるうちに馬車が来た。ほら、乗れよ、とお知り合いらしき魔導師さんが扉を開けてくれる。
兄さまは「おう、悪いな。」と言って私ごとさっさと乗り込んで扉を閉めた。
うう、人としてその態度はどうなの、兄さま!
せめて私からだけでもお手間を取らせた謝罪とお礼を伝えよう。
「あの、有難うございました。」
ローブから顔だけ出して開いた窓越しに魔導師の皆さんにお礼を言う。
「!」
「ディー!御者、早く出せ!」
慌てた様子で窓を閉めた兄さまのせいで、一言しか言えなかったけど。
なんであの魔導師さんたち、あんなに驚いていたんだろう?兄さまの連れがお礼を言うなんて思わなかったとか?
どれだけ失礼なの?兄さまったら!
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