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帝都のひと夏
コンラート公爵邸にてⅢ
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木陰から涼しい風が入る部屋でお手製の冷たいハーブティーとクッキーを頂きながら、私はラーナさん(あ、師匠呼びは遠慮されてしまったの)とゆっくり今までの話をした。
「・・・なるほど。それで魔力封印が解けたと。」
「そうなんです。元々帰ったら魔術の勉強を始める予定だったので、もうこのままでいることになりました。」
話し終えてふうっと一息ついてハーブティーを頂く。うん、喉すっきりだわ。
ラーナさんは失礼、お手を、と断ると、私の右手をゆっくりと握った。
「体調は?如何です?」
「特に変わりはありません。ごく幼い頃に封印が解けた時は軽く魔力酔いしましたけど、ここまで大きくなれば大丈夫だろうと、父さまも言ってました。」
「魔力は感じますか?」
「はい。今まで気付かなかった温かいものが体を巡っています。私の中だけでなく、外にもたくさん感じます。今まで何で気づかなかったのかな、と不思議なくらい一杯あって、息をするように私の中に入ってきて、一杯になると自然に抜けていきます。」
「なるほど・・・流石アルフレート坊ちゃまのお血筋・・・なにか?」
やや俯いてお話しされていたからつい不躾に見つめてしまい、顔を上げたラーナさんに不思議そうな顔をされてしまった。
「・・・父さまを、坊ちゃまと呼ばれるので・・・あ、何でも。」
穏やかな表情に気が緩んでつい言わなくていいことを言ってしまう。
口籠った私に、ラーナさんはゆっくり微笑んだ。
「済みませぬ。お父様がお小さい頃、この屋敷に滞在する時は私がお世話申し上げておりましたので、つい、気安く呼んでしまいましたな・・・気を付けましょう。」
「いえ。でも・・・」
私はラーナさんの言葉に引っかかる。滞在する時は、って?
「父さまはここに住んでいらしたのではないんですか?」
つい訊ねると、ラーナさんはおや、という表情をした。
「ああ、ご存じありませんか。それでは詳しいお話はお父様からお聞きください。ただ・・・お父様は、お母上が無くなった前後の数年しか、ここにはお住まいでは無かったのですよ。その時も、煩わしいのは嫌と仰って・・・この施療院に入り浸ってまして。」
「それ以外の時は?」
どこまで聞いていいのか迷いつつ、つい疑問を口にすると、
「黒の森ですよ。お母上様はそちらでお暮しでしたから。」
あっさり教えて貰えた。
なんでも、ラーナさんの家系は、公爵家の魔導師を務めつつ、黒の森に住む、父さまの母方の家系のお世話をしてきたのだそうだ。
と言っても、公爵家当主が黒の森を訪問する時についていくくらいだとラーナさんは笑ったけど。
「多少、他の使用人より親しく思って頂いてたようで、気安く頼って下さったのでしょう。今のお嬢様くらいの時でしょうか?」
そんな時に母さまがいなくなるなんて、父さま、どんなに悲しく不安だったろう。それこそ、魔力も不安定だったのかも。それをラーナさんに落ち着かせてもらったとか?
私がそう言うと。
ラーナさんは困ったように笑った。
「こと魔力、魔術に関して、お父様がどなたかを頼ったところを見たことはありません。もちろん私にもです。むしろ、何かと助けて下さいましたよ。『ラーナ、この方が効率的だよ』と。」
魔力も常に安定していたし、冷静で感情に揺れが無く、子供とは思えなかったそうだ。
「そうなんですね・・・。」
う、ちょっと落ち込むわぁ。私は父さまの怒りだけじゃなく、ちょっとした気持ちの揺れでも魔力が揺らいでしまうもの。
私が少し俯いたので、それと察してくれたみたい。
ラーナさんは持ったままだった私の手を優しく握ると、ポンポン、と軽くたたいた。
「子供のころには完璧に制御されていた魔力を、エレオノーラ様とのあれこれで、不安定に暴発させていたのもまた、お父様ですから。後始末には、本当に苦労しました。」
あら。
「お嬢様のように、豊かな感情をお持ちの方が、子供らしく自然なのですよ。初めのうち、感情の揺れと共に魔力が揺らぐのもまた、自然な事。制御の方法は・・・人それぞれですが、要は気持ちを落ち着ける方法を見つければいいのです。一般的に使われる方法も幾つかありますから、一番お嬢様の気持ちが落ち着く方法を、婆と一緒に試しながら見つけましょう。」
うう、温かくも頼れるお言葉、、、付いていきます、ラーナ師匠!
「・・・なるほど。それで魔力封印が解けたと。」
「そうなんです。元々帰ったら魔術の勉強を始める予定だったので、もうこのままでいることになりました。」
話し終えてふうっと一息ついてハーブティーを頂く。うん、喉すっきりだわ。
ラーナさんは失礼、お手を、と断ると、私の右手をゆっくりと握った。
「体調は?如何です?」
「特に変わりはありません。ごく幼い頃に封印が解けた時は軽く魔力酔いしましたけど、ここまで大きくなれば大丈夫だろうと、父さまも言ってました。」
「魔力は感じますか?」
「はい。今まで気付かなかった温かいものが体を巡っています。私の中だけでなく、外にもたくさん感じます。今まで何で気づかなかったのかな、と不思議なくらい一杯あって、息をするように私の中に入ってきて、一杯になると自然に抜けていきます。」
「なるほど・・・流石アルフレート坊ちゃまのお血筋・・・なにか?」
やや俯いてお話しされていたからつい不躾に見つめてしまい、顔を上げたラーナさんに不思議そうな顔をされてしまった。
「・・・父さまを、坊ちゃまと呼ばれるので・・・あ、何でも。」
穏やかな表情に気が緩んでつい言わなくていいことを言ってしまう。
口籠った私に、ラーナさんはゆっくり微笑んだ。
「済みませぬ。お父様がお小さい頃、この屋敷に滞在する時は私がお世話申し上げておりましたので、つい、気安く呼んでしまいましたな・・・気を付けましょう。」
「いえ。でも・・・」
私はラーナさんの言葉に引っかかる。滞在する時は、って?
「父さまはここに住んでいらしたのではないんですか?」
つい訊ねると、ラーナさんはおや、という表情をした。
「ああ、ご存じありませんか。それでは詳しいお話はお父様からお聞きください。ただ・・・お父様は、お母上が無くなった前後の数年しか、ここにはお住まいでは無かったのですよ。その時も、煩わしいのは嫌と仰って・・・この施療院に入り浸ってまして。」
「それ以外の時は?」
どこまで聞いていいのか迷いつつ、つい疑問を口にすると、
「黒の森ですよ。お母上様はそちらでお暮しでしたから。」
あっさり教えて貰えた。
なんでも、ラーナさんの家系は、公爵家の魔導師を務めつつ、黒の森に住む、父さまの母方の家系のお世話をしてきたのだそうだ。
と言っても、公爵家当主が黒の森を訪問する時についていくくらいだとラーナさんは笑ったけど。
「多少、他の使用人より親しく思って頂いてたようで、気安く頼って下さったのでしょう。今のお嬢様くらいの時でしょうか?」
そんな時に母さまがいなくなるなんて、父さま、どんなに悲しく不安だったろう。それこそ、魔力も不安定だったのかも。それをラーナさんに落ち着かせてもらったとか?
私がそう言うと。
ラーナさんは困ったように笑った。
「こと魔力、魔術に関して、お父様がどなたかを頼ったところを見たことはありません。もちろん私にもです。むしろ、何かと助けて下さいましたよ。『ラーナ、この方が効率的だよ』と。」
魔力も常に安定していたし、冷静で感情に揺れが無く、子供とは思えなかったそうだ。
「そうなんですね・・・。」
う、ちょっと落ち込むわぁ。私は父さまの怒りだけじゃなく、ちょっとした気持ちの揺れでも魔力が揺らいでしまうもの。
私が少し俯いたので、それと察してくれたみたい。
ラーナさんは持ったままだった私の手を優しく握ると、ポンポン、と軽くたたいた。
「子供のころには完璧に制御されていた魔力を、エレオノーラ様とのあれこれで、不安定に暴発させていたのもまた、お父様ですから。後始末には、本当に苦労しました。」
あら。
「お嬢様のように、豊かな感情をお持ちの方が、子供らしく自然なのですよ。初めのうち、感情の揺れと共に魔力が揺らぐのもまた、自然な事。制御の方法は・・・人それぞれですが、要は気持ちを落ち着ける方法を見つければいいのです。一般的に使われる方法も幾つかありますから、一番お嬢様の気持ちが落ち着く方法を、婆と一緒に試しながら見つけましょう。」
うう、温かくも頼れるお言葉、、、付いていきます、ラーナ師匠!
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