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皇宮での邂逅

俺(=皇太子)は新しいスキルを獲得した、、、出来れば今回限りとしたいものだ

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俺にとって謝罪とは、「許せ」という一言だ。
これは、七歳で立太子した時から、変わらない。
それ以前、第一皇子だった頃も、滅多なことでは頭を下げるなと言われていたけれど、皇太子になってそれは顕著になった。
「殿下が軽々しく頭を垂れてはなりません。帝国の威信に係わります。」
それが教師連中から執事や侍従(もちろんそこにマルティンも入る)、果ては父上母上に至るまで、俺に関わる全ての大人からの共通の縛めだった(父上が魔導師団長に頭を下げたことに驚いたのも、そのせいだ)。
教師からの課題をさぼっても、講義から逃げ出しても、お小言は食らうが、最後は俺の「以降気を付ける。許せ。」の一言で終わる。
結局監視の目が増えたり、課題をやるための教師は増えるだけだから、俺もあまりわがままは言わないようにしているが。

でも、今回辺境伯の令嬢に俺がしたことは、流石の俺でも「以降気を付ける、許せ。」で済むとは思えない。
変なことを言ったら逆効果だと思って、最初から許せ謝罪は外した。
それなのに何を言うのか、って言ったつもりだったんだが。
マルティンは、俺が『謝るなんて有り得ない』って思ってると取ったんだな。
うーん、こいつにまでそんな傲慢野郎だと思われてるとは。と言うか、お前も頭を下げるなって散々言った口だろうに。今更なんだよ。

まあ、つまり。
帝国の威信に係わるらしいこの頭を下げてする謝罪。
こいつは、それをしろって言っているんだな。

良いだろう、この頭にどんな価値があるのか、まだ公の場には出ない俺には本当の処は分からない。でも、それでも、この頭一つ下げてこの難題を乗り切れるなら、俺にとっては安いものだ。
まあ、障害が無いわけじゃないが。

ここまで頭の中で算段して、俺はマルティンに向き直る。
「お前は誤解している。俺はお前の策をきちんと理解していると思うぞ。但し、実行するにはまたお前の助けが要るがな。」





「取り敢えずはよろしゅうございます。お疲れ様でございました。」
「ふうっ。終わったか。」
それから四半時後。
俺は執事業五十年、礼儀作法の権化であるマルティンから、完璧な頭の下げ方の徹底指導を受けた。
軽い謝罪、重い謝罪、非公式、公式、、、。
俺の人生でこんなに頭を下げたことは無い。
だが、まあ、大体分かった。要は礼と一緒だ。
あとはその場に応じて使い分ければ良い。俺としては、出来れば衆人環視の中は避けたいところだが、、、。
あと数日で正式に紹介されてしまうから、出来ればその前に一度会いたいところだな。
俺がソファに倒れ込みながら考えていると、廊下から慌ただしい足音がした。
お、そろそろ時間切れか。
俺も着替えて今日の茶会の準備をしないと。
立ち上がって、ついでに着替えてしまおうかと考えていると、ノックに対応していたマルティンが戻ってきた。
「?」
緊張している?驚いている?でも、機嫌がいい。
珍しい表情を見ていると、俺の近くまで戻ったマルティンはにこやかに言った。
「何という僥倖でしょう。魔導師団長殿が、殿下の茶会にいらしているようです。
恐らくですが、ご令嬢をお連れだと思われます。」
良かったですね、殿下。
にこやかに言われても。

は?
「はあっ?」
俺は訳が分からず、またもソファに倒れ込んだ。
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