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皇宮での邂逅

皇太子殿下という俺を受け入れるためにⅥ(フェリクス視点)

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俺が呆然としている間に、話がどう進んだのか。
気が付くと父上が頭を上げていて、、、魔導師に言うのが聞こえた。
「では、お前の言い分はそれですべてなんだな?全ては夫婦喧嘩の一言で片付くと。」
「そうだ。エレオノーレとの誤解も解けたから、もう問題は無い。私は帰るぞ。」
言い捨てて、魔導師は踵を返そうとする。
だが。
「っ待て!まだ返すわけには行かない、アルフレート。お前たちはこれからどうするつもりなんだ?」
父上が呼び止めた。
「どうする、とは?」
魔導師が振り返る。
「お前達夫婦はこのままこの国で、今まで通り暮らしていくのか?バーベンベルク辺境伯と魔導師団長として?」
「ああ。エレオノーレは私と家族の次にバーベンベルクを愛しているからな。そして、エレオノーレの居るところが私の居場所だ。無職の夫では彼女も気まずかろうから、魔導師団の面倒は引き続き私がみてやる。」
当たり前のように言う魔導師。
父上は、ホッと溜め息をつくと、、、何故か宰相を見た。
宰相が頷く。と、突然父上の口調が変わった。

「ならば、ここからはプライベートではない。」
さっきまでの静かで穏やかな声ではない。冷たい声で言う。
「お前が話した今回の騒動の原因は、全て私情だ。私情で帝国を危機に陥れた事は公人として罪に当たると言う事は分かっているか?」
「?・・・ああ。だが・・・。」
訝しげな魔導師。対して父上は、真剣な顔をして言った。
「私は皇帝として罪を犯した魔導師団長を捕縛し、裁かなければならない。」
「お前が、私を捕縛し裁く?出来るのか?今ここで、お前に、あそこに転がってる連中と同じことをしてやろうか?」
魔導師の声音は完全に揶揄している。
悔しく無いの?父上。言い返してやればいいのに!
でも。
魔導師の言葉を聞いて、父上はサッと下がると、、、宰相の後ろに隠れてしまった、、、!
え?隠れるの?
驚く俺の前で。
「なぜ、皇帝たる私が手を汚さねばならない・・・ロデリック、宰相として配下の監督不行き届きだ。お前が捕らえろ。」
「なっ、ジークムント!」
父上は当たり前のように宰相に押し付けると、さっさと階の方を向き、玉座へと登ってきてしまった。
俺は慌てて玉座の裏に隠れて耳を澄ます。
宰相はどうするんだろう?
固唾を呑んで聞き耳を立てていると。
「御意、陛下。魔導師団長。ここからは私が相手だ。」
皇帝に突然厄介ごとを押し付けられたのに、落ち着き払った宰相の声が聞こえた。

「兄上・・・っ」
「閣下と。魔導師団長アルフレート。」
やり取りの合間に、玉座にドサッと人の座る音がする。
我慢しきれなくて玉座の陰から再び覗くと。
階の下で玉座を背に魔導師と対峙する宰相の姿があった。
「・・・先ほど陛下が貴方に確認したな?この国で、今まで通り生きるのかと。貴方はそうだと答えた。ならば、この国の法と秩序に従いなさい。陛下は幼馴染みで有能な貴方に、ご温情を垂れ給うだろう。罪は罪として認め、反省し、償いなさい。」
宰相が一歩出れば、魔導師は一歩下がる。
「くそっ、ジークムント!」
「陛下だ。本来なら、それ以外の言葉を、この場所であの方に向けてはならないのだ。」

逃げた父上の代わりに、宰相が俺の信じてた世界を守ってる、、、。
悲しくなってきた俺の耳に、「ふぅっ。一段落だな。」と言う安堵した父上の声が聞こえた。
俺の尊敬する、強い父上像は、最早粉々だ。
もう、泣きそうだ。
そうこうしているうちに、下では逃げようとする魔導師を宰相が捕まえようとしていた。
「観念しろ。魔導師団長。罰として、気絶している貴族たちを起こし、その前で陛下に謝罪と、改めての忠誠を誓え。」
「イヤです。ジークムントにそんなこと。それに、私はバーベンベルクからちょっと抜けてきたんです。もう帰らせてください。兄上!」
言いながら宰相が腕を掴もうとし、魔導師が避けるためか、腕を上げた、その時。
「アル!何してる!止めろ!」

突然彼等の後ろに何人かが現れた。
そのうちの一人が魔導師に向かって叫んだ瞬間、魔導師の動きが止まる。
「エ、レオノーレ?」
魔導師が呟くのと、駆け寄った人物が彼を後ろから羽交い締めにするのが同時だった。
「近衛がオスカーを連れに来たと聞いたと思ったら居なくなったから、まさかと思って来てみれば・・・!君は陛下の前で跪きもせず、何をしているんだ!」
女にしては低く、でも男のような野太さの無い、なめらかで通りの良い声が玉座の間に響く。
「跪くんだ。そしてこの度の不始末について、陛下に謝罪するんだ。私も一緒に謝るから。いいね、アル・・・魔導師団長。」
その声の主は、羽交い絞めをゆっくりほどくと、そのまま魔導師の肩をそっと押さえるようにして、、、あっさりと跪かせた。そのまま自身も跪き、深く頭を垂れる。
紅色の髪が、背から肩に鮮やかに流れ落ちた。
「陛下、この度は我が夫の不始末で帝国全土を危機に陥れたこと、申し開きの余地もありません。」
一呼吸おいて、謝罪する。
「本来ならば万死に値するところではありますが、彼の日ごろの帝国に対する貢献と忠誠に免じ、何卒寛大な御処置を賜りたく・・・」
「エレオノーレ、なんで君が謝るん・・・」
「君は少し黙っているんだ!ほら、もっと頭を下げて。」
「・・・」

俺は、泣きそうだったことも忘れてその光景に見入ってしまった。
あれだけ傲慢で、誰にも何にも従おうとしなかった魔導師が、隣の女性の言う事に黙って従って深く頭を垂れている。

そこへ。
「もちろん分かっている。私は能力のあるもの忠義に厚いものに寛大だからね。バーベンベルク辺境伯エレオノーレ。」
先ほどまでの緊張した声とは打って変わって重々しい皇帝然とした父上の声が響いた。
以前なら、誇らしく思っていただろうけど。
今は全然心に響かない。
結局、父上は頭を下げて逃げ、宰相と、何よりあの女性が魔導師に言う事を聞かせたんだから。

それにしても。

俺は密かに興味を持った。
ドレスを着ていない貴婦人は初めて見た。あれが、男勝りの女辺境伯として有名なエレオノーレ殿なんだ。
跪いていても、随分大きい女性だけど。やっぱり、男みたいな顔を、してるんだろうか?

、、、顔を、見てみたい。
俺の心のつぶやきが聞こえたかのように。
「面を上げなさい二人とも。」

父上の声と共に、エレオノーレ殿は顔を上げた。
魔導師を促し玉座の方を見上げる。
その顔は。宮中の貴婦人のように化粧も飾りも無いのに凛々しくも華やかで。その明るい翠の瞳は凛とした眼差しで玉座こちらを見つめていて。

俺を見ているわけじゃないのに、、、思わずドキリとした。



その後の父上たちのやり取りは正直覚えていない。
ただ、倒れていた貴族たちを起こしてバタバタし始めたので、見つからないように、慌てて暁に輝く皇宮を自室へ帰った事だけは覚えている。

そして、、、あの日以来、俺はどうしても父上を尊敬できなくなり、魔導師に屈服した皇帝と言う地位に憧れの念を持てなくなったんだ。
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