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バーベンベルク城にて

真夜中の冒険に出てしまいました

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「いい子にしてましたか?」
兄上たちのところへどうやって行こうか相談していると、アンナが戻ってきた。真っ青な顔をしている。

思わず三人で駆け寄ると、アンナは私たちをギュッと抱きしめてくれた。
「ああ、どうしてこんなことに。」
思わずと言った風につぶやく。三人で顔を見合わせると、ライが思い切ったように口を開いた。
「ばあ様、一体何があったの?あの人は何しに来たの?」
「ライ・・・」
アンナが口ごもる。ルー兄さまも口を開いた。
「アンナ、教えて。僕だって小さいけれど辺境伯家の一員だ。何か出来ることがあれば、兄上たちの役に立ちたいんだ。」
「あ、ディーもよ。」
私も役に立ちたい。今すぐこの腕輪を外したら、兄上たちの役に立てないかな。
口々に言い募るのを聞き、アンナは涙ぐんだ。

「何も。何もありませんよ。あの方は、旦那様に御用があって、待ちきれなくて来てしまっただけです。」
オスカー様とフィン様はお客様をおもてなしするので忙しいから、今日は晩餐を取らず、ここで簡単にお食事しましょうね、と続ける。
私たちは不安ながら、うなずくしかなかった。

いつもなら、晩餐の後、子どもたちはそれぞれの部屋に戻り、当番の侍女の手を借りて湯あみし、そのまま各自の部屋で眠る。
でも、今日はなぜか湯あみした後、再び子供部屋に集められた。ライも一緒だ。
「不安な時はみんなで一緒にいると安心して眠れますよ。」
そう言って、子供部屋の隅にある、昼寝用のベッドに三人一緒に寝かしつけられた。
「さあ、アンナが居ますから、安心してお休みくださいな。」
そう言われても、なんだか落ち着かない。
ルー兄さまとライをちらっと見てみると、やっぱり居心地悪そうにもぞもぞしていた。
でも、二人と目が合うと、ルー兄さまは声を出さずに「あとで」と口を動かす。
「あとで?」私も声を出さずに口真似すると、ライもうんうん、とうなずいた。そして、そっとアンナを指した後、扉を指す。
アンナが居なくなったら、兄上たちのところへ行こうってことね。それまで起きてられるかな、、、。
こくん、とうなずいたけど、私はちょっと心配だった。

ところが。子どもたちの思惑などお見通しだったのか、アンナはいつまで経っても子ども部屋から立ち去らなかった。
そのうち、昼寝をしていないルー兄さまとライがウトウトしては眠っていく。
どうしよう。私は夕方寝ているし、魔力が溜まってきているからか、目を瞑っていても、寝ない、と思うとスッと眠気が消えて、起きていられそうなのに。

とりあえず目を瞑り、じーっと身じろぎもせずに、どれくらいの時間が経ったのか、、、。
そっと薄目を開けて見ると、アンナが椅子に座ったまま眠っていた。
これはチャンスかも。

そっと起きだす。ちょっと考えて、上掛けをもこっとさせて、もぐりこんで眠っているように見せかけた。
上手くいくといいけど。
そーっとそーっと、音がしないよう裸足で歩く。そっと扉を開けて廊下を覗くと暗い中にぽつぽつと魔道具の明かりが灯っているだけで人気が無かった。
怖い、どうしよう、もう一度ベッドに戻ろうかな。
そう思った時。
「っ!!」
急激に大きな魔力の動きを感じた。あれは・・・母さま父さまの執務室の方?兄上たちになにか!?
私は思わず走り出した。


母さまの希望で父さま母さまの執務室は、家族の居住棟の近くにある。でも、三歳児の足では走ってもなかなかたどり着けない。しかも裸足だから、足音はしないけど石畳の廊下が冷たくて。
でも、兄上に何かあったらどうしよう。
それともベッドに戻ってアンナに言うべきだった?
不安が大きくなり混乱しながら角を曲がった時。
トスっ。
いきなり何かにぶつかった。反動でよろけたところをつまみ上げられる。
「なんだ?」
低い声がして、いきなり魔道具の灯りを突き付けられた。
「子ども・・・団長の娘か?」
団長?父さまのことかな?眩しくて目を瞑ってしまったけれど、こくこく頷く。そして気づいた。
バーベンベルクうちの人は、私を団長の子なんて呼ばないって。
「・・・あなたは誰?」
恐る恐る尋ねると、相手、、、おひげぼうぼうのおじさんだ、、、は、灯りを少し離してからため息をついて答えた。
「帝国魔導師団で、団長の副官をしているエルンストだ。参ったな、嬢ちゃん。俺は団長が戻ったら、殺されることが確定だ。」


「おい、どうした?」
母さまの執務室の方から、知らない低い声がした。エルンストと名乗ったおじさんは、チッと舌打ちをすると、小声で私に、「声出すんじゃねえぞ」とささやき、片手で掴んだまま、魔術師の黒マントの中にさっと隠し入れる。

「いえ、何でもありません。猫が足元にぶつかったようです。」
「そんなことで一々声をだすな。全く上があれなら下も使えない奴等め。」
近づいてきた若い声が偉そうにおじさんを罵る。姿は見えないけど感じの悪い人だな。そう思っていると、失礼な人が言った。
「もうここは良いから、執務室こっちへ来い。辺境伯代行の身柄は押さえたが、弟の方が姿が見えない。あっちは魔導師見習いらしいから、お前等で何とかしろ。」

足音がまた遠ざかる。おじさんはとてもゆっくりとその足音に付いてきながら、私に囁きかけた。
「嬢ちゃん、何しに来た。聞いたろ。今ここに居ると危ないぞ。下ろすから自分の居場所に戻りな。」
そっと立ち止まって、かがんでくれた。助けてくれようとしてる?良い人なのかな?でも、、、。迷ったけど、下ろされないようにその腕にしがみつく。
「兄上が心配で・・・」
小さくこぼすと、またため息をつかれた。
その時。
「何してる!さっさと来い!」
また先ほどの失礼な声が聞こえた。だいぶ先に行ってるみたい。
「嬢ちゃんが気にしてもどうしようもないんだがな。まあ、もう時間切れだ。部屋に入るが、何とかするから大人しくしていてくれ。」囁くと立ち上がる。
「うん、ありがとう。おじさん。」良い人なんだ!
私も小さく囁くと、
「っ、俺はおじさんじゃねえっ!」
おじさん?が悔しそうに小声で叫んだ。おひげぼうぼうだからおじさんかと思ったけど、違うのかな?


おじさんがかがんだ時に、そっとマントの合わせを握って、身体を隠しながら隙間から覗けるようにした。見ると、母さまの執務室の前には、遅いと文句を言っているさっきの人、、、若いお兄さんだった、、、とは別に、もう一人立っていた。灯りが照らすのは、緋色の見慣れない騎士服。、、、どこの騎士なんだろう?

首をかしげていると、「入るぞ。」失礼なお兄さんの偉そうな声がして、「はっ隊長。」もう一人が敬礼した。失礼なのに隊長さんなんだね。
そんなことを考えていると、扉が開いて、明るい光が零れ出た。
兄上、ここに居るのかな?大丈夫かな?不安で心臓がドクドクする。

部屋は、魔道具の薄暗い灯りだけの廊下とは違い、真夜中とは思えないほど明るかった。そして。
「ヒュッ。」
思わず息を飲む。そこには、、、抜刀した剣を持った緋色の騎士達がいた。
室内の照明に照らされ刃がギラっと光を反射する。その周りを取り囲むのは黒づくめの魔導師達。
そして、、、剣の向く方向、部屋の中央には、全く抵抗せずに一人立つオスカー兄上、、、ナイフ一つ身に着けず、その手首には魔力封印付きの縄が掛かっていた。
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