上 下
11 / 241
バーベンベルク城にて

父さまに見つかってしまいました

しおりを挟む
「二人とも、大丈夫か!?」
母さまの焦った声が聞こえる。
「アルフレート、早く来てくれ。二人とも、辛うじて息はしているが意識が無い。しかも酷い凍傷だ。」
母さまの声にも態度にも、さっきの甘さは微塵もない。

「あ、はい、エレオノーレ・・・。」
父さまの方がさっきの余韻か魔力解放の反動か、まだ少し動きが鈍い。
でも、アランとブラントが青黒い顔をして横たわっているのをみると、すぐに歩み寄りながら彼らに向かってスッと手のひらを向けた。

柔らかい光が二人を覆う。その光が消えると、目は閉じたままながら、二人の顔色は元に戻っていた。
「これで、とりあえず身体は元の状態に戻りました。」
母さまから目を逸らしたまま、父さまがつぶやく。色々気まずいんだろうな、きっと。

「よし、では次は急いで部屋の原状復帰だ。任せていいな?使用人にばれる前に済ませてくれ。」
母さまは、父さまの気まずさや戸惑いをぶった切るように事務な口調で指示を出す。
「・・・分かりました。」
父さま、とりあえず動くことにしたみたい。だって母さま、手慣れた仕事を振ってます、って感じなんだもの。
私もさっきのあれは私の恐怖心が生んだ夢幻ユメマボロシかと思ってしまうわ。

でも。
父さまの展開する原状回復の魔法の光を浴びながら、まっすぐバルコニーに向かって歩いてきた母さまは、未だぼーっとしゃがみこんでいる私を立たせ、ガラスの破片が無いかささっと服を払ってくれてから、ギュッと抱きしめてくれた。
「無事で良かった・・・っ」

母さまは背が高いから、私の頭がやっと鎖骨に届くくらいなの。だから、抱きしめられると私の耳はちょうど母さまの心臓の音を聞くことが出来る。
いつだって穏やかな鼓動を刻むそれは、今は早鐘のように響いていて。抱きしめてくれる指先が、少し震えていて。
本当に、本当に心配してくれたんだと、もう大丈夫なんだと、心がじんわり温かくなっていく。
あぁ、やっぱり母さま大好き。
私もギュッとしがみついたら安心して。あれ、おかしな、なんだか涙が出て来てしまう。恥ずかしいからそっとぬぐおう。そう思って顔を上げると。

「終わりました。エレオノー・・・ディー・・・!?」
魔術の残滓がキラキラする中、何事もなかったかのように元に戻った部屋や窓ガラスの向こうに。
まさにこちらへ来ようと向きを変え、歩き出した姿勢のまま、父さまが固まっていた。

父さま、衝撃が多いのは分かるけど。さっきから半分壊れたからくり人形みたいよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます

下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完結】帰れると聞いたのに……

ウミ
恋愛
 聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。 ※登場人物※ ・ゆかり:黒目黒髪の和風美人 ・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ

ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。

曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」 きっかけは幼い頃の出来事だった。 ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。 その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。 あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。 そしてローズという自分の名前。 よりにもよって悪役令嬢に転生していた。 攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。 婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。 するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。

天災
恋愛
 美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。  とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?

処理中です...