皇統を繋ぐ者 ~ 手白香皇女伝~

波月玲音

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思惑

朝餉の前

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すっきりとした目覚めだった。一瞬此処が何処で何時なのか分からなかったけれど。
直ぐに昨夜の記憶が戻ってきて、手白香は床の中で縮こまり、一人頬を染めた。
幼い頃から唯一身近にいる杖刀人、磐井。
自分は何時の間にか秘かに異性として見る様になったが、向こうは主としてきっちり分を弁えた態度しか取らない。
だから、自分も意地でも主として振舞ってきたけれど。
でも、昨夜は。
手白香はそっと思い返す。
その、磐井が、簾内に入って来た。
処置のためとは言え、手白香に触れて。
終わった後に、頬を撫でた。
これが、恥ずかしがらずにいられようか。
どういう心境の変化なのか?知りたいけれど、怖い。
ただでさえ手白香は、大和を脅かす見知らぬ大王候補への政略の駒になっていると言うのに、、、。
「大変。ふわふわしている場合では無かったわ。」
昨夜の豪族たちの合議を思い出した途端、手白香はスーッと自分の心持ちが冷えていくのを感じた。それと共に冷静な思考が戻ってくる。
時間がない。起きて、動いて、考えなければ。
幸いにも眠りが深かったためか、短い睡眠でも頭はすっきりしている。
床から起き上がると、衣擦れの音でそれと知り、采女の山門郎女がそっと声を掛けてきた。
「お目覚めですか、皇女様。」
「ええ。身支度を整えたいのだけれど・・・」
「以前お使いになっていた衣でよろしいでしょうか?忌み籠りの衣はこちらに用意が無くて・・・。先ほど殯宮に使いを出しましたので、戻り次第お着換えいただけます。」
「それでいいわ、なるべく色の無い物でお願い。殯宮へ連絡してくれたのね、良かった。母上に言伝てだけ残して来てしまったから、気になっていたのよ。」
言いながら簾内から出る。
温かい湯で顔を洗い、その間に用意された衣に着替えると、計ったように叩扉する音がした。
誰?
まだ何の策も練っていない今、下手な人物とは会えない。
緊張した手白香を見やり、御心配なさらず、と笑むと、山門は慌てず扉に向かった。二言三言話すと、すぐに扉を開ける。
サッと入り込む冬の朝の冷気と白い日差しの向こうに居たのは。
「皇女様。采女の手が足りないので朝餉を持って参りました。召し上がったら、ご報告があります。」
すっかりいつもの状態に戻ってしまった磐井だった。
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