18 / 33
思惑
朝餉の前
しおりを挟む
すっきりとした目覚めだった。一瞬此処が何処で何時なのか分からなかったけれど。
直ぐに昨夜の記憶が戻ってきて、手白香は床の中で縮こまり、一人頬を染めた。
幼い頃から唯一身近にいる杖刀人、磐井。
自分は何時の間にか秘かに異性として見る様になったが、向こうは主としてきっちり分を弁えた態度しか取らない。
だから、自分も意地でも主として振舞ってきたけれど。
でも、昨夜は。
手白香はそっと思い返す。
その、磐井が、簾内に入って来た。
処置のためとは言え、手白香に触れて。
終わった後に、頬を撫でた。
これが、恥ずかしがらずにいられようか。
どういう心境の変化なのか?知りたいけれど、怖い。
ただでさえ手白香は、大和を脅かす見知らぬ大王候補への政略の駒になっていると言うのに、、、。
「大変。ふわふわしている場合では無かったわ。」
昨夜の豪族たちの合議を思い出した途端、手白香はスーッと自分の心持ちが冷えていくのを感じた。それと共に冷静な思考が戻ってくる。
時間がない。起きて、動いて、考えなければ。
幸いにも眠りが深かったためか、短い睡眠でも頭はすっきりしている。
床から起き上がると、衣擦れの音でそれと知り、采女の山門郎女がそっと声を掛けてきた。
「お目覚めですか、皇女様。」
「ええ。身支度を整えたいのだけれど・・・」
「以前お使いになっていた衣でよろしいでしょうか?忌み籠りの衣はこちらに用意が無くて・・・。先ほど殯宮に使いを出しましたので、戻り次第お着換えいただけます。」
「それでいいわ、なるべく色の無い物でお願い。殯宮へ連絡してくれたのね、良かった。母上に言伝てだけ残して来てしまったから、気になっていたのよ。」
言いながら簾内から出る。
温かい湯で顔を洗い、その間に用意された衣に着替えると、計ったように叩扉する音がした。
誰?
まだ何の策も練っていない今、下手な人物とは会えない。
緊張した手白香を見やり、御心配なさらず、と笑むと、山門は慌てず扉に向かった。二言三言話すと、すぐに扉を開ける。
サッと入り込む冬の朝の冷気と白い日差しの向こうに居たのは。
「皇女様。采女の手が足りないので朝餉を持って参りました。召し上がったら、ご報告があります。」
すっかりいつもの状態に戻ってしまった磐井だった。
直ぐに昨夜の記憶が戻ってきて、手白香は床の中で縮こまり、一人頬を染めた。
幼い頃から唯一身近にいる杖刀人、磐井。
自分は何時の間にか秘かに異性として見る様になったが、向こうは主としてきっちり分を弁えた態度しか取らない。
だから、自分も意地でも主として振舞ってきたけれど。
でも、昨夜は。
手白香はそっと思い返す。
その、磐井が、簾内に入って来た。
処置のためとは言え、手白香に触れて。
終わった後に、頬を撫でた。
これが、恥ずかしがらずにいられようか。
どういう心境の変化なのか?知りたいけれど、怖い。
ただでさえ手白香は、大和を脅かす見知らぬ大王候補への政略の駒になっていると言うのに、、、。
「大変。ふわふわしている場合では無かったわ。」
昨夜の豪族たちの合議を思い出した途端、手白香はスーッと自分の心持ちが冷えていくのを感じた。それと共に冷静な思考が戻ってくる。
時間がない。起きて、動いて、考えなければ。
幸いにも眠りが深かったためか、短い睡眠でも頭はすっきりしている。
床から起き上がると、衣擦れの音でそれと知り、采女の山門郎女がそっと声を掛けてきた。
「お目覚めですか、皇女様。」
「ええ。身支度を整えたいのだけれど・・・」
「以前お使いになっていた衣でよろしいでしょうか?忌み籠りの衣はこちらに用意が無くて・・・。先ほど殯宮に使いを出しましたので、戻り次第お着換えいただけます。」
「それでいいわ、なるべく色の無い物でお願い。殯宮へ連絡してくれたのね、良かった。母上に言伝てだけ残して来てしまったから、気になっていたのよ。」
言いながら簾内から出る。
温かい湯で顔を洗い、その間に用意された衣に着替えると、計ったように叩扉する音がした。
誰?
まだ何の策も練っていない今、下手な人物とは会えない。
緊張した手白香を見やり、御心配なさらず、と笑むと、山門は慌てず扉に向かった。二言三言話すと、すぐに扉を開ける。
サッと入り込む冬の朝の冷気と白い日差しの向こうに居たのは。
「皇女様。采女の手が足りないので朝餉を持って参りました。召し上がったら、ご報告があります。」
すっかりいつもの状態に戻ってしまった磐井だった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
梅すだれ
木花薫
歴史・時代
江戸時代の女の子、お千代の一生の物語。恋に仕事に頑張るお千代は悲しいことも多いけど充実した女の人生を生き抜きます。が、現在お千代の物語から逸れて、九州の隠れキリシタンの話になっています。島原の乱の前後、農民たちがどのように生きていたのか、仏教やキリスト教の世界観も組み込んで書いています。
登場人物の繋がりで主人公がバトンタッチして物語が次々と移っていきます隠れキリシタンの次は戦国時代の姉妹のストーリーとなっていきます。
時代背景は戦国時代から江戸時代初期の歴史とリンクさせてあります。長編時代小説。長々と続きます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



余り侍~喧嘩仲裁稼業~
たい陸
歴史・時代
伊予国の山間にある小津藩は、六万国と小国であった。そこに一人の若い侍が長屋暮らしをしていた。彼の名は伊賀崎余一郎光泰。誰も知らないが、世が世なら、一国一城の主となっていた男だった。酒好き、女好きで働く事は大嫌い。三度の飯より、喧嘩が好きで、好きが高じて、喧嘩仲裁稼業なる片手業で、辛うじて生きている。そんな彼を世の人は、その名前に引っかけて、こう呼んだ。余侍(よざむらい)様と。
第七回歴史・時代小説大賞奨励賞作品

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる