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 私はグレンに正座をさせられている。
 それはもちろん共和国に滞在することになったことが原因だった。

「それで?協力することになったと」

「すみません・・・」

「いや別にいいんだ。ただ相談してほしかったと思っただけでーーー」

「絶対嘘!グレンが私に正座するときは大概怒ってるときだもん!」

「あぁもちろん怒ってるが?」

 目が怖いわ。
 本気で怒っていることが伝わってくる。
 あぁ、これはしばらく続きそうだわ。

「アハハハ!見てよホウ!五十嵐って出会った頃の君にそっくりだ」

「笑いごとじゃないよ。君、今でも結構物事を相談せずに決めるところがあるから直して」

「そうだね。フミを殺したときも、他に方法があったかもしれないのに・・・気を付けるよ」

「大いに気を付けて」

 何があったかは知らないけど、そのフミって人はホウさんとヒイロさんの大切な友達だったらしい。
 けれどマリの様に邪なる魔法を手に入れ暴走した。
 それを手にかけたのがヒイロ本人だと聞いた。

「協力するのはやぶさかじゃあねぇよ。でも俺達はここに目的があってきた。それも複数のな」

「それは当然だカインくん。聖騎士の君や聖女のゴールドマリーをただで使い走りにできるとは思っていない。ドゥメズヴェニ家の情報を対価にしよう」

「いや、足りねぇな。邪なる魔法について知っていることも話せ」

「邪なる魔法については共有するつもりだったから構わないよ。それよりも君達は帝国の現状が知りたいんじゃないかな?」

「そうだな。その情報も知りたいところだ」

 実際そこらへんはシリィがいればほぼ正しい情報が手に入る。
 負担を考えたらなるべく使っては欲しくはないから、彼らから情報が欲しいというのも偽りざらなぬ気持ちがある。
 
「先ほども思ったけど、君達は情報についての執着があまりない。よっぽどのバカかと言われるとそうではない。君達は情報収集能力はかなり高いってことかな?」

「止めましょう?探り合いをするのはこれから共同生活をするにあたってあまり良くないわよ?」

「なるほど・・・表情から汲み取られてしまうなら敢えて否定はせず注力もしないか。ルルシア、君は商人に向いているよ」

「そう?生憎と商人は目指してはいないのよ」

「そうか。是非とも僕の後継になってほしいと思ってしまったけど残念だ」

 冗談なのか本気なのかわからないわね。
 まぁこの人について何か考えても仕方がないわ。

「今回もオリエルの経験になりそうだから承諾したというのが大きなところよ。オリエルに感謝しなさい」

「そうだね。オリエル様、感謝致します」

「大丈夫よ!!」

 オリエルが胸を叩いてどや顔をしている。
 年相応で可愛く見えるわね。

「さて僕達の共通の敵はエリックの家ドゥメズヴェニ家なわけだが、共和国内に奴らの使いの者達の拠点と思われる場所がある。数日かけて情報を収集を行い、敵施設を半壊させる。ここまでが理想の構図だね」

「半壊?最低目標ってことかしら?」

「理想の構図と言ったろ?半壊以上にはさせないでほしいんだ」

「どうして?」

「敵を泳がせるのが今回の作戦において一番重要ということだからだよ」

「長期戦を想定しているのね」

「正直、情報は足りてはいるんだ。でも一つだけ不確定要素が生まれた」

「不確定要素?」

「エリックだ。僕達はエリックは婿養子で王族に嫁ぐと思っていたからね。でも君達やオリエル様の反応を見るに、それはかなり低そうな確立だ。そうなるとドゥメズヴェニ家はどう動くかわからなくなった」

 エリックはそんなに警戒する相手ってことなの?
 でもそんな話は聞いたことないわ。

「エリック様は超級魔法原始の海シー・オブ・ジ・オールドが使えるわ」

「驚いたな・・・水の超級魔法か」

「グレンとは相性が悪いわね」

 グレンが珍しく冷や汗をかいている。
 それはそうだ。
 ドゥメズヴェニ家の人間を師に持つ、アニウーリ様の超級魔法に原始の海シー・オブ・ジ・オールドはない。
 それはつまりーーー

原始の海シー・オブ・ジ・オールドはエリックのオリジナルか?」

「正解だ。彼は幼い身でその域に達している。可能性として僕は勇者とみている」

「勇者・・・」

「マリやこいつ・・・ヒイロとかと同じ転生者ってわけか」

 カインの言葉に私達は息を飲み込んだ。
 勇者と言うだけでその脅威度は計り知れない。
 それはマリが証明しているし、つい最近勇者の親友とやらの脅威とも戦った。

「正解だ。転生者は普通じゃない。そこの聖女も聖女以上の力を持っていたろ?」

 全員がマリを見るが気にした様子はなく手を振って視線を散らす。

「だからね、エリックと対峙した場合は作戦は変更し全戦力でエリックを叩き潰す」

 エリックはそれほどまでの脅威になっているのかと、私達は息を飲み込んだ。

 


※お久しぶりです
 仕事の頻度が落ち着いてきたため更新を再開したいと思います
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