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 アメイジングモード。
 もしヴァルカンが私のイメージ通りにビルディングしていてくれたなら、この物理炎上は違う形で作用する。

「はっ、しまっーーー」

「集中を欠くなんて愚かね!」

 本来の物理炎上は物理攻撃した箇所を内部から燃焼する。
 だから彼女の受け止めた腕から発火するはずだった。
 だけどアメイジングモードならーーー

「そんなへなちょこパンチ何になるって言うのかしら?」

「へなちょこ?貴女の感覚は虫並みに鈍いのね」

「何を言って!?」

 しかし急に腕を抑え始めるのがわかる。
 それはそれこそがアメイジングモードの真骨頂。
 
「あたしの負のエネルギーを燃焼させたと言うの?」

「邪悪を燃やすだけよ」

「貴女、それは貴女にとっての邪悪でしょ?」

「そうよ」

「貴女って人の意見は聞かないタイプ?邪悪を否定するんだものね」

「いいえ?邪悪もそれは人の在り方だと思ってるわよ。だから私のエゴで貴女をモモさんの中から消し去る」

「くっ・・・」

 思考を誘導しているのがわかる。
 それはヴァルカンが防いでくれてるから。
 でもすごいわね。
 私の一言で応えてくれたヴァルカンの演算能力ってどうなってるのかしら?

「あたしを殺すの?モモと同化しているあたしを魂的に殺しても彼女は戻ってこない」

「ねぇ、魂って人格ってどうなってると思う?」

「なんの話かしら?」

「私は記憶を封じられていて、作り出された記憶がある」

「だからなに?」

「作り出された記憶と元の記憶、どっちが本当の自分だと思う?」

「どちらも本当の自分でしょ」

「えぇ。でも私は他人の記憶が自分に入って来たように感じたの。だからまだモモさんと同化出来るはず無いのよ。貴女は本人じゃないのだから。だから貴女を追い出す」

 私の拳には警戒心たっぷりね。
 でもそれは囮。
 足を払うことで、追撃がヒットする。
 するとモモさんの払った側の足がだらんとなった。

「追い出されるのがモモとは思わないのかしら?」

「今のを見て確信したわ。貴女だけを追い出せるってね」
 
「なるほど、これは魂への攻撃?」

「いいえ。貴女は負のエネルギーが本体みたいなものでしょ?」

「気づいていたの?」

「それだけ負のオーラを纏っていればわかる。魔王、貴女も邪神の類いでしょ」

「末恐ろしい女だわ」

 確信があったわけじゃ無い。
 でもなんとなくそうなんじゃないかと思った。
 グンジョーが負のオーラを纏っていたこと。

「貴女はそのことを悟らせない為に、グンジョーを囮にした」

「あー、俺にもわかったぜ。グンジョーを魔人にする気はテメェにはなかった訳だ」

「万が一、魂に攻撃できる人間。私みたいな奴がいたときに備えて貴女は間違ったことをした。スペクター、あれを召喚するべきじゃなかった」

 モモさん、いいえゲヘナザードね。
 彼女は額を抑えてたからかく笑い出した。

「あはは!すごいわ!正解よ。スペクター、あれは魂を操れる者にしか作れない。何故ならあれは生者じゃなく魔物。それも元はなかった魂の魔物」

「だからレインとロアを使った?」

「違うわ。純粋に耐えられる魂が二人しか居なかった。そして貴女の友人でもあるのね」

「まぁ二人に最期に会えたことには感謝してあげるわ。でもね」

「でも?」

「二人の魂を弄んだことは許さない」

「ふふっ」

 私は鳩尾に向かって拳を振るった。
 当然避けられると思った。
 でも結果は違った。

「え?」

「強化されたみたいだけどごめんなさいね。貴女の思い通りに終わるのは酷く気に入らないと思ったの」

 ゲヘナザードは避けなかった。
 避けなければどうなるかわからないはずはないだろうに。
 それでも避けなかったのは一体。

「生きるのに疲れちゃったのよ。悠久の時を生きて、あいつみたいな事を言う女に会って」

「あいつって?」

「勇者。あんたに似ていたわ。友達思いであたしの親友」

「魔王が親友ですって?」

「そうよ。あたしの書記、多分あいつが持ってったと思うわ。イガラシ邸のどっかにあるでしょう」

「なんでそんなこと私達に言うの?」

「貴女にあいつの面影をみたから」

「私が勇者の面影を?」

「えぇ。あいつもあんたみたいに大事な人間を護るためにあたしを切り捨てた。でもその心は確かにあたしに届いていて、あいつの死を見届けるまで生きた。でもそのたびに知らない誰かの魂を上書きしていった。そんな生活につかれたのね」

 ゲヘナザードの最期の言葉のようにも感じられるの目を離せずにいる。
 まるで聞きたいけど聞いちゃいけないような。

「あたしは魅了セシモノ。そして勇者は魅了サレシモノだったの」

「それって」

「あとは書記でも見て頂戴。あたしは・・・もう・・」

 そう言うとモモさんが倒れる。
 そして寝息を立てて寝ているのがわかった。
 その瞬間ゲヘナザードは完全にこの世から消えた。
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