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174(グレン視点)

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 ルルがアメイジングバタフライってヤツを使って着地していた。
 少なくともルルとマリア様は二人でいて無事なのはわかる。
 ゴーストに勝てなくとも今のルルが逃げに徹したら多分大丈夫だろう。
 聖騎士のカインも問題ないとは思う。

「問題は俺か」

『告、ゴーストヲ倒ス機能ガ存在シマセン』

「わかってんよ」

『イイエワカッテイマセン。貴方ガ一番危険ナ状況ナノデス。周リヲ見テクダサイ』

 辺りを見回すとゴーストが4体もいる。
 そして俺はこいつに何もできない。
 強い弱いの話ではなく、倒すことができない。
 ゴーストは魔物だ。
 魔法を放ってくるし、厳しい状況だな。
 しかもここの座標もわからない。

「ヴァルカン発動だ」

『了解マスター。出口マデ案内シマス。指示ニ従ッテ移動シテクダサイ』

 頼りになる相棒だぜ。
 俺はヴァルカンの指示の元地下道を走りまわる。
 一本道が続いているわけではないし、こうも暗いと移動が億劫になるな。

「ヴァルカン、本当にこっちで合ってんのか?」

『是。出口ヘト向カッテイマス』

 しばらく走り続けるとゴーストが追ってこなくなっていることに気づいた。
 
「追ってこなくなったな」

『否定。ゴーストハ壁ヲスリ抜ケマス』

 ってことはまだ油断はできないわけだ。
 しかしまぁ俺達を分断した何かは絶対居るよな。
 飛ばされたあの場所にゴーストが4体も出るとか偶然にしては出来過ぎだ。
 分断した何かについて考え出した矢先、身体が急に脱力して思考が滞り始める。

「うっ、なんか急に眠気が」

『ザントマンデス。睡魔ノ鱗粉ニ注意シテクダサイ』

「ザントマン!?」

 精霊の一種じゃねぇか。
 しかもザントマンって言ったら、姿が見えないことで有名だ。
 イタズラ好きでよく人を眠らせるが決して悪意はないという。
 しかしこのタイミングで寝かされたらほとんど死に直結する。
 悪意のない悪意ほど迷惑な話もない。

「鱗粉を燃やす!」

『了解。炎ノ噴出力ヲ強化シマス』

 結構鱗粉を吸っちまったから眠気がすごいが、意識を手放すほどじゃない。
 睡魔と戦ってる状態で集中力は本当に切れてるから、魔法の制御は厳しくなってるが仕方はない。
 しかしこれで鱗粉は燃やし切った。
 あとはサンドマンを捕まえて、とっちめてやる。
 これはこいつの仕業なのかどうかを。

「ひ、ひぃ!?なんだこの人間!」

「逃がすかよ!」

 炎の推進力は空を自在に飛ぶことができる。
 ヴァルカンを装備した俺やルルに空を飛ぶ生物に対して遅れをとるなんてことはなかった。

「なんで人間が空飛べるの!?」

「悪いな!」

「ぐぁ!」

 俺はサンドマンを鷲掴みにして地面へと降り立つ。
 腕から逃れようと必死に暴れるが、手のひらサイズの精霊では逃げることが適わない。

「や、やめろぉ!離せぇ!」

「落ち着け。ちょっと聞きたいことがあるだけだ」

「やだやだ!お前僕を潰す気だ!僕の友達もお前に似た男に潰されて死んだんだー!」

「友達?それに俺と似たような顔って・・・」

 それって多分ゴルド叔父さんのことだ。
 もし叔父さんを恨んでのグンジョーとモモを精霊が拉致していたとしたら、俺はどんな顔でその精霊と対峙して二人を助ければいいのだろう。
 そんな感情が頭を巡って思わず手を放してしまった。

「や、やりーーーどうした人間?」

「いや、ちょっと考え事をしていただけだ。なぁ教えてくれたらでいいが、小さな女性二人か、白い剣を携えてる奴か、俺と似たような顔をした男と女について知らないか?」

 サンドマンは少しだけ悩んでため息を吐いた。
 怖い相手にそれができるのはかなりすごいことだと思う。

「・・・逃がしてくれたし一つだけ教えてやる。向こうで僕の兄貴が人間二人を回収した。男女だ。お前の探してる人間かわからないが見てみるといいよ」

『サンドマンヲ説得シマシタカ。流石マスターデス』

「うるせぇ。ありがとな・・・えーっと」

「ヒュプノ。僕はヒュプノってんだ」

「ヒュプノか。ありがとなヒュプノ」

「どうってことないぞ。こっち来い。ゴーストも兄貴が操ってるんだ。僕といれば大丈夫さ」

「ゴーストを操る精霊・・・」

『間違イナク邪神デス。オ気ヲツケクダサイ』

 俺は生唾をゴクリと飲み込んだ。
 もしヒュプノの兄貴が邪神になっていたら、俺は討伐しなければならない。
 だがどんな顔で俺は討伐しないといけないんだ。
 しかし覚悟を決めないとな。
 ヒュプノに案内された道の先には一人の人間がいた。
 だが漂ってくる負の怨念が、彼を精霊タラ占めないと本能が警笛を鳴らしている。

「兄貴ー戻ったぜ。兄貴?」

「ひぃゅううっぷうのおお」

「なんか様子がおかしい・・・」

 ヒュプノも気づいたようだ。
 そしてそこで俺は初めてその兄貴の顔を見た。
 
「ぐ・・・グンジョー?」

 それはグンジョーの顔をした負の怨念の何かがそこにいた。
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