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161(マヤ視点)

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 私には頭から放たれる魔力を気中を介して呪法にする体質がある。
 こんなすっからかんだとコントロールの必要がないから、ダダ漏れ始めたけど相手の思考が手に取るようにわかる。

「なぜだ!?何故当たらない!?」

「貴方が弱い。それだけの話でしょ」

「このぉ!」

 当たる気がしない。
 確かに彼は騎士の国である帝国であるから剣の型は厄介だけど、それでも彼はほとんど努力をしてこなかったのが闘いを通じて伝わってくる。
 彼の太刀筋はぬるすぎる。

「魔法を使わずに私を圧倒するだと!そんなことが!くそぉ!」

 幻を作り出してもやはりそれは気魄によるものだ。
 だから押され気味の時はそれほど脅威に感じない。
 故に本物は見える。

「そこだ!」

「ぐぅ!」

 鳩尾にかなり手応えのある一撃を食らわせられた。
 このまま意識を刈り取ればーーー

「くっくっく!」

「なに?」

「つーかまえた」

 彼が懐から取り出す小さなナイフを取り出し私の腕を擦った。
 これは毒!?
 思考を読んでたのに!
 いや思考を読んでたからこそわかる。
 私が彼を殴った瞬間にそれを思い出したという感じだった。

「安心しろ。これは遅効性の毒だ。しかし身体は痺れ始めているだろう?」

「でも魔力は回復してるの!中級魔法のガンマでも食らえ!」

「その程度なら避けれる」

 でしょうね。
 だけど、私の狙いはその上。
 この宮殿の屋根を落として、彼を生き埋めにする。
 出口は私のが近いからすぐに離脱できる算段よ。
 私の放った魔法は天井へと到達し、激しい音を立てて崩れ始めた。

「なんだっ!?」

「貴方はここで終わらせる。生き埋めにするわ」

「自爆とは愚かな真似だ。だがーーー」

 思考が入ってきた。
 脱出手段がある!?

「私が母から受けた命は、とっくに全部完遂してるんだ。悪いが早々にこの場から退散させてもらうとするよ」

 まるで馬車のような見た目の箱が宙を浮いている。
 バイクって名前らしいけど、彼の思考を見るに、あれは高速で移動できるらしい。

「まぁお遊びをして命を落としても馬鹿らしい。私はこれにて失礼させてもらう」

「そもそもそれに乗せないって選択があるの忘れてない?」

「それは無理だろう?」

 しまった。
 彼が指を鳴らした途端に彼の姿が消えた。
 思考が流れてくる位置である程度場所は把握できてるけど、乗り物の位置がわからない。

「まぁ精々貴様は私が仕込んだ毒でのたうち回って死ぬがいい」

 しまった。
 毒の存在が頭からすっかり抜けていた。
 
「身体が痺れて立ってるのがやっとなんて」

「貴様は未来の皇帝である私に対して不敬を行った!故に末代まで語り継いでやろう」

 そう言うと共に彼は勢いよく宮殿を飛び出していく。
 本当にまずい。
 身体が痺れて全然動かない。

「このまま私死ぬのかな?」

 天井を見ながらそう思わず呟いた。
 でも死ぬなら死ぬで仕方ない。
 私はお父さんを重症に追いやったし、こんな体質で苦労したけだ、やっと手に入れた居場所。
 
「私まだ死にたくないな」

「だったら生きればいい」

 痺れた身体だけど思わず振り向いてしまう。
 どうしてと私は言いたかった。
 だっているはずがない、走馬灯に思えて仕方ない。

「なんで、殿下がこんなところにいるんですか?」

「それはこちらのセリフだよ。お前達は精霊界にいるはずなのにいつの間に戻ってきたんだい?」

 オリバー殿下は私を抱え上げると何かを飲ませてくる。
 すごい苦い。

「解毒剤だ。まだ動けないと思うからとりあえずこうしていろ」

 あったかい温もり。
 そして相変わらずこの人からは思考が流れてこない。
 本当におかしな人。

「殿下はどうしてヒカラムに?」

「とある御仁がね、力を貸して欲しいと頭を下げてきたんだ」

 とある御仁?
 誰だかは知らないけど、私はその人のおかげで救われたのかな?

「王子の僕が行くことにみんな反対してたけど実は彼に王国を救われてね。国内でマリアの護衛を任せるのはアニウーリしかいなくて、僕は護衛を補充する為にミハイルと若人を呼び戻すついでに戻ってきたのさ」

「王国で一体何が?」

「それは戻ったら話すよ。それよりここにミハイルと若人がいるって聞いたんだけど」

「お二人は無事ですけど、今は精霊界にいると思います」

「なるほど二人は負けたかー。ここまで情報が正しいとなると相手はシュナイダー皇子かな?」

「わかるのですか?」

「まぁそれもその御仁がね」

「その御仁とは一体?」

「帝国の第二皇子アハト殿下だ」

 驚いた。
 アハト様ってルル様の幼馴染の。
 
「驚かないんだ。一応君のご主人様を母国から追い出した張本人なのに」

「恐らくアハト様はそんな人ではないと思います。ルル様が慕っていましたので」

「なるほど。それについても帰ったら聞く必要がありそうだ。マヤ、君顔がとろーんとなってきてるよ。解毒剤が効いて眠いんだろう?眠るといい」

 オリバー殿下の言う通り私は意識がもう手放しそうな状態で、彼の胸で眠りについた。
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