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160(マヤ視点)

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 お母さん、お母さん、お母さん。
 小さい頃のそんな記憶が私の中でフラッシュバックしては消えていく。
 
「お父さん、無事でいて」

 壊れた宮殿を見ると人がゾロゾロと押し寄せている。
 私は人をかき分けて宮殿内に入った。
 そこにはお父さんと、倒れ伏してるミハイル様とラフィール様が居た。

「おぉ、マヤか。よくぞ戻ったな」

「お父さん・・・」

 父は腹から下が無くなっていた。
 そして声はするものの、焦点も合ってはいない。

「マヤ様!お逃げください!」

「こいつはヤバいよ!早く逃げて!」

 二人が何かを言ってるけど、私はそれが耳に入ってこなかった。
 お父さんがもうこの世にいない。
 それが受け入れられない。

「アホ!幻や!」

「え?」

 その声と共にフルミニス様がお父さんを蹴飛ばして幻惑を解除した。
 目の前には金髪の青年が現れる。
 彼は一体何者?

「自分、有事の際は魔力放出して心読めって言われたやろがい!」

「ごめんなさい。でもこの幻惑はガウリ様クラスの幻惑ですね」

 それにどうやらミハイル様とラフィール様は本物みたい。
 つまり二人はこの人にやられた。

「初めまして。私の名前はシュナイダー・フォン・ゲカイガ」

「シュナイダー!?貴方まさか!?」

「そうだ。お前の師匠の元婚約者だ」

 帝国が侵攻してきた話はあった。
 だけどルル様の話だとそれは幼馴染であるアハト様達で、シュナイダーは幽閉されてるだろうとも。

「おかしいなぁ?自分確かに魔法を使ってたはずやのに、どうして魔力を一切感じひんのや?」

「それはそうだろう!私が魔女のような下等な魔法など使うはずなかろう!」

 シュナイダーはそう言いながら手の甲を見せてきた。
 何やら紋章があるみたいだけど。

「これは帝国に伝わる宝具の一つ。武神の手袋シャイニンググローブ。これは俺が気を込めることで、相手に幻を見せることのできるものだ」

「気魄であれだけの物を・・・」

 そうだとしたらどれほどの脅威だろう。
 この人は性格が悪いからさっきみたいな、お父さんの亡骸を見せてきたんだろうけど、相手の視界を奪ったり厄介な使い方をしてくるかもしれない。

「バカでよかった」

「貴様!今なんと言った!」

「マヤ、言うようになったやん」

 私はそんなつもりじゃなかったのに。
 でももう賽は投げられたよね。

「ミハイル様とラフィール様を追い詰めたと言う事実を受け止めて闘わないと」

「許さん!貴様だけは!」

 右と左から触手のようなものが。
 だけどこれは幻だ。

「バカめ!」

「ッ!」

 咄嗟に身体が動いてしまった。
 いや動かされたと言うべきか。

「この剣のサビにしてやろう!」

「だとしても!」

 たかが剣、身体強化で白羽どりしてやる!

「受けんなアホぅ!」

 フルミニス様が私にたいあたりして攻撃を寸前のところで回避した。

「ちっ」

「あれは毒付きや!触れるだけで身体を痺れさせるタイプのな」

「めんどくさいのが紛れてるな!先に死ね!」

 フルミニス様を狙ってくるんだ。
 当然と言えば当然だけど、私から目を離してくれるならチャンス。

「氷よ炎よ。凍土の果ての地で炎を見ることはない。溶岩の中に溶けぬ氷はない。故にこの炎は全てを燃やし凍らせる。凍て付く炎で相手を覆い尽くせ」

 長詠唱無しでは超級魔法を私は放てない。
 だけど複合魔法の超級魔法は私しか使えない。

混沌の氷炎カオスティックフレイス

「なっ!?」

 直撃した。
 流石に魔力はほとんど持っていかれたけど、手応えはあった。

「マヤ様、すごいです」

「驚いたな。まさか彼女がこれほどの魔法を」

「はぁ、はぁ」
 
 これで終わっててほしい。
 もう一度放つ魔力は残ってないし。
 でもそんな私の願いも虚しく、彼は立っていた。
 それも最悪の回避の仕方をしながら。

「危ない。全く、生贄を用意してなかったら危なかった」

 それはお父さんを盾にして防いだからだった。
 
「そんな!?お父さん」

「こりゃ死んでんなぁ。あんな威力で魔法を放たれたら人間はひとたまりもない。流石に魔女、恐ろしいな」

「お父さん、お父さん。いや!いやぁぁ!」

 お父さんの方に駆け寄るがほとんど原型がない。
 お父さんかどうかも判別できないほど私はお父さんをーーー

「かっ、はぁ」

「お父さん!?」

「息はあるな!だったらイデリッサの治療が間に合う段階や!ウチはすぐにここから離脱する。自分気合いでなんとかなるか?」

「大丈夫です!お父さんをお願いします」

 無理でもやるしかない。
 だってこのままじゃお父さんが死んじゃう。

「わかったで!死ぬんやないぞ」

「もちろんです」

 そういうとフルミニス様はミカエル様とラフィール様とお父さんを連れて消え去った。
 残ったのは私とこの人だけ。

「すごいな。気配が消えた」

「許さない」

「あ?お前が自分でやったのに私に対してそんな目を向けるのはお門違いも良いところ。この私が直々に成敗してくれよう!」

 ルル様の元婚約者だろうと関係ない。
 この人は私が倒す。
 魔力はもうほとんど空だけど、それでも私には拳がある。
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