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 この襲撃を流れのように見ていた神国の間者の冒険者は、開いた口がふさがらずにいた。
 レーゼはS級になり強者を求めていた。
 そして彼の強さは見た限り自分達の遥か上を行く実力。
 彼を味方につけてよかったと安堵したのもつかの間だった。
 カインの動きをみてレインが苦笑いをしているところを見て、彼は出世欲よりも恐怖が勝った。

「恐ろしいな。こんなガキ二人が、帝国にはいるのか。いや、さっき上空にいたやつを含めたらーーー」

「七人。私達はアハト第二皇子の剣よ」

「カッコつけても小さいから威厳なんてないわよ義姉様。ごきげんよう間者さん。私はアハト様の婚約者のシリィーーー」

「その義姉リィナよ」

 この場に似つかない雰囲気の二人の妖艶な少女に、今度こそ恐怖で失神しそうになる男はグッとこらえて意識を保つ。

「第二皇子の婚約者だと・・・!?まさかこの情報はーーー」

「筒抜けだよ?」

「アハト・フォン・ゲカイガ。小さいーーーがはっ」

 シリィの後ろからひょっこりと顔を出すアハト。
 アハトは自分よりも身長が大きくなってしまったシリィに少しだけジェラシーを感じている。

「小さくないやい!」

「くっ・・・だがちょうどいい!マリンスノーとやらの痛みがなくなってきた。皇子もいる!なら野郎ども、こいつらをーーー」

 しかし周りを見渡すと、再び戦いを始めていた精鋭達が二人の少年少女に弄ばれてる姿が目に入った。

「うふふっ、私と剣という名のダンスを一曲踊ってくださるかしらカイン様」

「あぁ、もちろんさディラ」

 まるで剣舞でダンスパーティを見ているような光景だったが、そんな生易しいものではなかった。
 血飛沫が飛び散り、血を伝っている剣は輪舞の様だったが、下を見ると死んでこそいない者の阿鼻叫喚とした後継が広がっていた。

「なんだありゃ・・・」

「ディラとカインが一番こいつらのこと舐めてるわよね」

「二人の仲がそれだけいいってことじゃないかしら義姉さん」

「別にいいと思うよ?俺達が捉えたそこのクソ野郎とレインが捉えるであろうS級冒険者レーゼの情報さえあれば問題ないし」

「それはこの惨状を生み出した事についてで、相手を馬鹿にしている事については何も言ってないのだけれど」

 そしてレインもまたレーゼの剣を弾き、首に剣を突きつけている。
 文字通り全滅だった。

「自分強いな。フォッカーと闘ってるような感覚になったわ。危うく負けるかと思ったで」

「ふっ、バカを言え。これほどまで剣技で圧倒されるとは思わなかったぞ」

「そんなことあらへんで?パワーは大したことあらへんけど、技量は間違いなくフォッカーより上や」

 レインはそう言うが、汗ひとつかいていない為、説得力には欠ける一言だった。

「くっ、レーゼめ。使えん奴が!」

「そうだ、ひとつ良いことを教えてあげるよ。さっきここを吹き飛ばした二人が次は君達の帝国国境付近に構えている拠点を爆破させに行ったよ」

「なにっ!?」

「これで晴れて君達神国の間者は壊滅状態だ」

 実際のところアハトには神国という確信はなかった。
 シリィが情報を引き出せない組織である為、神国だと予想して最悪目の前の人間が死んだ場合でも確信が欲しいための発言だった。

「そこまで知られてるのか。だったら仕方ない」

「仕方ない?」

「神国と言うのは剣術、魔術、呪術を神から授けられた最強の術師国家だ!そして呪術が最も得意とする!」

「急に何を言い出すんだい?まだ隠された手が残ってると?」

「これを貴様らに見せると神オズ様が怒りに触れるかもしれないから使わない様にしていたが、致し方あるまい!」

 そう言うと目の前の男は服を脱いだ。
 彼の身体には無数の刺青が彫ってあり、それが儀式に用いられる魔法だとシリィは即座に理解した。

「アハト、義姉さん!奴を殺して!」

「えっ、わかったわ!」

「何かあるんだねシリィ!」

 アハトが首を刎ね、リィナが心臓を突き刺したが、時すでに遅かった。
 彼の身体から禍々しい魔力が垂れ流し始める。
 そしてレーゼの方へと向かっていった。

「な、なんだ!?」

「なんやこれ!おいアハト、どう言うこっちゃ!」

「わからない。でも一つだけわかることもある。ひとつしくじったって事が」

 レーゼの身体がみるみる変化していく。
 変化と言っても身体の色が褐色になり、目が青くなるくらいの現状だったが、それでも見た目が変わったので、この場にいる者は驚きを隠せない。

「あれは一体何?でも解析できたわ儀式魔法精霊来臨。精霊神を無理矢理現世に降ろす降霊術」

 精霊神とは精霊の仲間であるが精霊ではなかった。
 それは実体を持たないため、概念に近い存在だった。
 
「おぉ、久々の現世への降臨か。むっ?ガキどもしかおらんでは無いか」

「なぁ自分、冒険者レーゼか?」

「ん?我か?我は精霊神ゼウス。見知りおき称えるがいい!」

「これはご丁寧に。ワイはレインや」

「そうかレイン。この者の身体の記憶を見たが、貴様と闘っていたようだな!つまり我を呼んだ者の敵と看做すぞ!子供でも我は容赦はせん!来い、雷鳴の天輪アダマスマキア

 精霊神ゼウスの頭に光の輪が展開された。
 続いて腕には甲冑の物の様な雷の防具を纏い、腕には槍を持っている。

「少年!心して食らうがいい!雷槍ケラウノス!」
 
 ゼウスは槍を思い切りレインに向かって投げつけた。
 
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