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 ヒスイさんやミハイル様とラフィール様は宮殿に残り、私とグレンとガウリ様で帰路に入っていた。

「今日の夜は冷えるな。ルルシア、身体は冷やすなよ」

「ありがとうございますガウリ様」

「余計なお世話だ!しっしっ!」

「グレン貴様!」

 二人ともまた仲良くしてて微笑ましいわ。
 私は同性の気の抜けた仲の同年代の子とは接点がなかったから羨ましいわね。

「おい、ルルシアが勘違いをしてるぞ」

「仕方ない鈍感娘なんだ」

「酷いわグレーーーぷしゅー」

 頬を膨らましてたら、すぐにグレンに頬を押されて空気が抜けた。
 グレンがにこにこしながら私の頬を弄りまわす。

「ひゃ、め、へ!」

「へへっ」

「お前らこれで付き合ってないって嘘だろ」

 グレンはモモさんにもやってたし、さすがに妹くらいの感覚じゃないのかしら?
 シュナイダーともまともな交流をしてこなかったから、そこはイマイチわからないわね。
 それにガウリ様がグレンには彼女がいるって言ってたし。

「そういやガウリは、婚約者との仲は良好なのか?」

 ガウリ様の婚約者は確かガウリ様と同じ侯爵家の婚約者って聞いてるけど。
 でも会ったことないのよね。
 顔は覚えてるけど、印象が薄い。
 一体どんな方なのかしら?

「お前・・・いや、マリアとはそれなりにやってたよ」

「それなりってお前なぁ」

「マリアはな・・・昨日も盛大にやらかしたって聞いたよ。社交界で伯爵令嬢の顔面にお茶をぶっかけたそうだ」

「くくっ・・・マリア様は相変わらず過激だな」

「怒るぞ?」

 マリア様って酷いご令嬢なのかしら?
 それだけ聞くと過激で済むレベルじゃないように聞こえる。
 でも留学の時にあったデータでは過激な令嬢のイメージを持てなかったけど。

「俺が第三師団の団長だから、伯爵家に睨まれるだけで済んだが、さすがに今回の騒動で婚約破棄を考えている。もうこれで5回目だ」

「その4回は婚約解消だけどな。破棄と解消は同じようで全然違うぞ?」

「俺だってマリアとはそれなりにやってたんだよ」

「マリア様悲しむぞ。お前のこと大好きだろうに」

「あぁ、だが俺は・・・」

「ガーウーリー様ー」

 ガウリ様を呼ぶ声が聞こえるが、肝心の本人は顔が真っ青だ。
 すごい、私クラスメイトとして何度も接してたのに一度もこんな顔見たことないわ。

「ガウリ様!ワタクシ、ガウリ様の帰りが遅いから迎えに来ましたのよ!」

「マリア・・・こんな夜遅くに出歩くなんてダメじゃないか」

 声が震えてますよ?
 どれだけ彼女と会うのが嫌なのかしら?

「うふふ・・・それでこんな夜部に、どうして女性と一緒に歩いてるのかしら?」

「ルルシアのことか?彼女は友人だ、勘違いをーーーぶふぉっ!」

 ガウリ様が私の右を横切った。
 それもすごい勢いで。
 人が壁に埋め込まれるの初めて見たわ。
 そして前にはマリアと呼ばれる令嬢が、足を掲げている。
 パンツが見えそうなので、私は急いでグレンの目を隠した。

「ルル、なにすんだ!マリア様が目の前にいるのに!」

「目の前にいるからよ!スカートの中、覗く気!?最低!」

「あ、いや、そういうわけじゃ」

 わかってるけどね。
 グレンはそんな不誠実な奴じゃない。
 けど、なんかグレンがあの人のパンツを見るのはなんか嫌だった。

「ルルシアさん・・・でしたか?あなたも泥棒猫ですの?」

「泥棒猫!?」

「ガウリ様がかっこいいからって、寝取ろうとしてるのでしょう!?」

「いいえ、そんなことはございません」

「嘘おっしゃい!!」

 えぇ・・・過激って人の話を聞かないってこと?
 あとさすがに足を下ろしてほしいわ。
 目に毒だもの。

「成敗しますわ!」

 速い!?
 この国はほとんどが魔導士で、これだけ早く動ける人は滅多に見ない。
 私はグレンを横に押して、そのまま蹴りを避けて肘と腹で足をきっちり固めた。
 これでも騎士国家の帝国出身。
 護身術くらい身に着けてるわよ

「な!?受け止めましたの!?」

「そりゃ対応しますよ!?」

「俺を吹っ飛ばすなよルル」

 あ、とっさだったからグレンを突き飛ばしちゃった。
 それにしても彼女のこれは身体強化の魔法?
 
「あら、グレン様。それにルルって、もしかして・・・」

「そうだマリア」

 吹き飛ばされてがれきに埋まっていたはずのガウリ様が、首を鳴らしながら戻ってきた。
 でも無傷なのはすごいわね。
 流石だわ。

「いってぇなマジで」

「ガウリ様!大丈夫ですか!?」

「お前にやられたんだが・・・」

「ガウリ様が悪いのですよ。こんな時間に女性と歩いてるのだから」

「二人きりじゃなかったんだからいいだろうが!」

「いいえ、これは立派な浮気です!」

「あ、あのぉ・・・」

 二人の話を遮るのも悪いけど、私達を置いてきぼりにしないでほしい。
 でも、彼女の過激って意味も理解できた気がした。

「やめとけルル。マリア様は鬼嫁の二つ名を持つガウリの婚約者。鬼嫁はさっき実際に体感しただろ?」

 確かに、この国であの体術。
 それにガウリ様に対しての過剰な嫉妬心。
 まるで鬼神の如き勢いだったわ。

「そしてこれは王命だ」

「王・・・命?」

 それって王の許可がなきゃ婚約解消できないでしょう。
 ガウリ様、簡単に言ってたけど許可を得れたの?
 いや王命ってそう簡単に覆るわけないか。
 二人でひそひそと会話をしていたら、マリア様がニコニコとこちらを見てくる。

「あらあら・・・グレン様にも等々春が。ルルシアさんでしたか?申し訳ありません、大変な勘違いを起こしました。ワタクシはモーセ家長女、マリア・フォン・モーセと申します」

 さっきまでの剣呑な雰囲気が嘘みたいに、マリア様が礼儀正しく私に挨拶をしてきた。
 カーテシーをしてるし、誤解は解けたの?

「グレン様の大事な方とはつゆ知らず申し訳ありません」

「あ、いや・・・」

 グレンは罰の悪そうに空返事をした。
 え、大事な人じゃないの?

「あらあら。これは余計なお世話をしてしまったかもしれませんわ。ルルシアさん、どうかワタクシのことはマリアと呼び捨てにしてくださいな」

「あ、そんな失礼なことは」

「女同士、拳を交わした仲ですもの。ワタクシもルルシアって呼びますわね」

 拳を交えたと言っていいのかはわからない。
 でも初めての体験だ。
 女の子にこうやって、手を取るように言われるのは。

「あの、じゃあよろしくマリア」

 初対面は最悪だったが、私に同性で初めての友達が出来た。
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