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 脳天に電撃が直撃して再び立ち上がれる奴はそうはいない。

「殺したのか?」

「いいえ。殺すと言った割に、私には人を殺す勇気はなかったわ」

 情けないわ。
 彼女をここで殺さないと必ず脅威になるって頭ではわかってるのに。
 それでもいざ殺せる場面になったら脳震盪を起こすけど命までは取れない圧縮されたハクビシンしか打てなかった。

「貴族令嬢として生まれたんだから、命の取捨選択は必要な事なのにね。ましてや皇妃になってたらするはずでもあったのに・・・」

「お前はマトモに貴族令嬢として育ったわけじゃないから仕方ないだろ」

 グレンは笑いながら頭の後ろで腕を組んだ。
 
「まぁ殺さなくても別にいいんじゃねーの?そのドレスだけ破棄すれば」

「破棄は無理ね。彼女のドレス、傷一つついてないでしょ」

 おそらく破壊不可の何かが付いてる。
 魔力は感じないから魔法ではないのだろうけれど。

「では僭越ながら俺がトドメを刺しましょう」

「・・・お願い」

 少し悩んだ。
 グンジョーは恐らく殺しには慣れてるのよね。
 だからこそこの状況でも問題なく殺す選択ができる。
 グンジョーが手をかけようとするが、その場から飛び退いた。
 私達にもその理由はすぐにわかる。

「うっ・・・」

「脳震盪でもほとんど一瞬で治癒できるの!?」

 私の甘さで戦闘が継続することになる。
 自分で人を手にかけるのは忌避感を感じない訳ない。

「ルルシア・・・」

「ディーラ。貴女の負けよ。今度こそ貴女を殺すわ」

「・・・好きにしなさい」

「え?」

 今、好きにしろって言った?
 グレンとグンジョーも顔を見合わせてる。
 それほどまでに彼女が言うようなセリフには聞こえなかったと言うこと。

「貴女の電撃を頭に浴びた途端、私は何をやってるのだろうって思っちゃったのよ。それに私は殺されても文句が言えないことをしたわ」

「調子が狂うわ」

「さっきまで頭の中に靄がかかったかのようだったのよ」

「どういうこと?」

「最初にも言ったけど貴女が国を脱出する行動をしたときに、私は追いかけるように命じられていたわ。そして貴女をカイン様の下に連れていけと」

「えぇ聞いたわ。それは誰なのかとも」

「言えないわ」

「また貴女!」

「言えば、私は頭を破裂させられる。そういう魔法をかけられているの」

 え、魔法?
 それを命令した人物はこの国において魔法を使える?
 この国で魔法を使える人間は、私の他には陛下とアハト様とクロムウェル様の三人だけ。
 その三人が命じたと言うの?

「一体誰がそんなことを・・・」

「貴女がよく知っている人間よ」

「私がよく知る人間?ということは皇族の誰かってことね」
 
 アハト様がそう命令しても不思議じゃない。
 私を魅了魔法を使う魔女として追放した。
 一見助けるような行動も、ディーラに私が敵わないと判断しての行動と考えれば合点も行く。
 自分で人を手にかけようとする恐怖はたった今味わったもの。

「まぁこの国で他に魔法を使える人間はいないものね」

「でも腑に落ちないことがあります。彼女は我々三人で対処しても強力でした。そんな彼女を犠牲にするような魔法を仕掛ける理由はなんですか?」

 グンジョーの疑問ももっともだわ。
 剣婦はこの国において強力だわ。
 それをそんな命を奪ってまで拘束する理由が三人にあるとは思えない。
 まぁシュナイダーならそんなこと考えそうだけど、あいつは魔法が使えないわ。

「ねぇルルシア。貴女は私がカイン様に婚約破棄された理由は知ってるでしょ?」

「えぇ、直接見たわけじゃないけど知ってるわ」

「そのゴールドマリーに手を挙げたときも、私は今みたいに靄がかかってたわ。そして気づいたら、彼女を叩いてた」

 ってことはその靄の発生源はまさかゴールドマリー?
 彼女は精神系の魔法を使えたりするってことかしら?
 でも彼女が魔法を使えたって話は陛下からも、医療関係者からも聞いたことがない。

「その靄が一体何なのか調べる必要があるわね」

「ふふっ!私は、私は、こんなこと望んでなかった!貴女のことも魔女だって蔑んだことはなかった!でも、でも、あの人が、あの人が私に魔法を施したから!だから私は、魔女が許せない!」

 ディーラの様子がおかしい。
 錯乱してるけど、急にどうして?

「あははは!魔女がいるから、この国に魔女は必要ないわ!だから私は・・・!」

「ルル!離れろ!」

 ディーラの周りの砂が分散した。
 暴走してる!?

「あははははは!」

「これは、やべぇな。陛下やあの剣聖の息子と対峙したときと同じ感覚だ」

「これほどの人間が王国にもいるなんてな」

 グレンとグンジョも後ずさり始めてる。
 それだけ彼女から力が漏れ出てるんだ。

「ねぇルルシア!早く出てってよ!この国に魔女は要らないのよ!」

「言われなくても!貴女が止めなきゃ今頃王国に居たわよ」

「そうだったわね!ははは!あぁああああああああ!」

 ディーラは頭を押さえながら叫び始めた。
 そして力は更に強さが増している。

「ねぇ、ルルシア!なんで貴女はこの国から逃げたの?なんで?なんでよ!昔みたいにみんなで笑いあいたかっただけなのに!」

「逃げた?この国が私を追い出そうとしてるわよ」

「違うわ!数年前!貴女がこの国を出なければこの国はこんな状態にならなかったわ!」

「数年前留学に行く前の話?」

「そうよ!貴女が出て行ったことで、奴への抑止力はなくなってしまったの!」

「奴?貴女に魔法をかけた人のこと?」

「そうよ!貴女は、私達幼馴染の約束を忘れて!」

 約束?
 幼馴染?
 一体何のこと?
 
「約束っていったい何?ディーラ、私と貴女にそこまでの接点はないはずよ?」

「貴女は!いや・・・まさか!?」

 何かを悟ったようなそんな表情になるディーラに、私は困惑を覚える。
 幼馴染って、私は彼女とカインの婚約者以上での関わり合いはないはず。

「だからカイン様は・・・あはは・・・私はそれにも気づかないで・・・」

 ディーラの瞳から涙が溢れ出ている。
 今の彼女は情緒不安定だ。

「だから貴女は、私を殺せなかったのね・・・ねぇルルお姉ちゃん」

「ルル・・・お姉ちゃん?うっ・・・」

「どうしたルル!?」

 何故か頭が酷く痛む。
 なんで?
 どうして頭が痛むの?
 まるで自分の頭に雷撃が降り注いだような激痛が走る。

「ふふ・・・私は踊らされていたのね」

「いったい・・・何を?」

「私のしたことは許されないことだわ。私はこの数年間、罪のない人間を私欲の為に殺してしまった。それが剣婦の仕事だとしても・・・」

 頭痛で動けない中、私の意識が朦朧とし始める。
 ここで意識を手放してはいけない気がする。
 私は歯を食いしばって何とか意識を保った。

「ケジメはしっかりつけるわ。ルルお姉ちゃん」

「ディ・・・ラ」

「ははっ、やっと昔みたいに呼んでくれたわね。話たいことがいっぱいあるの。でも・・・」

 泣きながら笑いながら、彼女は私に微笑んでくる。

「ディラ、貴女は・・・」

「私はあの人にこれ以上利用なんかされてあげない」

 そういうと彼女は自分の胸に剣を突き刺した。

「ありがとうルルお姉ちゃん。短かったけど、最後に話せて、楽しかった!」

 次の瞬間彼女は舞踊の衣ごと爆散した。
 まるで彼女自身が自分に剣術で分散させたように。

「ディラ・・・うぅ・・・」

 わからない、わからないけど胸が・・・苦しい・・・
 それに涙が何故か止まらない。
 
「ルル!?」

「ルルシア様!?」

 グレンとグンジョの言葉を最後に、私はその場で意識を手放した。
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