上 下
5 / 10

第5話 神仙なる組織

しおりを挟む
 さぁ、あの巨大なオオカミから俺はどう逃げるのが正解だ。
 まず何より151番は間違いなく俺を狙ってくるのは確かだ。
 元から俺を殺しに来ていたし。

「この猿野郎!テメェからまずは潰してやる!」

「あーやっべぇ。看守さん、助けてーーー」

 看守一目散に逃げてやがる。
 おい、これなんとかしろよ。

「死ねやぁあ!」

「すいませんっしたぁああああ!」

 俺は一目散に土下座をした。
 こんなん無理!
 今まで平和な日本で暮らしてきた人間が、急に異世界に来てこんな巨大な生物と闘う?
 マジ無理。
 そもそも俺は拘束されていて動くことが出来ない。
 知性があるから土下座すればなんとかなるんじゃないかと可能性に賭けた。

「お前・・・プライドはないのか?」

「本当に私が悪かったです!申し訳ございませんでした!」

「必死過ぎて引くわ!」

 知らねぇし!
 命あっての物種。
 俺はどんな状態でもなんとかする。
 この現代より世知辛い日本ではこう言ったことで生き残るしかねぇ。

「あーまぁいいや。じゃあ俺はここから退散するわ」

「どうぞどうぞ」

 飛び上がって跳躍して空の彼方へと消えていった。
 地面が抉れるほどの跳躍・・・
 襲われなくてよかったぁ。

「それにしても、これ拘束を解けば脱獄できるな・・・」

「ダメよ、貴方なんの罪も犯して無いんでしょ?」

「え?」

 誰だこの美人な人は?
 プラチナブロンドの碧眼で、整った顔立ちに加えてすらっとしたスレンダーな身体。
 そしてこのけしからん乳!
 俺は思わず見取れてしまったが、首を振って考える。
 この人、看守の見た目をしていない。
 そして囚人でもない。
 つまり、得体の知れない何かってことだ。

「疑ってるのね坊や」

「坊やって俺は27歳なんだが?」

「なら坊やで間違いないわよ。ほらこれ?」

「尖った耳・・・エルフ?」

 この異世界日本は獣人だらけだったが、亜人の国とも取れる。
 だとすればエルフが居ても不思議ではないよな。

「エルフ・・・久々に聞いたよ。私は近藤ユウキ。神仙組と言う組織の長をしている」

「新撰組!?」

 新撰組の近藤って、近藤勇だよな!?
 しかも近藤って男だ。
 近藤の名前の勇は勇気の勇だ。
 つまりこの人は異世界の近藤って事か!?
 近藤がいるって事はここは江戸時代のパラレルワールドって事か?

「ちょっとニュアンスが違うけどそうよ。私は貴方の何が何でも生き残るって言うその精神気に入ったわ。貴方名前は?」

「俺は深山博人って言います」

「へぇ、ならヒロね。よろしくヒロ。貴方を神仙組へと招待するわ」

 俺は考えた。
 こんなトコロにあの巨体が居るなら来るって事はかなりの強者である可能性が高い。
 多分それなりの異世界ライフを送れる気がする。
 しかしこの世知辛い。
 元の世界の新撰組だって碌な最期を送れた人間は多くはないんだ。
 だから俺の出す答えはこうだ。

「ありがたい申し出ですがお断りーーー」

「拒否権はない!」

 近藤さんに鳩尾を思いきり強打され、俺の意識は闇へと堕ちた。
 断ろうとして、断り文句を言う前に意識を飛ばされた。
 やっぱりこの世界は世知辛い・・・
しおりを挟む

処理中です...