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第1話 告白と縁切り

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 今日、俺は片思いをしていた高校からの女友達に告白した。
 二人で飲んでて酒の場で勢い余って出てしまった。
 好きだった。
 彼女のこと以外どうでもいいと、友達との連絡も必要最低限で気が付けば29歳。
 俺の周りにはもうこいつしかいなくなっていた。
 だからだ。

「あんた、アタシのこと好きだったの?ウケるー、でもアタシ彼氏いて来月の彼の誕生日に入籍すんのよねー」

 俺は絶望した。
 彼氏いるなんて聞いてねーよ!
 なんなんだよチキショー!
 俺は告白したあと、泣きながら歩道を駆け抜けた。
 スマホを見ると彼女の”また今度飲みに誘うわー”と来ていた。
 いや、行かねーよ!
 
「くそぉおおおお!」

 俺、深山博人は不器用だ。
 だから友達との付き合いも必要最低限。
 大学は出たもののFラン大学で、所属している企業は休みが多い低賃金。
 俗に言うパープル企業社員という奴だ。
 よく時間があるんだからそこでスキルを磨けと言われるが、うまくいかないもんは仕方ない。
 副業をいくつかしてみたもののうまくいかず、気づけば来年で30代突入。
 晴れて魔法使いだ。
 
「何のために生まれて、何をして生きるのか・・・答えらんねぇよ・・・」

 俺みたいな無能が何をすりゃいいんだよ。
 スマホにあるメッセージアプリを見ると学生時代の同級生が自分の子供のアイコンにしてる奴がちらほらといる。
 それに知らん名前の人間もあるが、学生時代のグループチャットを見ると所属してるところから結婚した女の同級生だろう。

「酔い・・・すっかり冷めちまったな」

 俺は気が付くと、とある社についていた。
 地元では縁切り神社として有名な神社だ。

「アイツとの縁・・・切るか・・・」

 しかし縁切り神社は間違った解釈で縁を切りたい相手を殺してしまうこともあるという。
 軽い気持ちで行っていいものではない。
 好きだった相手だ。
 不幸になってほしいと言うわけでは決してない。
 願わくば彼女と幸せになりたかったそれだけだ。

「そうか、俺が死ねば彼女との縁は切れて確実に彼女へ被害はない」

 父も母も俺が死んだら悲しんでくれるだろうか?
 きっと悲しむだろう。
 でも失恋というのはそんなことを考える余裕がないほど、胸がはち切れそうなくらいに痛い。

「そうだ家族との縁も切ってもらおう。いや知り合いとの縁を切ってもらおう」

 そうすれば俺は誰にも気づかれることなく楽に逝ける。
 低賃金でこの先未来も望めず、孤独死していく運命。
 ならせめて若いうちにこの身を投げよう。

「さらば今世!願わくば来世では素敵な家庭を築けますように!」

 俺はそう願って神社の境内から身を投げた。
 そして例に漏れず俺も間違った解釈で縁を切られてしまう。
 俺と現代世界との縁が切られてしまった。
 身を投げていたつもりだった俺が目を覚ました先は、よくゲームで見るような広大に広がる草原だった。
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