神世界と素因封印

茶坊ピエロ

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60.殿下とは思えぬ行動

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 雨宮さんが氷の時計塔リョートクレムリンを使用したからここに来た師匠は、雨宮さんとのことも祐樹達のことも収拾がついたので、帝都に戻ろうとしていた。


「じゃあ儂は戻るな。仕事が山積みなんじゃ」


「あ、師匠。叔母さんってどうしてますか?」


 結局叔母さんは戻ってこなかった。
 何かあったのかとも思ったけど、叔母さんに何かあったなら師匠は俺に何か言うはずだし。


「香澄ならマーフィーが大けがしたから病院でつきっきりじゃぞ?なんじゃ、雨宮まだ伝えておらんかったのか」


「マーフィーくんが大けがしたことは伝えたんだけどな」


「バカモン!それで香澄の状況を察せられるか!マーフィーが大怪我をしてるなら香澄にも何かあったのかと思うじゃろが!」


「すまん、アンデルちゃん」


 実際そこまで考えてなかったとは言えない。
 けどまぁ無事ならよかった。


「まぁそういうことならよかった。ありがとうございます」


「儂は今回ほとんど何もできんかったがのぉ」


「いや、こうして駆け付けてくれるとわかるだけでも安心感覚えますよ。信頼してますから」


 俺は親指を立てて、笑ってみせる。時間が経てば救援の可能性があるってだけでも心に余裕ができるしな。


「そうかいそうかい。じゃあ儂は今度こそ戻るな」


「はい、叔母さんにも会ったらよろしく伝えて下さい」


「うむ」


 ニコニコしながら師匠は校舎を出て行った。そんなにうれしかったのか。


「さてじゃあ俺達は雨宮さんもいることだし自由時間かな?こんな状況で授業なんてできないだろうし」


「は!?何を言っ・・・」


「え、本当ですか?雨宮さんありがとうございます!」


 俺は雨宮さんにここの警備と祐樹達のこと全部押しつけるつもりで言った。
 そしてカナンさんもそれに乗っかってきた。
 よし、これでゴリ押そう!


「待て待て待て。俺は・・」


「助かるぞ雨宮」


「ありがとうございますわ、雨宮さん」


「殿下達まで・・・」


 雨宮さんは階級社会にどっぷり浸かっている。
 その中でもトップに君臨するルナトに頼まれたとあれば断れないだろう。
 ナイスだルナト。


「私たちは各々出掛けるからな。じゃあよろしく頼むぞ」


「護衛もなしでですか!?」


「ヨシュアとカナンも連れて行くつもりだったがどうした?」


「いえ、大将であるオレが護衛した方が良いのではないかと愚考します」


「大将として矜恃か?」


「いえそういったわけでは・・・」


 いや、単にここに一人残されるのが辛いだけだろ。
 ルナトも結構意地悪だな。俺が言えたことじゃないが。


「そうだな。じゃあ私に勝てたらいいぞ」


「勝つって一体?まさか殿下と模擬戦ですか?」


「いやそれは私が勝つに決まっているだろう?言っておくが戦闘力は大差ないが、速度はさっき和澄の何倍も速いぞ私は」


「さっきっていっても、俺は腹パンチしたとき以外でこれといった高速移動はしてないぞ?」


「それすら捉えられていないのに、私達に勝てると思うのか?」


「冷静なら経験則で捉えられると思ったけど」


 正直勝てるかどうかだと、判断迷うなぁ。
 雨宮さんも驚いちゃってるよ。


「殿下がカズちゃん並みに強いのはわかりました」


「じゃあ護衛はいらないな」


「えっ・・。ち、ち、ちがいます。立場をお考え下さい。それで何で勝てばいいんですか?」


 ルナトがすごい笑ってる。そんなに自信があるのか?


「ここに一枚のコインがあります」


「はい。なんで急に口調が変わったかはこの際おいておきます」


 ムッとした顔をするルナト。それだけで不満ってお前、短気か!


「はぁ。ノリが悪いな。まぁいいさ。お前がこのコインを投げる。私はそれを表か裏か当てる。私が外れたらお前の勝ち。ただのコイントスだ。簡単だろう?」


「確率1/2ですか・・・。わかりました。受けて立ちます」


 ルナト、本当にお前は意地が悪い。
 ルナトはコインを雨宮さんに渡す。


「じゃあ行きますよ」


 ――――チャリーン。コインが宙を回転して舞いながら、雨宮さんの手の甲に落ちて、コインが裏表わかる前に強制でもう片方の手で隠す。


「さぁどっちですか?」


「裏だ」


 雨宮さんは手を退けるとコインは裏面を上に向けていた。


「裏のようだな。では私の勝ちだ。お前はここで警備をしていろ」


「くっ・・・。はいわかりました。正々堂々と勝負して負けを認めないのは恥ですし」


 雨宮さん。こいつは正々堂々闘ってませんよ。


「さて、では行こうか。イヴ殿が戻るまでの自由な時間は貴重だ」


「ルナト・・・」


「とても国のトップがやるようなことじゃないね」


 モルフェさんの言うとおりだ。
 ルナトはおそらく、いや絶対<未来視フューチャーアイ>を使った。
 手が開かれた時の未来を視たんだ。
 どんなにがんばってももう表か裏か変えることのできない、手の甲に乗ったタイミングで使用したんだろう。
 それを俺とモルフェさんは理解していた。兄さんとカナンさん、そしてミナも、この時ばかりは冷たい目でみていた。


「ミナ、どうしたのですの?」


 俺の<未来視>を知らないソルティアは、ルナトが普通にコイントスをして勝負に勝ったと思っているのだろう。
 

「いやー、ルナトくんも結構良い性格してるなーって思って」


 やはりソルティアは疑問府を浮かべている。ソルティアくらいにならあとで<未来視>を教えてもいいかもな。


「何をしている。いくぞ」


「へいへーい。モルフェさんはどうする?」


「ついてくよ。君たち今回はデートというわけじゃないだろう?」


 女性陣達は照れている。ミナとデートはたしかにしたいけど!


「えぇもちろんです。モルフェさんが警戒するような人間が帝国内部にまだいるかもしれない。ミナやソルティアを守るには二人きりでいるのは余り望ましくありません」


「まぁなー。一人よりこれだけ人数がいた方が安全だし。ちょっと悔しいような悲しいような気持ちだけど!」


「まぁしょうがないさカズ。ミナちゃんやソルティア様になにかあったら辛いのはお前達だろ?」


「兄さんはカナンさんの心配はしないんだ」


「カナンは人付き合いに関しては心配すぎて困るけどな。戦闘になっても実力はあるからそこは安心だな。カナンは踊るような剣劇に目にも止まらぬ・・・」


「はいはい。わたしが恥ずかしいからやめようね」


「いてててて。悪かったカナン。離してくれ」


 カナンさんが耳を引っ張って兄さんの言葉を遮る。
 さすがだ・・・。俺には真似できない芸当だった。


「まぁこのタイミングでデートに行くって言ったなら止めたけどね。それでどこにいくんだい?」


「ブレードを保管している場所に」


「へぇ、これまたどうして?ちなみにミナはブレード適正を受けてるぞ」


「それはソルティアもだ。ブレード使いを殺したというならブレードがあるだろう?それにゴードン大将のブレードもだ。ブレードは死亡者が出ると、起動できる人がまた別で生まれるらしい」


「そう都合よく二人がブレード持ちになれるかね?まぁブレードを持ってる方が安心感はあるけどな」


「だろう?だからそれを確かめるためにブレードの保管場所である、帝都一等区にいく」


 帝都一等区と言えば、貴族だらけの所じゃねぇか。このクラスでも俺とミナは、祐樹やソルティア、ムラサキくらいしか友好関係が結べていないのに。


「そういうことなら僕もついていこう」


 そういって顔出したのはムラサキ。こいついつのまに。


「ルナトとソルティアだけじゃ、貴族の目が痛いだろう?」


「それは一理あるが、お前の目的もブレードだろう?」


「さすがルナト。僕もブレード適合者に選ばれたらなって思ったんだよね」


「モルフェ殿いいですかね?」


 モルフェさんはムラサキの上から下までみる。


「いいんじゃないかな?ムラサキくんかな?君、ブレードを手に入れたらお兄さんから爵位を奪えると思っているね?」


「・・・!?なぜそれを!?」


「事情は歩きながら話すよ。先に言っておくよ。君のやろうとしていることに、この子達が傷ついたら許さないからね?」


「モルフェさん・・・でしたか?それはありえません。むしろカズやミナみたいな平民が傷つかないために爵位を奪いたいんですから」


「まぁ知ってるけどね。僕は良いよルナト、彼も連れて行こう」


 ムラサキは疑問府を浮かべているが、いい顔をしてるな。
 正直一瞬、アメリカのスパイか疑ってしまったぞ。ごめんムラサキ!
 夢の世界ドリームワールドでモルフェさんは、他人の夢から色々なことができる。
 つまりムラサキの夢も確認済みで、ムラサキがやろうとしてることもすべてわかっているんだろう。
 ムラサキは一体何をするつもりなのか。


「そうですか。他のみんなはいいか?」


 全員首を縦に振る。まぁモルフェさんが大丈夫と言ったんだから安心だろう。
 こうして、俺達は帝都一等区に向けて歩き始めた。
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