神世界と素因封印

茶坊ピエロ

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55.仲直り?

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「俺は・・・負けたのか・・・」

 メアリーさんに治療されて立ち上がる雨宮さん。手加減したとはいえ気絶はほんの数分かよ。俺の全力パンチで気絶してないんだ。当たり前か。そうだ俺は大将に謝らないといけないことがあったんだ。


「雨宮大将、申し訳ございません。貴方の部下をバカにしたことは謝ります。本当に申し訳ありませんでした」


「き、貴様ぁ・・・」


 俺を今にも殴りかかりそうな勢いで睨み付ける雨宮さん。
 まぁ当たり前か・・・。俺結構酷いこと言ったもんな・・・。
 するとミナが雨宮さんの前に立ち思い切りビンタをかました。彼も何事かと頬を押さえて驚いていた。


「カズくんにそんな目を向けるのはお門違いもいいところです。カズくんを裏切り者扱い。まだ中等部の子供に対して恥ずかしくないんですか?」


「中等部だろうと子供だろうと関係ない。規律が・・・」


「それは誰の、何のための規律ですか?貴方のための規律ですか?私情を挟まなくても、あの場でベロニカを殺したとして、他の魔眼所持者が暴れ出さないと言えますか?」


「バカな!?だがそしたらオレが事態の鎮圧を行った」


「カズくん一人にも勝てないのにですか?」


「・・・」


 黙り込む雨宮さん。
 俺はそんなこと考えずに頭が堅かったから、このままだとベロニカを殺させるかと思って戦闘を始めた。
 煽ったのもルナトがこの人の頭の堅さをなおしたいって言ってたのを聞いたからだ。
 でも言われてみたら、ベロニカ達は兄妹同然の人間の命を任務より優先する奴らだ。あの場でベロニカが殺されていたらまず全員暴れ回っただろう。


「はぁ。雨宮よ、ミナの言うことはもっともだ。和澄が止めなかったらまずベロニカは死んでいただろう。そしておそらくミナの言ったとおりになっていた」


 黙ってルナトの話に頷く雨宮さん。自分より二回りも下の少女の激励になにも話すことができなくなったのだろうか?


「その場合、事態の収拾がお前一人でできたとは思えない。ましてや冷静さを欠いたお前なんて戦力にもならんな。なんせ一撃すら和澄に入れることができていないんだからな」


「オレは・・・部下を全員失って・・それで・・・」


「それで、気が立って、学園全体を巻き込むような技を出したんだな」


「・・・!」


 ルナトは手のひらを額に当てて首を振る。たしかに気が立っていたとしても、あれはやりすぎだと思う。
 雨宮さんは今にも泣きそうな顔になっている。大の大人が。それはそうか。
 おそらくこの人は部下を大切にしていたのだろう。そしてその部下を全滅させた人間の仲間が、規律を破っていたら神経質にもなるか。


「それで頭は冷えたのか?お前が今することはなんだ?和澄に言うことがあるだろう?」


「はい殿下。この度はもうしわけありませんでした」


 ルナトにそう言うと、今度は俺の方を向いて頭を下げる雨宮さん。この人、頭を下げれたんだな。最初の感じ自尊心の強い大将をイメージしていた。


「・・・悪かった。オレは冷静じゃなかった。そこの少女や殿下の言うとおり、あの場で捕虜を殺害していたら被害がどれくらい出ていたかわからない。部下を失って、その仇の仲間がいて気が立ってしまった」


「頭を上げて下さい。俺こそ部下の人達を、辱めるような真似をしてすいませんでした」


「ブラフ、はったりだろう?殿下が信頼しているんだ。そんなこと言うようなやつじゃないのはわかる」


「いえ、ブラフだろうと罵ったことに変わりはありません・・・」


 正直もう罪悪感がいっぱいだ。俺が雨宮さんと逆の立場だったとしてもおそらく雨宮さんと同じ行動は取らなかっただろう。しかし死んでしまった大切な人が罵られたら、さすがに怒りで我を忘れてこの人同じ末路を辿っていたと思う。


「じゃあお互いごめんなさいだな。そしてありがとう。君がオレを止めてくれなかったら、オレ自身が学園にいる人間に被害を出していた」


「はいすいませんでした。しかしあれはたしかにやりすぎだと思います」


 今、思うと氷を一瞬で溶かして、溶けて発生する水が蒸発したのはよかったな。砕いたり、ただ溶かしただけでもおそらく被害は出ていただろうし。


「あぁ自分でも理解しているよ。助かったよ。それにしてもすごかったな君の雷撃」


「あれですか。俺自身雷帝降臨テレヴルアドベントは初めての実戦使用で、成功したのは奇跡ですから」


 ぶっつけ本番だったけどよく成功したと思う。失敗していたらここに居る全員が何かしらの被害に遭ったと思うとゾッとするな。


「なぁ・・・お前オレの部下にならないか?」


「え?」


「真壁には世話になったしな。それにそれだけの実力があるんだ。学園なんかでくすぶっていては勿体ない」


「カズくんのお父さんを知っているんですか?」


 ミナが俺の右腕に抱きつき、雨宮さんに問いかける。


「あぁ君もさっきはありがとうな。おかげで頭が冷えたよ。真壁のことはよく知っているよ。元はオレの部下だった男さ」


 部下?もしかしてこの人は俺が生まれる前の父さんを知っているのか? 


「ということは父さんが小隊長になる前、帝国に移民として入国したころの話ですか?」


「あぁオレがまだ少将だったころの話だけどな。オレより年上の兄を引き取ってくれと、女帝に頼まれてね」


「女帝・・・カズくんの叔母さんの香澄さんのことですね」


「その通りだ。あの人には頭が上がらなくてね」


 そうだったんだ。叔母さんも日本人の小隊にいれば安心だと思ってのことだったのだろう。父さん達が日本から移民してきた頃にはもう、叔母さんは軍を退役してただろうしな。


「彼はすごい奴だったよ。戦闘力はそこまで高くないが策士でね。工夫と絡め手で敵を倒していた」


「父さんは運動神経自体あまりよくなかったですから」


「そうだな。死ぬには惜しい奴だった・・・あっ」


 俺の方を向いてやってしまったという顔をしている。なるほど、俺がまだそのことを知らないと思っているんだろうな。


「大丈夫です。話は聞いています」


「そうか。それでどうだい?オレの部下になってはくれないか?」


「それは光栄ですが、その申し出はお断りさせていただきます」


 残念そうな顔をする雨宮さん。しょうがないんだよ。俺はミナを守りたい。でも軍に入ったら帝国民全員を守らないといけないんだ。
 たしかにできるかぎり人は殺したくないし、無関係な人は守りたい。でもそれでミナが怪我したりするのは俺の本意じゃないんだ。


「頭は冷えたようで何よりだがそいつに何を言おうと無駄だ。そいつはミナが命を狙われる危険がある状況で軍に入ったりはしないぞ。まぁいずれは俺の右腕として軍に入ってはもらうがな」


 ルナトがそういう。みればソルティアが満面の笑みでルナトの左腕にしがみついている。


「そうですわね。戦争が起きてしまった以上、カズさんがミナから離れることはありえませんわ」


「おいおい。四六時中一緒って訳でもないぞ。トイレとか風呂とかは俺はついていかないだろうが!」


「それ以外の場所では一緒に居るんだな。差し詰めミナの騎士ってところか?」


「それいいなルナト。俺はミナの騎士だ」


「冗談だったのだが・・・」


 冗談だったのか?ミナは顔を赤くしている。やめてくれ俺も恥ずかしくなってくるじゃないか。


「君たちは仲が良いのだな。殿下やソルティア譲はともかく、君たちだけでもオレの部下にならないか?」


「雨宮さんも結構グイグイきますね。俺達は中坊でミナは戦闘力皆無ですよ?」


 雨宮さんは顔に笑みを作り答える。


「歳は関係ないさ。それにミナちゃんはブレード整備士だろう?オレは頼んだことないが名前は聞いたことあるよ。それにミナちゃんが近くにさえいれば、君は軍に入るのは問題ないって聞こえたんだが?」  


「くっ!それは屁理屈です」


 たしかにミナが近くに居れば安心はできる。けどそれが戦場ど真ん中なら話は別だ。危ないに決まってる。


「あぁオレは戦場には出ないぞ。先日部下を全滅させたからな。前線部隊への配置からは完全に外されたよ」


「それは一体どういう意図で話されました?」


「いんやー別に意図はないさ」


 そう言いながらも雨宮さんは顎を撫でながらニヤニヤしていた。この人、頭に血が上らなかったら相当頭切れるんじゃないか?


「カズくんの好きにしていいよ。戦闘力のないわたしでも入っていいって言ってるし、軍にいればカズくんが無理しないで済むし・・・」


「うーん・・・」


「あのさ。話してるところ悪いんだけど祐樹ちんのタオル貰ってもいいかね?」


 ベロニカが話しかけてくる。ナイスだベロニカ!話を逸らせる。しかしその考えは雨宮さんの一言で消える。


「ベロニカっつたか?アメリカ軍のお前に謝る気はない。が、タオルはオレが持って行こう。真壁の倅。カズちゃんって呼ばせてもらうぜ。お前達も来い。話の続きはタオルを届けたあとでな」


 くそっ!話を逸らせなかった!内心悪態吐くがとりあえずベロニカの要望に応えてやらないとな。
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